2024.12.13
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第84回『 インターネットにおける「いいね」は違法になり得る』
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第84回
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『インターネットにおける「いいね」は違法になり得る 』
夫婦である楊さんと張さんは普段、各プラットフォームでショート動画を見るのが好きである。二人は、ショート動画の「いいね」、「リツイート」、「通報」の数がショート動画のインプレッション数と話題の注目度に直接関係することに気づき、それを「金儲けの術」とし、大量のアカウントを登録し、有償で委託を受け、ネット上の動画、文章、商品などを操っている。具体的には、大量の「リツイート」、「コメント」、「いいね」を通じて関連コンテンツにポジティブ若しくはネガティブな評価を増やしたり、集中的な通報などを通じて指定対象に打撃を与えたりし、これによって関連コンテンツが削除・ブロックされ、トラフィックが制限されるという方法で世論を左右している。当該方法により、多くの映画作品、ネットゲーム、ライブ、インフルエンサー、店舗などからの依頼を受け、高額な収入を得ている。二人は、ただ「いいね」をクリックし、トラフィックを増やし、プラットフォームに通報しているだけで、不適切な発言をしていないので、法的責任を負わないと考えているが、意外にもこのような行為は法律に違反している可能性がある。
『分析』:
インターネットの急速な普及に伴い、インターネットプラットフォームには大量のネット水軍(注:ネット上の世論を左右するコメントを投稿することで報酬を得る人)が現れている。これらのネット水軍は報酬を受け取り、依頼者の指示を受け、一般ユーザーになりすまして指定コンテンツを投稿したり、操ったりし、ネットワーク環境に大きな影響を与えている.。
『サイバーセキュリティー法』には、「いかなる個人も組織もインターネットを利用する際、憲法と法律を遵守し、公共の秩序を守り、社会道徳を尊重しなければならない。サイバーセキュリティーを脅かしてはならず、インターネットを利用して……虚偽の情報を捏造・拡散すること、経済秩序と社会秩序を乱すことをしてはならない……」と規定している。
『ネットワーク情報コンテンツ生態管理規定』には、「情報の発表、削除及びその他の情報表現に介入する手段を通じて、他人の合法的権益を侵害したり、不正利益を獲得したりしてはならない。人工的または技術的手段を通じて、トラフィックの偽造、トラフィックのハイジャック、虚偽アカウントの登録、アカウントの不正取引、ユーザーアカウントを操るなどの行為を実施してネットワークの生態秩序を破壊してはならない。」と規定している。
『インターネットスレッドコメントサービス管理規定』には、「スレッドコメント」の規範について、「スレッドコメントとは、ユーザーがウェブサイト、アプリケーション、その他の世論に関連して社会に働きかける機能を有するプラットフォームにおいて、コメント、返信、メッセージ、弾幕 (動画上で流れるコメント)、「いいね」などの方法で、文字、記号、絵文字、画像、音声、動画などの情報を発表することを指す。」と規定している。
上述のインターネットプラットフォームにしても、ユーザーにしても、スレッドコメント情報の発表、削除、推薦、およびソフトウェアを利用し、機構や人員を雇って情報を拡散させるなど、スレッドコメント情報の表現に介入する手段を通じて、他人の合法的権益や公共の利益を侵害し、不法利益を獲得し、悪意を持ってスレッドコメントの秩序を妨害し、世論をミスリードしてはならない。
スレッドによって虚偽の情報を捏造・拡散するという一般的な違法行為のほか、上述の規定では、スレッドの削除、「いいね」の推奨、その他の方法による情報表現への介入、トラフィックの偽造、トラフィックのハイジャック、虚偽アカウントの登録など、グレーゾーンに属する行為も違法の範囲に含まれている。特定コンテンツの集中的な高頻度のリツイート、「いいね」又はクレーム、通報を人為的に介入することは関連コンテンツの表現に直接影響を与え、これらのコンテンツの人気の急増又は急減をもたらすからである。意図的に不誠実な評価は、関連コンテンツの真実性に直接影響を与え、特定の商品や映画作品などに対する虚偽の好評や「いいね」は消費者を騙すことに該当する。これらの行為は、インターネットの秩序を妨害・ミスリードし、経済秩序と社会秩序に影響を与えるため、いずれも違法行為になる。
以上のことから、通常のインターネットユーザーが本当の意思表示のために、リツイート、コメント、「いいね」をすることは他人を明らかにミスリードしない場合、違法行為にならない。他人に委託したり、他人の委託を受けたりし、上述の法律で規定された禁止行為を行う場合は法的責任を負う。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員