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2020.09.28

ベトナムベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第59回『新投資法・新企業法の成立』
【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第59回
このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights115号(20209月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
 
◇ベトナム:新投資法・新企業法の成立
 
ベトナムにおいて事業を行う外資企業にとって特に重要な法律である2015年施行の投資法(「現行投資法」)と企業法(「現行企業法」)について、2020年6月に改正法(Law No.61/2020/QH14:「新投資法」、Law No.59/2020/QH14:「新企業法」)が成立しており、2021年1月1日より施行される予定です。以下、新投資法と新企業法での改正点の中で特に重要と思われる内容をご紹介します。
 
(1) 新投資法の主な改正内容
 
(a) 投資禁止分野・条件付投資分野等の変更
投資法上、(i) 事業投資が禁止される投資禁止分野と(ii) 投資を行う場合に法令等で定められる一定の条件を満たす必要がある条件付投資分野が定められているところ、新投資法では、この投資禁止分野と条件付投資分野の範囲が変更されます。すなわち、投資禁止分野については、現行投資法上の投資禁止分野(麻薬、人身売買等に関する事業)に加えて、新たに債権回収事業(debt recovery business services)が追加されます。また、条件付投資分野については、新たにデータセンターサービス等が追加される一方で、フランチャイズ等が削除され、全体としては現行投資法上の243分野から227分野に減少する予定です。
上記に加え、新投資法では、政府に対し、外国投資家の参入が禁止される事業分野及び条件付きで外国投資家の参入が認められる事業分野について、外資出資比率、投資形態及びその範囲等を定めたリストの作成義務を課す規定が新設されています。どのようなリストが作成されるかは今後制定される政令等を待つ必要がありますが、外資規制についてWTOコミットメントや国際協定を個別に参照しなければならない現状と比べ、より明確に外資規制の有無・内容を判断できるようになることが期待されます。
 
(b) 外資規制が適用されるベトナム法人の範囲の拡大
現行投資法上、一定の基準に該当するベトナム法人(「みなし外国投資家」)は、他のベトナム法人の設立や出資等の場面において外国投資家と同様の外資規制が適用されます。新投資法においてもこの枠組みは維持されていますが、当該基準における出資比率が「51%以上」から「50%超」に引き下げられ、外資規制が適用されるベトナム法人の範囲が拡大されます。
 
現行投資法 新投資法
以下のいずれかに該当するベトナム法人
(i) 外国投資家の出資比率51%以上
(ii) 上記(i)のベトナム法人の出資比率51%以上
(iii) 外国投資家及び上記(i)のベトナム法人の出資比率51%以上
以下のいずれかに該当するベトナム法人
(i) 外国投資家の出資比率50%超
(ii) 上記(i)のベトナム法人の出資比率50%超
(iii) 外国投資家及び上記(i)のベトナム法人の出資比率50%超
 
(c) M&A承認が要求される要件の変更
外国投資家又はみなし外国投資家(「外国投資家等」)がベトナム法人(「対象会社」)に関するM&A取引(出資又は株式/持分の譲受け)を行う場合で、一定の要件に該当する場合には、取引実行前に計画投資局よりM&A取引について承認を取得する必要があります。新投資法においては、M&A承認が要求される要件が以下のとおり変更されます。新投資法では、現行投資法とは異なり、(下記(iii)の場合を除き)M&A取引の結果、外国投資家等の出資比率が増加することが要件とされています。したがって、例えば、外国投資家が持分の100%を保有するベトナム法人を他の外国投資家が買収する場合、外国投資家等の出資比率が増加するわけではないため、M&A承認手続を経ずに買収を進めることが可能となると考えられます。
 
現行投資法 新投資法
以下のいずれかに該当する取引
(i) 対象会社が条件付投資分野に属する事業を行っている場合
(ii) M&A取引の結果、外国投資家等の出資比率が51%以上となる場合
以下のいずれかに該当する取引
(i) 対象会社が条件付投資分野に属する事業を行っている場合で、M&A取引の結果、外国投資家の出資比率が増加する場合
(ii) M&A取引の結果、外国投資家等の出資比率が50%以下から50%超となる場合又は50%超からさらに増加する場合
(iii) 対象会社が国防・国家安全に影響する地域の土地使用権証書を保有している場合
 
(d) IRCの取得に関する変更
外国投資家等がベトナム法人を新規設立する場合、投資プロジェクトの承認として投資登録証(Investment Registration Certificate:「IRC」)を取得する必要がありますが、新投資法においては、創造的なスタートアップ中小企業又は投資ファンドを設立又は創設する場合、IRCの取得義務が免除されます。
 
(e) 当局による欺罔的な民事取引による投資プロジェクトの取消し
現行投資法上、一定の場合には当局(Investment Registration Agency)が投資プロジェクトを取り消すことができることとされていますが、新投資法では、当局による投資プロジェクトの取消事由として、投資プロジェクトが民法上の欺罔的な民事取引に基づき行われた場合が追加されました。この点、当該取消事由がいわゆるノミニーストラクチャー(ベトナム人・企業を名目上の出資者とするストラクチャー)に適用され、当局が投資法に基づきノミニーストラクチャーを取り消すことが可能となるという議論もありますが、法令上必ずしも明らかではなく、今後の政令等や実務の取扱いを注視する必要があります。
 
(2) 新企業法の主な改正内容
 
(a) 社印の届出義務の撤廃・デジタル署名の明記
現行企業法においては、企業は事前に社印を当局に届け出ることが義務付けられていますが、新企業法ではこの社印の届出義務が撤廃されます。また、新企業法では、物理的な印鑑のほか、電子取引法上の要件を満たすデジタル署名を社印として用いることができる旨が明記されました。
 
(b) 企業登録手続の電子化
現行企業法上、会社の新規設立のための企業登録手続は基本的に物理的な紙媒体で行う必要があったところ、新企業法においては、企業登録手続がオンラインで行えることとなります。
 
(c) 現物出資の出資期限に関する不算入期間
会社を新規設立する場合、出資者は企業登録証の発行から90日以内に出資を履行する必要があるところ、新企業法においては、現物出資を行う場合の資産の輸入・運搬や所有権の変更のための行政手続に要する期間は90日に参入しないこととされ、当該輸入・運搬や行政手続のための期間に左右されずに上記期限内に現物出資を行うことが可能となります。
 
(d) 有限責任会社に関する主な変更点
現行企業法上、会社所有者が企業等の組織である1名有限責任会社は監査役、出資者が11名以上の2名以上有限責任会社は監査役会を設置しなければならないとされているところ、新企業法では、1名有限責任会社・2名以上有限責任会社のいずれについても、完全国有企業を除く国有企業又は国有企業の子会社である場合を除き、監査役・監査役会の設置は任意とされます。
また、現行企業法上、有限責任会社の法定代表者の役職に関する明確な規定が存在しなかったところ、新企業法においては、法定代表者のうち少なくとも1名は会長、社員総会会長又は社長のいずれかに就任しなければならないこととなります。
 
(e) 株式会社に関する主な変更点
① 監査役会会長・監査委員会
現行企業法上、株式会社においては、内部監査の仕組みとして、(i) 監査役会又は(ii) 取締役会の下部組織としての内部監査委員会(Internal Auditing Committee)のいずれかの設置を選択することとされています。また、現行企業法では(i)の監査役会の設置を選択した場合には監査役会会長を選任する必要があるとされています。
これに対し、新企業法においては、監査役会会長の就任要件が下記のとおり緩和され、必ずしも会計士等の資格を保持することは要求されず、常勤であることも不要とされます。
 
現行企業法 新企業法
監査役会の会長は、会計士又は監査人の資格を有し、かつ常勤でなければならない 監査役会の会長は、経済、ファイナンス、会計、監査、法律、経営管理、会社の事業に関連する分野のいずれかの大学以上の学位を有すること

また、(ii)の内部監査委員会については、現行企業法上詳細な規定が存在しなかったところ、新企業法では、名称が監査委員会(Auditing Committee)に変更され、監査委員会は取締役会の専門部門であり2名以上の委員により構成されること、監査委員会の委員長は独立取締役とし、他の委員は非執行取締役でなければならないこととされます。
 
② 株主総会
まず、現行企業法上、株主総会の定足数は議決権付株式の51%以上を保有する株主の出席とされているところ、新企業法においては、51%以上から50%超に緩和されます。
また、普通決議の決議要件についても、現行企業法における出席株主の議決権総数の51%以上の賛成という要件が50%超に緩和されます。なお、特別決議における65%の決議要件は新企業法上も維持されます。
さらに、株主総会の権限について、新企業法においては、現行企業法上の権限に加えて、(i) 取締役会・監査委員会の予算、報酬・賞与等の総額の決定、(ii) 社内経営規則(internal management rules)、取締役会・監査委員会の運営規則の承認、(iii) 独立監査人の決定・解任等が新たに株主総会の権限事項とされます。
また、新企業法においては、株主総会決議が成立する要件として、決議事項の成立により優先株主の権利義務が不利に変更されることとなる場合には、同種の優先株式の総数の75%以上を保有する出席優先株主の賛成が必要とされます。
 
③ 少数株主権の拡大
新企業法においては、株主が以下の権利を行使できる要件について、株式保有割合の緩和や保有期間の撤廃が行われ、少数株主権が拡大されます。
 
少数株主権 現行企業法 新企業法
取締役・監査役候補者推薦権 普通株式総数の10%以上の株式を6か月以上継続して保有する株主 普通株式総数の10%以上の株式を保有する株主
取締役会議事録等の閲覧謄写権
株主総会開催要求権
監査役会に対する監査請求権
普通株式総数の10%以上の株式を6か月以上継続して保有する株主 普通株式総数の5%以上の株式を保有する株主
取締役等の責任追及に関する代表訴訟提起権 普通株式総数の1%以上の株式を6か月以上継続して保有する株主 普通株式総数の1%以上の株式を保有する株主
 
④ 株主総会の承認が必要な利益相反取引の拡大
現行企業法では、株式会社と一定の利害関係人との取引について、取引の価値が直近の財務諸表上の総資産額の35%以上の場合には株主総会、35%未満の場合には取締役会の承認が必要とされています。
新企業法も現行企業法上と基本的には同様の枠組みを維持していますが、上記直近の財務諸表上の総資産の35%以上の価値を有する取引に加えて、株式会社と当該株式会社の議決権付株式総数の51%以上の株式を保有する株主との間の消費貸借又は資産の売却については、その価値が直近の財務諸表上の総資産額の10%以上の場合には株主総会の承認が必要とされ、株主総会の承認が必要とされる利益相反取引の範囲が拡大されます。
 
上記でご紹介した事項のほかにも、新投資法・新企業法では様々な改正が行われており、実務に与える影響は大きいと思われます。なお、新投資法・新企業法の詳細を定める政令や通達等はまだ制定・公表されていないことから、今後の実務について、これらの規定の整備動向を注視する必要があります。

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【掲載元情報】
森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ  制作

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