2025.02.21
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第86回『 ブラインドボックスが気に入らない場合は、返品・返金してもらえるか』
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第86回
-
『ブラインドボックスが気に入らない場合は、返品・返金してもらえるか』
李さんはバスケットボールファンであり、ある日ライブコマースで、スター選手のサイン入りの運動靴のブラインドボックスを6000元で販売していた。その際キャスターがブラインドボックスを開け中身がわかるので、当該ブラインドボックス販売により好きなスター選手のサインを得た買主が多いことを知った。李さんはキャスターにジョーダンのサイン入りの運動靴の有無を尋ね、キャスターは「ジェームズのサイン入りの運動靴があることを知っているだけで、他に誰のサインがあるのかはっきりしない」と答えた。
李さんは運試しに買ってみようと決めた。商品リンクをクリックすると、商品詳細ページでは靴箱の包装を表示し、「未成年者による購入を禁止し、開封後に返金・返品・交換などを認めない」などを赤字で示している。キャスターはライブコマースにより李さんと上述の購入時の注意事項を再確認し、李さんは注意事項に納得したと返事し、キャスターはブラインドボックスを開けた。しかし、その中の商品にあるサインは李さんの好きなスター選手のサインではなかった。李さんは引き続き5回購入したが、いずれも好きなスター選手のサインをもらえなかったので、だまされたと感じ、プラットフォームに返金を申請した。売主は「ブラインドボックスはもともと不確実性があり、事前に李さんにリスクを説明して納得してもらったので、返金を認めない」と主張した。李さんは裁判所に訴訟を提起した。。
『分析』:
近年、ブラインドボックス取引は様々な形で市場に登場している。2023年6月、国家市場監督管理総局は『ブラインドボックス経営行為規範ガイドライン(試行)』を公布し、ブラインドボックス経営を規範化した。
一、ブラインドボックス経営とは
ブラインドボックス経営とは、事業者が適法な経営範囲内で、商品やサービスを特定する範囲を事前に消費者に知らせるが、商品の具体的な型番、デザインやサービス内容を知らせずに、インターネット、実店舗、自動販売機等を通じて、ランダムに選択する方式を取り、特定する範囲内の商品やサービスを販売するビジネスモデルを指す。
二、どのような商品がブラインドボックス販売に用いられるか
ブラインドボックスは通常、日常生活、文芸娯楽などの分野で利用されている。ブラインドボックス販売に用いられる商品は事前に許可や認証の取得を必要とする商品(例えば、食品、化粧品、3C認証の取得を要する玩具など)であれば、関連資格を取得しておかなければならない。法令により販売・流通が明確に禁止されている商品は、ブラインドボックスで販売や提供してはならない。医薬品、医療機器、有毒有害物品、可燃物・爆発性物質、生体動物など、使用条件、貯蔵輸送、検査検疫などにおいて厳しい要求を満たさなければならない商品も、ブラインドボックスで販売してはならない。食品、化粧品は、品質の安全と消費者の権益を保障するという前提条件を満たさない限り、ブラインドボックスで販売してはならない。
三、ブラインドボックスの価格を如何に設定するか
ブラインドボックスの価格を明示しなければならず、明示されていない費用を受け取ってはならない。一部の人気のあるデザインであっても、売主は正札に付けた価格を吊り上げてはならない。ブラインドボックス販売に用いられる同じ系統に属する商品はそれぞれのデザインが異なり、規定により同じ系統に属する商品のコスト差は大きすぎてはならないので、ブラインドボックス販売に用いられる商品の価格と市販の同類のブラインドボックス販売に用いられない商品の価格との差は大きすぎてはならない。
四、消費者にどのような情報を明示して告知する必要があるか
『製品品質法』などの法令に基づき商品の基本情報を表示するほか、ブラインドボックスの場合は、商品名、商品の種類、商品の様式、抽出規則、商品の分布、限定商品の市場投入量、抽出確率、商品価値の範囲などの重要な情報を明確な方式で対外的に公示し、消費者が購入前にそれらの情報を知っていることを保証する必要もある。
五、ネット通販で購入したブラインドボックスは7日間理由無しでの返品を適用できるか
ブラインドボックス事業者が十分に告知・注意を行い、かつ消費者が購入する際に確認した場合は(デフォルトのチェック方式で消費者の確認を代替してはならない)、ネット通販で販売されるブラインドボックス商品は開封後に7日間無理由での返品を適用しなくてよい。未開封のセット商品を販売し、当該セットに属する商品がはっきりと確定できる場合、事業者は法によりネットショッピングの7日間理由無しでの返品規定を実行しなければならない。
六、どのような者がブラインドボックス販売対象者にならないか
ブラインドボックス事業者は8歳未満の未成年者にブラインドボックスを販売してはならない。8歳以上の未成年者にブラインドボックスを販売する場合は、法により保護者の同意を得たことを確認しなければならない。ブラインドボックス事業者は、8歳以上の未成年者がブラインドボックスを購入するには保護者の同意を得なければならないことを明確な方式で知らせるものとする。
本件において裁判所は、「売主は商品詳細ページ及びライブコマースにより、商品にサインをした具体的なスター選手、抽出確率、市場投入量及び範囲などを明確にしておらず、販売価格は明らかに高すぎて、ブラインドボックス経営の特徴に合わないので、一般的な商品経営と認定すべきだ」と判断し、「李さんは返金・返品を申請する権利がある」と判決を下した。以上のことから、ブラインドボックス販売には特殊性があり、売主は規範を厳守しなければならず、消費者は自制心を持って理性的に購入するべきである。ブラインドボックス購入時に、規定違反、虚偽宣伝、偽物・不良品などを発見した場合、権利を守るために、消費者は証拠を保留するべきである。
【直近記事】
○陳弁護士の法律事件簿第83回「損をしたら事業主が負担、儲けたらパートナーで均等に分ける」とはどのような提携か」
○陳弁護士の法律事件簿第84回「インターネットにおける「いいね」は違法になり得る」
○陳弁護士の法律事件簿第85回「「ウィチャットモーメンツ考課制度」の正しい捉え方」
- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員