2020.05.29
シンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第55回『雇用主による安全管理措置(Safe Management Measures)』
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第55回
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このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、主に東南・南アジア各国の新型コロナウイルス(「COVID-19」)に関連するリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第110号(2020年5月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇シンガポール:雇用主による安全管理措置(Safe Management Measures)
シンガポールでは、2020年4月7日以来、サーキットブレーカーと呼ばれるCOVID-19の感染拡大防止措置が取られています。この措置は、一部の業種を除いた事業所の閉鎖や、生活必需品等の購入の場合以外の外出禁止等を含むものですが、現時点で6月1日まで同措置が継続することが既に発表されているところです。
もっとも、(建設工事に従事する外国人労働者の宿舎を除き、)市中感染が逓減していることに鑑み、シンガポール政府は徐々にサーキットブレーカーの内容を緩和していく可能性について言及し始めています。これを受けて、人材省、シンガポール全国労働組合会議(Singapore National Trade Union Congress)、及びシンガポール全国雇用者連合(Singapore National Employers Federation)は、2020年5月9日、安全管理措置(Safe Management Measures:「本措置」)と呼ばれる、雇用者向けの職場環境に関する指針を発表しました。本措置は、各事業所におけるCOVID-19の感染を防ぐことを目的としたものであり、現時点では、サーキットブレーカーの期間中にも営業を許可されている業種の雇用主が実施を義務付けられているものです。もっとも、本措置については、全ての雇用者がサーキットブレーカーの終了後に事業所を再開する前に実施することが求められており、現時点で営業を再開していない雇用主にも関係するものといえます。本措置の概要は以下のとおりです。
(1) 安全管理措置システムの構築
雇用主は、本措置を確実に実施するため、詳細な監督計画を策定する必要があります。また、リスク管理戦略や本措置への違反があった場合の是正措置についても、文書で定めておくことが求められています。
加えて、雇用主は、安全管理措置システムの実施、調整及び監督を実施する者として安全管理監督者(Safe Management Officer)を指名する必要があります。
(2) 物理的接触の最小化及びセーフ・ディスタンスの実施
雇用主は、従業員が可能な限り在宅で勤務をできるよう配慮(必要なIT機器の支給、オンライン会議の実施等)することが求められています。
また、在宅勤務が不可能な職種の従業員については、職場における感染の拡大を防ぐための所定の措置を講じた上で就業させなければいけません。
(3) マスク等の着用・備蓄等
雇用主は、原則として事業所に所在する全員にマスクその他の保護具を着用させなければなりません。また、雇用主は、従業員のために十分な量のマスクを備蓄する必要があります。
(4) 職場の衛生環境の維持
雇用主は、共用部分の清掃を定期的に行うなどして、職場の衛生環境を維持しなければなりません。
(5) 感染事例管理のための措置の実施
雇用主は、従業員及び全ての来訪者に対して、感染事例を適切に管理するため、体温の測定、海外渡航歴の有無等に関する宣誓書の取得等、所定の措置を講じる必要があります。
また、雇用主は、感染事例が確認された場合には、直ちに事業所を閉鎖し、清掃・消毒を実施するなどしなければなりません。
(6) 要保護者への特別対応
雇用主は、高齢者、妊婦、基礎疾患のある者等、感染した場合に重症化するおそれのある従業員に対しては、特別の配慮をする必要があります。
人材省は、本措置への違反については、事業停止命令等を含め厳しい対応をとる予定であることを表明しています。また、本措置に違反した場合、COVID-19特別措置法(COVID-19 (Temporary Measures) Act)に基づき、1万シンガポールドル(現在の為替レートで約74万9,487円)以下の罰金若しくは6か月以下の禁固又はこれらの両方が科される可能性があります(2回目以降の違反については、刑の上限が2倍となります。)。
本措置は、雇用主に相応の負担を求めるものですが、シンガポール政府はこれまでもCOVID-19への対応に関する法令違反には厳しい態度で臨んでいるため、本措置の実施も厳格に求められることが予想されます。シンガポールにおいて事業所を再開する場合、本措置を遵守するため、事前に十分な準備を行う必要があります。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
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- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作