2021.02.02
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第51回「株主が個人名義の口座により会社の取引代金を受け取る場合の責任」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第51回
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『株主が個人名義の口座により会社の取引代金を受け取る場合の責任』
A社は祝日や休日の送金・入金の便宜を図るために、株主3人全員の同意を得た上で「株主の張さんの個人名義で口座を開設し、取引先への送金及び取引先からの入金受取に用いる。カードは会社の財務部が保管・使用し、暗証番号は張さんが管理する。」と株主総会決議を下した。
その後、A社と取引先のB社の間で貨物代金について紛争が起こり、これを契機にB社は、A社は株主の張さんの個人名義の口座により貨物代金を受け取ることが多いことを知り、「A社の当該行為は、株主の張さんの個人資産とA社の資産との混同を引き起こしやすい」と判断した。A社に対し訴訟を提起し、「株主の張さんがA社の債務に対して連帯責任を負う」ことを請求した。
『分析』:
1、会社の資産について、いかなる個人名義であっても口座を開設して預金してはならない。
会社が受け取る貨物代金、サービス費用などの営業収入は会社の資産に該当する。『会社法』第171条第2項の規定によると、会社の資産について、いかなる個人名義であっても口座を開設して預金してはならないと規定している。
当該規定は法律の強行規定に該当し、主に以下の2つの目的がある。
①債権者の利益を保護するとともに、株主、高級管理職又は支配人が会社法人の独立的地位を濫用し、会社の財産を移転し、債務を逃れることを防止する。
②会社運営における脱税・申告漏れの行為を抑止する。会社と株主はいずれも当該規定を遵守しなければならない。
2、法定条件を満たしている場合に、株主は会社の債務に対して連帯して弁済責任を負う。
『会社法』第20条第3項には、「会社の株主が会社法人の独立的地位及び株主の有限責任を濫用して債務を逃れ、会社の債権者の利益を著しく損なった場合は、会社の債務に対して連帯して責任を負わなければならない。」と規定している。
当該規定からみて、株主が会社に対して連帯して弁済責任を負う場合は、以下の3つの要件を満たさなければならない。
①株主が会社法人の独立的地位及び株主の有限責任を濫用する行為を行った。
②株主が債務逃れのために上述の行為を行った。
③株主の上述の行為が会社の債権者の利益を著しく損なった。
『会社法』の関連規定によると、一人有限責任会社の場合にのみ、立証責任の転換、即ち相手方が立証責任を負うという原則を適用し、株主の個人資産と会社の資産との混同を招かないことを株主が自ら立証する。一人有限責任会社以外の場合は、株主の個人資産と会社の資産との混同については、債権者が立証責任を負う。
3、上述の1に記載した規定に違反した場合は、必然的に株主が会社の債務に対して連帯責任を負うとは限らない。
実務において、株主が個人名義の口座により会社の代金を受け取る場合は、会社の財産を移転し、債務を逃れ、又は脱税・申告漏れと疑われるが、必然的に株主が会社の債務に対して連帯責任を負うとは限らない。
具体的に言えば、株主が会社の債務に対して連帯責任を負う場合の法定条件を満たすか否かは、当該株主の個人名義の口座の利用頻度、株主が個人名義の口座により受け取った代金は事実通りに会社の会計帳簿において完全に記載されたか否か、関連税金について申告を行ったか否か、及び株主の個人名義の口座により受け取ったか又は支払った会社の代金を株主が私用に用いたり、横領したか否かなどの要素を総合的に考慮して判断する必要がある。
本件において、A社の株主総会決議は『会社法』の規定に違反している。但し、株主の張さんはその個人名義の口座における代金を使用したことがなく、全ての代金受取・支払はA社の会計帳簿に記載されており、B社は張さんの個人財産とA社の財産との混同を立証できなかったので、立証不能の責任を負う。最終的に裁判所はB社の「株主の張さんがA社の債務に対して連帯責任を負う」という請求を認めなかった。
本件の株主の張さんは最終的にA社の債務に対して連帯責任を負わなかったが、紛争を回避するために、会社は財務管理制度を厳格化し、法令を遵守しなければならない。また、会社と株主はいずれも、会社の代金を株主の個人名義の口座に預金することを認めるべきではない。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員