2025.01.28
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第85回『 「ウィチャットモーメンツ考課制度」の正しい捉え方』
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第85回
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『「ウィチャットモーメンツ考課制度」の正しい捉え方 』
製品を普及し、販売範囲を拡大するために、ある会社の上層部は、「全従業員が毎日ウィチャットモーメンツにより会社の関連製品の情報、宣伝広告文章をリツイートしなければならない。理由もなく1週間連続してリツイートしない場合、重大な規律違反と見做され、会社は労働契約を解除する権利がある。」という制度を制定した。倉庫担当者の李さんは、「製品の普及は営業担当者の仕事であり、自分の仕事とは無関係だ」と思ってリツイートしなかった。意外にも最近、会社は「規則制度に著しく違反した」として李さんに労働契約解除通知を出した。李さんは会社による違法解除だと考え労働仲裁を申し立てた。
『分析』:
本件の焦点は、規則制度に非合法、不合理な状況があるか否かを判断することにある。
一、規則制度は民主的な手続きを経て制定し、かつ労働者に公示や告知を行わなければならない。
『労働契約法』の規定によると、雇用企業は労働報酬、労働時間、休憩休暇、労働規律、労働ノルマ管理など、労働者の切実な利益に直接関わる規則制度又は重要事項を制定、変更、決定するときに、従業員代表大会又は従業員全員の討論を経て試案と意見を提出し、労働組合または従業員代表と平等に協議して確定しなければならない。雇用企業は労働者の切実な利益に直接関わる規則制度と重要事項の決定を労働者に公示又は告知を行わなければならない。当該規定から見て、規則制度は民主的な手続きを経て制定し、かつ従業員に公示または告知を行った上で合法性がある。そのため、労働紛争が発生した場合、司法機関は規則制度の制定手続きが合法であるか否か、労働者に告知を行ったか否かを審査する。
二、規則制度の内容は合理性がなければならない。
規則制度は情理にかなっていなければならず、労働管理の範囲を超えて無制限に拡大したり、さらに労働者の合法的権益を侵害したりしてはならない。実務において、民主的な手続きを経て制定した規則制度はすべて合理性があるわけではない。その原因は2つある。
1、労働者と雇用企業の間に明らかな使用従属関係があり、雇用企業が規則制度の制定・改正において強い地位にあるので、規則制度の内容が合理性を有しないことを招く可能性がある。
2、会社は経営管理の自主権を行使する時に生産経営の必要性により、規則制度の内容を仕事に関わるものに限定するのではなく、従業員の職位、仕事内容と無関係な事項を規則制度に盛り込むこともあるので、従業員の合法的な権益を侵害する可能性がある。そのため、労働紛争が発生した場合、司法機関は規則制度の内容に合理性があるか否かを審査する。
ウィチャットは個人的なソーシャルコミュニケーションツールに属し、従業員がウィチャットモーメンツの投稿内容を自主的に決定するべきであり、会社が干渉・強要するべきではない。本件において会社は民主的な手続きを行わずに制定した規則制度に基づいて、従業員にウィチャットモーメンツにより製品宣伝内容の投稿を強要し、さらにウィチャットモーメンツにより関連内容を投稿しない従業員に対して労働契約解除の処分を行った。裁判所は審理の上、「会社の規則制度は民主的な手続きを行わずに制定したもので、かつ内容には合理性がない」と判断し、「会社による労働契約の違法解除に該当する」と判決を下した。
会社が「ウィチャットモーメンツ考課制度」を制定する場合、その内容は合理性がなければならず、適用範囲を職位、仕事内容が投稿内容に関係する従業員に限定する。又、「強行規定、懲罰規定」を「鼓励規定、奨励規定」に調整し、「ウィチャットモーメンツの投稿任務を遂行しない場合、賃金の支払いを押さえるか又は労働契約を解除する」という規定の代わりに、「ウィチャットモーメンツの投稿任務を遂行した場合は、一定の奨励を与える」という規定を制定する。この場合、関連制度は民主的な手続きを経て制定し、従業員に公示・告知を行った後、従業員は「リツイートを迫られる」から「自発的にリツイートする」になり、これによって紛争を避けることができる。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員