国別情報一覧

HOME > 国別情報一覧 > 中国 > 詳細

国別情報一覧

2024.08.16

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第81回「有給の傷病休暇期間の賃金を如何に確定するか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第81回
『有給の傷病休暇期間の賃金を如何に確定するか』

曹さんとA社は労働契約を締結しており、2023年6月、曹さんは仕事中に設備で左手を負傷し、同日入院して治療を受け、病院は「休職6か月が必要である」などを記載した診断書を発行した。その後、A社所在地の社会保障局の認定により、曹さんは労災と認められた。曹さんが事故で負傷し、治療のために仕事を一時停止する期間内に、A社は曹さんの2023年6月、即ち労災発生前の12か月の平均賃金(残業代を含まない)を基に、曹さんに有給の傷病休暇期間の賃金を支給した。曹さんは「A社が残業代を除いたため、有給の傷病休暇期間の賃金が減らされた」と判断し、労働仲裁を申し立て、「A社が有給の傷病休暇期間の賃金の未支給分を支給する」ことを請求した。
 
『分析』:


労働人事争議仲裁委員会は「残業代は労働者が通常の仕事を超えて労働を提供した場合に支給される賃金であり、曹さんは有給の傷病休暇期間に通常の労働を提供しておらず、残業代は算入されるべきではない。従って、有給の傷病休暇期間の賃金基準には残業代が含まれるべきだという曹さんの主張は法的根拠がなく、認められない。」と判断した。

曹さんは当該仲裁の裁決に不服で、訴訟を提起した。一審裁判所は、「有給の傷病休暇期間制度の目的は、労災従業員の医療期間における生活基準が労災による影響を受けないことを保障する。『労災保険条例』第33条には、「有給の傷病休暇期間中、元の賃金や福利待遇は変わらない。」と規定している。曹さんは労災により通常通りに出勤して残業代を得ることができないので、公平の観点から、曹某負傷前の12か月の平均賃金(残業代を含む)を有給の傷病休暇期間の賃金の計算基準とすることは不適切ではない。」と判断し、「A社が曹さんに有給の傷病休暇期間の賃金の未支給分を支給する」と判決を下した。

本件係争の焦点は、有給の傷病休暇期間の賃金基準には残業代が含まれるか否かである。『労災保険条例』には明確な規定がなく、各地の司法実務には2つの意見がある。1つの意見は、有給の傷病休暇期間の賃金待遇は性質において、労働者が通常通りに労働を提供して得る報酬に該当し、残業代は労働者が別途労働を提供して得る収入であり、通常の労働時間の賃金範疇に属さない。また、有給の傷病休暇期間中に残業が発生する可能性もないため、有給の傷病休暇期間の賃金基準には残業代が含まれないというものである。上海市、浙江省はいずれも当該意見を持っている。

もう1つの意見は、元の賃金福利待遇は労災従業員負傷前の12か月の「平均賃金福利待遇」を指し、残業代も賃金の範疇に属し、かつ労働者が労災事故による傷害で通常通りに出勤して残業代を得ることができないため、有給の傷病休暇期間の賃金基準には残業代が含まれるというものである。広東省は当該意見を持っている。

以上のことから、有給の傷病休暇期間の賃金基準には残業代が含まれるか否かについては、地方によって裁判の原則が異なる。アドバイスとしては、雇用企業は労働者の有給の傷病休暇期間の賃金を確定する際に、所在地の裁判例の原則に準ずるべきである。所在地には参考になる裁判例がなければ、労働者と協議した上で確定するか、又は労働者負傷前の12か月の平均賃金(残業代を含む)を有給の傷病休暇期間の賃金の計算基準とする。


【直近記事】
陳弁護士の法律事件簿第78回「AIにより故人を「復活」させることは違法であるか」
陳弁護士の法律事件簿第79回「一方的な減給はどうすれば合法的かつ合理的になるか」
陳弁護士の法律事件簿第80回「新『公司法』における会社抹消登記の種類
【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

前のページへ戻る

  • セミナー&商談会のご案内
  • アジアUPDATE
  • 国別情報一覧

PAGETOP