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2025.05.08

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第87回『店舗が譲渡された場合、チャージ残高の払戻が可能であるか』
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第87回
店舗が譲渡された場合、チャージ残高の払戻が可能であるか

李さんの家の近くに新しいエステサロンがオープンした。オープンセールがあり、定価の3割でサービスを享受できるので、李さんは2万元をチャージして会員カードを作った。その後、スキンケアのために数回エステに行った。本来1000元に値するサービス項目は会員価格でわずか300元であった。
ある日、李さんは当該店舗及びその店主が完全に変わったことに気づき、元店主に連絡したところ、「店舗を譲渡しており、工商機関で抹消登記を行った。新しい店舗において従来通り7割引で美容やエステサービスを享受でき、会員カードの残金も引き続き利用可能である。」と言われた。しかし、李さんは新しい店舗のサービスと設備に不満で、元店主に会員カードの残金19000元余りの払戻を要求した。元店主は払戻に同意せず、「この会員カードは使えないわけではないし、会員カードを作る時に契約書にはチャージ残高の払戻はできないと書いてある。どうしても払戻を要求するのなら、以前享受したサービスは全て割引前の1000元/回で計算し直して差し引く。」と主張した。李さんは納得できず、裁判所に訴えた。

 
『分析』:


美容、エステ、フィットネス、飲食娯楽など、ますます多くの分野でプリペイド取引が登場している。このような取引は、店主が変わったり、消費者がチャージ後に翻意したりすると、紛争を引き起こしやすい。このような事件には以下の問題がよく見られる。

一、契約での「チャージ残高の払戻はできない」という約定は有効であるか

通常、プリペイド取引の契約は店舗が提供し、契約条項は定型約款である。定型約款とは、契約を提供する当事者が繰り返し利用する顧客のためにあらかじめ作成する条項を指す。例えば、銀行業務、保険業務、ソフトウェアのダウンロード、各種の会員カードなど、通常締結する契約は定型約款に該当する。
この場合、定型約款は当事者の一方が事前に制定したもので、相手は内容を知らないため、公平の原則に基づいて法律では定型約款に対してより厳しい制限を加えている。相手の重要な権益に係わる内容については、明確に説明しなければならない。定型約款を提供する当事者が自らの責任を不合理に免れたり、軽くしたりし、相手の責任を重くし、相手の主要な権利を制限又は排除する場合は、無効な条項と見做される。例えば「販売後は返品も交換も不可である」、「人身傷害が発生した場合は自己負担となり、店とは無関係である」などの覇王条項(注:消費者に一方的な不利益をもたらす契約条項)。本件の「チャージ残高の払戻はできない」という定型約款は無効な条項に該当する。

二、 譲渡された店舗で引き続き会員カードを使わなければならないか

消費者が旧店舗で会員カードにチャージした後、双方間で契約関係を結んだ。旧店舗が主体として存在しなくなった場合、旧契約の履行は継続できなくなり、チャージ残高の払戻をするべきである。消費者が自発的に新店舗のサービスを受けない場合や、新店舗と新しい契約関係を構築しない限り、消費者は新店舗による契約の継続履行を受けなければならないという強制義務がない。そのため、本件の李さんは新店舗のサービスを拒否する権利がある。

三、どんな基準でチャージ残高の払戻をするか

チャージ残高の払戻をするときに、支払済の金額を如何に差し引くかについては、明確な約定がない場合に、通常、裁判官は落ち度によって判断している。消費者がチャージ後に一方的に翻意し、チャージ残高の払戻を要求しただけである場合は、消費者自身が違約したので、裁判官は店舗の経営コストなどを考慮し、割引前の価格を参考にして支払済の金額を再計算することができる。店主の変更、閉店などにより契約が履行できず、店舗が割引前の価格で支払済の金額の再計算を要求する場合は、消費者は割引後の価格で支払済の金額の再計算を要求する権利がある。

以上のことから、プリペイド取引において消費者も店舗も慎重に対処する必要がある。店舗は定型約款での重要な情報を明確に説明しなければならない。また、違約した場合に如何に違約責任を負うか、如何にチャージ残高の払戻をするかなどについて、双方は契約において公平かつ合理的な約定を行わなければならない。


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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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