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2025.07.24

【中国】陳弁護士の法律事件簿/第88回『インターネットでキャンセル不可の客室を予約した場合は、キャンセルできるか』
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第88回
インターネットでキャンセル不可の客室を予約した場合は、キャンセルできるか

李さんは夏休みに旅行に出かけることを決め、スマホアプリでAホテルのオーシャンビューの客室を予約した。予約時にウェブページに掲載されている「特別室なので、予約後はキャンセル不可であり、かつ予約時にすべての宿泊料を支払う必要がある。」の注意書を見て、李さんは6000元を支払った。しかし、チェックインの前日、旅行計画が変わったため、李さんは予約をキャンセルし、かつ支払済みの宿泊料の返金を求めようとした。ホテルは「キャンセル不可の注意書を事前に明確にしている」ことを理由にキャンセルに同意しなかった。李さんは納得できず、「1日も泊まらなかったのに、全額の宿泊料を支払うのは不合理だ」と判断し、訴訟を提起した。

 
『分析』:


インターネット技術の発達に伴い、スマホアプリを通じてホテルを予約する人が増えている。ハイシーズンに客室が不足することに鑑み、一部のホテルは、予約キャンセルによる損失を防止するために、「予約後はキャンセル不可」と声明している。通常、「予約後はキャンセル不可」という声明は、ホテルが一方的に設定する定形約款に該当する。定形約款が有効であるか否かは、以下の点によって決められる。

一、定形約款に対する注意義務

消費者が予約時にはっきり分かるように、ホテルは予約ページにおいて目立つ方式(例えば、ハイライト、太字、ポップアップなど)で「キャンセル不可」を表示するものとする。例えば、予約確認ページに、「キャンセル不可」のルールが目立つフォントで単独で掲載されており、消費者が「閲覧の上同意したことを確認する」旨のボタンをクリックしなければ、「次へ」ボタンをクリックできない場合、ホテルは注意義務を果たしていると考えられる。ホテルが注意義務を果たしていない場合、例えば、「キャンセル不可」の条項を冗長な文章の中に紛れ込ませ、目立つ方式で表示しておらず、消費者が気づきにくい場合、「キャンセル不可」の条項は消費者に拘束力を有しない。

二、契約当事者双方の権利と義務が対等である

公平の原則に従ってホテルと消費者の権利と義務を確定し、かつ双方の権利と義務を配分するときに均衡を保つものとする。例えば、「キャンセル不可」の客室は他の客室より明らかに安くする。消費者は「キャンセル不可」という条件の制限を受けることで、低価格で予約する一方、ホテルは利益を減らすことで、客室の稼働率を保証する。この場合、通常、双方の権利と義務は相対的にバランスが取れており、「キャンセル不可」の条項は有効であると見做される。

三、消費者の責任を不当に重くする状況がない

ホテルは消費者のキャンセル行為の責任の大きさや、ホテルに実損を与えたか否かを十分に考慮し、状況によって処理するものとする。消費者が予約してから1時間以内にキャンセルしたら、ホテルが依然として客室を再販売できるので、消費者に全額の費用を負担させる場合、裁判所は「不合理に消費者の責任を重くした」と判断する可能性があり、「キャンセル不可」の条項を無効と認定する可能性がある。そのため、より合理的にするために、ホテルは消費者の予約キャンセルの時点、又はキャンセルからチェックインまでの経過時間などの要素に基づき、異なるレベルや割合でキャンセルポリシーを設定することができる。
本件において、裁判所は消費者の過失程度、ホテルの実損状況、消費者のキャンセル原因などを総合的に考慮して情状を酌量した上で、ホテルに80%の費用を返金するよう命令した。以上のことから、消費者はこのようなトラブルに遭遇した場合、まずホテルやプラットフォームと協議してよい。協議しても合意に至らない場合は、消費者協会に苦情を申し立て、又は証拠(例えば予約ページのスクリーンショット、話し合いの記録など)を収集して訴訟を通じて権利を守ってよい。裁判所は条項の合理性、双方の契約履行状況などに基づいて効力と責任を判定する。又、ホテルは予約キャンセル・変更の管理を規則化するべきである。


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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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