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2020.08.04

その他のアジア【フィリピン】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《フィリピン編》第8回「M&Aについて」 NEW
【フィリピン】第8回「M&Aについて」
◇「弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ」は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラル様からのアジア各国の国別情報を進出~撤退までの“シリーズ”で皆様にお届けします。

《フィリピン編》 第8回「M&Aについて」
 
フィリピン法制の下では、主なM&Aの手法として、株式譲渡、新株発行、吸収合併、新設合併、資産譲渡が認められています。本稿では、日本企業がM&Aを行う際に用いる可能性のある上記各手続について解説した上で、2015年7月に制定されたフィリピン競争法のM&A規制についても検討を加えます。
 
1.株式取得
 株式の取得方法には、株主から対象会社の発行済株式を譲受ける方法(株式譲渡)と、対象会社から新株発行を受ける方法(新株発行)があります。
(1) 株式譲渡
株式譲渡には、当事者間の相対取引で実行される場合と、公開買付が利用される場合があります。公開買付については、Securities Regulation Code(以下「SRC」といいます。)及びAmended Implementing Rules and Regulations of the Securities Regulation Code( 以下「SRC Rule」といいます。)に関連する定めが置かれています。
SRC Ruleが定める公開買付とは、買収者が、単独又は共同で公開会社の発行済の株式等の社員権(以下、総称して「株式」といいます。)を取得する意図を公表する制度です。買収者が、公開会社の発行済の議決権付株式の35パーセント以上の株式を取得する意図を有する場合、又は、買収者が公開会社の発行済株式を取得した結果、当該公開会社における買収者の株式保有割合が50パーセントを超える場合は、原則として公開買付の利用が強制されます。もっとも、公開市場での一般的な市場価格での株式取得や、合併や担保権実行による株式取得、裁判所の監督下における会社再生手続に伴う株式取得などの場合は、公開買付によることは強制されません。
以下、SRC及びSRC Ruleにおける公開買付規制の概要について解説します。
①公開買付意思の公表
公開買付者は、当該公開買付に先立って、フィリピンの全国新聞紙面での公開買付意思の表明と、当該紙面の写しの証券取引委員会への提出を行わなければなりません。ただし、公開買付者は公開買付を行うための十分なリソースを確保していなければ、かかる公開買付意思の公表を行ってはなりません。
②公開買付届出書及び附属資料の提出
公開買付者は、証券取引委員会に対し、Form 19-1と呼ばれる公開買付届出書及び附属資料を提出しなければならず、また、その写しについては、対象会社及び買付対象となっている種類の株式を上場している各取引所に対し、交付しなければなりません。
③公開買付に関する情報開示
公開買付者は、株主に対して、公開買付者に関する情報(主たる事業内容を含む)、対象会社に関する情報、対象株式の種類及び対価、公開買付期間・公開買付期間の延長の可否・(公開買付期間の延長が可能な場合は)延長手続等について、情報開示を行わなければなりません。
④公開買付開始日における公告
公開買付者は、公開買付開始日及びその後2日間連続で、公開買付の条件をフィリピンの全国新聞紙2紙に掲載しなければなりません。
⑤公開買付の実行
公開買付は、買付の対象となった種類の全ての株主に対して開かれたものでなければならず、また、公開買付により支払われる対価は、当該公開買付において他の株主に支払われる対価の最高額と同じ価格でなければなりません。また、公開買付の利用が強制される場合、公開買付者は、対象株式の過去6カ月間における最高価格をもって、公開買付を実施しなければならない。
⑥公開買付の終了及び公開買付結果の報告
公開買付期間は、原則として、公開買付開始日から20営業日以上で、かつ、可能な限り公開買付意思の公表から60日以内で設定されなければなりません。また、公開買付者は、公開買付終了日から10営業日後までに、公開買付の結果を証券取引委員会に報告しなければなりません。
 
(2)新株発行
株式会社は、その定款の規定に従って、様々な種類株式を発行することができます。かかる種類株式の構成や、新株発行に係る手続については、Revised Corporation Code of the Philippines(以下「Revised Code」といいます。)に定めが置かれています。
新株発行が、授権資本の範囲内における追加発行であれば、取締役会決議によって行うことができると解されます。他方で、新株発行が、授権資本の増加を伴う場合であれば、取締役会の決議に加えて株主総会の特別決議(発行済株式総数(自己株式を除く)の2/3以上の決議)が必要です。いずれの場合においても、フィリピン証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)の事前の承認が必要となります。証券取引委員会に対する事前承認の申請は、原則として、前述の取締役会決議及び株主総会決議から6カ月以内に行う必要があります。
なお、Revised Codeのもとでは、原則として、株式会社の既存株主に各持株比率に応じた新株引受権(pre-emptive right)が与えられています。かかる原則は、対象会社の定款等によって排除することができますが、新株発行を通じて対象会社の支配権を獲得しようとする場合には留意が必要です。
 
2.合併
Revised Codeにおいては、吸収合併(1つ以上の会社が他の会社と統合し、吸収会社が被吸収会社の資産と負債を法的に承継し、被吸収会社が消滅する行為)と、新設分割(2社以上の会社が新会社を設立し、それらの資産及び負債を新設会社に法的に承継させた上で消滅する行為)の2種類が定められています。
合併手続では、取締役会決議及び株主総会特別決議を通じて、合併計画の承認を得ることが必要です。反対株主は、会社に対し、正当な価格で株式の買取りを請求することができます(appraisal right,株式買取請求権)。ただし、株主総会において合併計画の承認を得た後に、取締役会が当該合併計画を廃止することを決定した場合には、株式買取請求権は消滅します。
その後、各合併当事会社は、合併契約を締結します。証券取引委員会の承認を取得するため、かかる合併契約書に、各合併当事会社の会社秘書役の証明を取得して、証券取引委員会に提出します。証券取引委員会は、合併が会社法等の法令に違反すると考える理由がある場合には、審問の機会を設けなければならないとされており、証券取引委員会からの承認証書の取得に、2カ月以上要することもあるので注意が必要です。
 
3.資産譲渡
資産譲渡とは、会社の資産について売却、賃貸、交換、担保権設定その他の処分を行うことをいいます。資産の譲渡を行うためには、取締役会決議が必要です。
資産譲渡のうち、会社の暖簾を含む資産の全て又は実質的に全てを譲渡する場合には、取締役会決議に加え、原則として株主総会の特別決議が必要です。反対株主は、合併手続における反対株主と同様、株式買取請求権を行使することができます。
このように会社の資産の全て又は実質的に全てを譲渡する場合において注意すべき点は、会社法の他にバルクセール法(Bulk Sales Law、 Act No. 3952)の適用を受ける点です。具体的には、会社資産目録及び債権者表(全債権者の氏名・名称、債権額を記載した書面)を作成し、個々の債権者に対して当該資産譲渡の条件・価格を通知し、資産譲渡の決済前に、フィリピン商務局に対して、債権者表を提出する等の手続です。バルクセール法に違反する資産譲渡は、無効となるので注意が必要です。
 
4.フィリピン競争法のM&A規制
フィリピンでは、長らく日本の独占禁止法に相当する法律が存在しませんでしたが、2015年7月21日にフィリピン競争法(Philippine Competition Act、 No. 10667)が制定され、これに基づきフィリピン競争委員会(PCC:Philippine Competition Commission)が設置されました。かかるフィリピン競争法では、価格カルテル及び入札談合等の競争阻害行為、拘束条件付取引などの支配的地位濫用行為、及び、競争の阻害を招く企業結合が禁止されています。本稿では、M&Aに関連する企業結合規制について、概説します。
 
(1)規制対象取引
競争法が規制対象とするM&Aに関する取引は、合併(ジョイントベンチャーを含む)及び買収であり、買収とは、契約その他の手段を通じた支配権取得を目的とする有価証券又は資産の購入又は譲受とされています。したがって、上記の株式譲渡・新株発行・吸収合併・新設合併・資産譲渡のいずれもが規制の対象となり得ます。
 
(2)適用対象地域
競争法の適用対象は、必ずしもフィリピン国内における取引等の当事者に限られず、フィリピン国外で行われた行為によって、フィリピン国内に直接、実質的かつ合理的に予見可能な影響を有する取引等の当事者が含まれます。
 
(3)規制内容
①届出義務
M&Aの取引価値が10億ペソ(2020年7月のレートで約21億5000万円)を超え、かつ、少なくとも一方のM&Aの取引当事会社の最終親会社が直接又は間接に支配権を有する全ての法人におけるフィリピン国内の年間粗利高又はフィリピン国内の資産価値の合計が 10 億ペソを超える場合には、事前に競争委員会に届出をしなければなりません。この義務に反する当該M&A取引は、無効とされ、さらに取引価値の1~5%の額の制裁金が課されます。
②待機義務
①の届出後、最短でも30日間(最長で90日間)は、取引を実行することができません。かかる待機期間は、全ての届出当事者が必要書類を全て提出し、競争委員会から提出が完了した旨の通知を受けた時点から起算します。
③競争委員会の審査
競争委員会は、当該取引がフィリピン国内の関連する市場における競争を実質的に制限すると判断する場合には、①当該取引の実施を禁止し、②競争委員会が指定する変更を当該取引に加えるまでは当該取引の実施を禁止し、又は、③競争委員会が指示する法的に執行可能な合意を関連する当事者が締結するまでは当該取引を禁止します。
他方で、競争委員会が取引を承認した場合、又は、待機期間内に競争委員会が何らの判断も示さなかった場合には、当事者は当該取引を実行することができます。

以上
 
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。   
   
第9回に続きます。
 
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【掲載元情報】
弁護士法人マーキュリー・ジェネラル  作成

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