2020.04.16
- その他のアジア【フィリピン】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《フィリピン編》第2回「投資優遇制度」
- 【フィリピン】第2回「投資優遇制度」
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《フィリピン編》 第2回「投資優遇制度」
1.はじめに
フィリピンでは、国内の重要産業への投資を奨励するために各種の投資促進法を制定しており、他のASEAN諸国に劣らない優遇措置が採用されています。
その中でも、利用する日本企業が多く、かつ、利用価値も高いと思われるBOI及びPEZAの優遇措置を中心に具体的な解説を加えることとします。
2.フィリピン投資優遇措置の全体像
フィリピンにおいて投資優遇措置を受けようとする場合、プロジェクトを行う場所に応じ、該当する投資促進機関に登録する必要があります。
(1)経済特別区以外の地域
・投資委員会(BOI: Board of Investments)
・地方投資委員会(RBOI-ARMM: Regional BOI in ARMM)
(2)経済特区内の地域
・フィリピン経済特区庁(PEZA: Philippine Economic Zone Authority)
・スービック湾首都圏庁(SBMA: Subic Bay Metropolitan Authority)
・クラーク開発公社(CDC: Clark Development Corporation)
・オーロラ特別経済特区庁(Aurora Pacific Economic Zone and Freeport Authority)
・カガヤン経済区庁(CEZA: Cagayan Economic Zone Authority)
・サンボアンガ特別経済区庁(ZCSEZA: Zamboanga City Special Economic Zone Authority)
・フィビデック工業開発公社(PIA: Phividec Industrial Authority)等
3.投資委員会(BOI)の優遇措置
(1)概要
BOIに登録した企業は、オムニバス投資法(1987年Executive Order第 226号)に基づき、法人所得税の免除等をはじめとする優遇措置を受けることができます。
(2) 優遇措置対象となる分野
①投資奨励分野
BOI は、投資優先計画(IPP: Investment Priority Plan)を策定しており、優遇措置の対象となる投資奨励分野について、以下のように定めています(2017年版IPP)。
・農産物の加工処理を含む適格製造活動
・農業、漁業、林業
・集積回路の設計
・クリエイティブ産業/知識ベース産業
・航空機の整備、修理及びオーバーホール
・代替燃料乗用車向けの補給所
・産業廃棄物処理
・テレコミュニケーション
・最先端のエンジニアリング、調達及び建設
・ヘルスケアサービス(薬物リハビリセンターを含む。)
・集合住宅
・インフラ及び物流(地方政府による官民パートナーシップ案件を含む。)
・イノベーションドライバーズ
・インクルーシブ・ビジネスモデル
・環境、気候変動関連プロジェクト
・エネルギー
② 輸出関連事業
・輸出用製品の製造
・サービスの輸出
・輸出業者の支援事業
③ 特別法に基づく指定対象分野
・植林事業
・鉱物の採掘及び加工
・書籍及び教科書の発行・印刷
・石油製品の精製、備蓄、マーケティング及び流通
・身体障害者のリハビリテーション、自立支援
・再生可能エネルギー
・観光業
④ ミンダナオ島イスラム教徒自治区での各種投資(詳細は割愛いたします)
(3) BOI登録のための要件
① 外資比率に関する要件
議決権を有する株式の60%以上をフィリピン人が所有していること(ただし、パイオニア・プロジェクトに従事する場合、または、生産品の70%以上を輸出する場合は100%外資でもよいとされています)。
② 事業形態に関する要件
以下のうちいずれか一つを満たす必要があります。
・現行IPP リストに記載されている事業分野であること(ただし、生産品の50%以上が輸出向けであればリストに記載がない分野であっても可能)
・輸出する商品を生産者から購入し輸出業務に従事すること又はその計画があること
・技術サービス、専門サービスその他のサービスの提供に従事していること又はその計画があること
・国産のテレビ番組、映画、音楽ソフトの直接又は登録業者を通じての間接的な輸出に従事していること又はその計画があること
③ 資質に関する要件
登録申請者が、健全かつ効率的に活動する能力及び国の発展に貢献する能力を有すること。
(4)BOI登録企業に対する主な優遇措置
① 一定期間の法人所得税の免除(ITH: Income Tax Holiday)
免除期間は、原則として、以下のとおりです。
・パイオニア企業(※1)の場合:6年間
・非パイオニア企業の場合:4年
・事業を拡大する場合:BOI が設ける条件を前提に3年間、その拡大規模に比例した免税を受けることができます。
② 労務費に関する追加控除
BOI登録企業は、資本設備額に対する労働者数比率が、BOI の定める所定の比率を上回る場合、登録から最初の5 年間、直接労働の増加に対応する労務費の50%を、課税所得から追加控除することができます。
③ 委託生産設備の無制限使用
④ 登録から5年間(延長可)の監督者、技術者又は顧問としての外国人の雇用
⑤ 10年間を限度とした繁殖用家畜及び遺伝学的材料の免税輸入
⑥ 10年間を限度とした国産の繁殖用家畜及び遺伝学的材料の税額控除
⑦ 輸出製品及びその構成部品の製造、加工又は生産に使われる原材料、供給品、半製品の国内諸税相当額を免除
⑧ 保税工場、倉庫の利用
⑨ 埠頭税、輸出税、賦課金などの免除
⑩ 通関手続の簡略化
※1パイオニア企業とは、次の事業に従事する企業を指します。
・フィリピンで、まだ商業生産されたことのない商品または原材料の生産
・フィリピンでは実績のない新規の商品設計、製法または工程の利用
・農業、林業、鉱業、またはこれらに関連するサービス業
・非在来型燃料の生産又は非在来型エネルギー源を利用する設備の製造
・生産、製造、加工における非在来型燃料、若しくはエネルギー源の利用、又はそれらの燃料への転換
4.PEZAの優遇措置
(1) 概要
PEZAとは、フィリピンの中央政府の傘下にあるフィリピン経済特区庁(Philippine Economic Zone Authority)の略称です。
PEZAへの登録が認められると、例えば、経済特区内において、最長8年間法人税が免除され、その後も法人税は特別税率の5%となります。
フィリピンの通常の法人税30%と比べると、破格の優遇措置といえるでしょう。
(2) PEZAへの登録が可能な業種
企業は、以下のいずれかのタイプの事業者として登録することができます。
・輸出製造業
・ITサービス輸出業
・観光業
・医療観光業
・農産業輸出製造業
・農産業バイオ燃料製造業
・物流・倉庫サービス業
・経済特区開発・操業事業者
・設備プロバイダー
・公益事業
(3) PEZA登録企業に対する主な優遇措置
PEZAに基づく優遇措置の内容は、当該企業の事業のタイプによって異なります。
紙面の都合上、以下では、輸出製造業に対する優遇措置の内容をご紹介いたします。
① 一定期間の法人税の免除(ITH: Income Tax Holiday)
免除期間は、原則として、以下のとおりです。
・パイオニア事業の場合:6年間(条件を満たせば最大8年まで延長可能)
・非パイオニア事業の場合:4年
・事業を拡大する場合:3年間
なお、パイオニア事業としての資格が与えられるかは、当該年度の投資優先計画(IPP)又はPEZAが別途設ける基準によります。
② 特別税の適用
当該企業のITHの満了後、総所得(経済特区内における事業活動からの総売上から販売割引、返品、値引き、営業費用、直接費用を差し引き、管理費及びその他コストを控除する前の利益)に対する 5%の特別優遇所得税率が適用されます。この課税は、国及び地方の一切の課税に代わるものです。
③ 関税等の免税
原材料、資本設備、機械、スペアパーツの輸出関税が免除されます。
④ 埠頭税・輸出税・賦課金等の免除
⑤ 付加価値税(VAT)の免除
内国歳入庁(BIR)及びPEZAの定める要件を満たす必要があります。
⑥ 地方政府の賦課金、料金、免許及び課税免除
ITHが適用される期間中は一定の制限があります。
⑦ 拡大源泉徴収税(Expanded Withholding Tax)の免除
⑧ 非財政的優遇措置
・輸入・輸出手続の簡略化
・管理職・技術職・アドバイザー業務に関する外国人の雇用
・PEZA登録 企業の外国人(投資家、役員、管理職・技術職・アドバイザー業務の従業員及びその配偶者や 21 歳未満の未婚の子弟)に対する、数次入国が可能な特別非移民査証(Special Non-Immigrant Visa)の発行
以上
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
第3回に続きます。
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