2020.03.26
ベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第53回『新証券法の成立』
- 【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第53回
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このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第108号(2020年3月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇ベトナム:新証券法の成立
ベトナムにおける公開会社の証券取引等に係る法令である証券法(Law No.70/2006/QH11 as amended by Law No.62/2010/QH12:「現行証券法」)に関して、2019年11月26日に改正案が国会で可決され、新たな証券法(「新証券法」)が成立しました。新証券法は2021年1月1日より施行されます。本稿では、新証券法における現行証券法からの改正内容のうち、特に日本企業によるベトナム企業への投資に影響を与え得る改正点をご紹介します。
(1) 公開会社の範囲
証券法上、株式会社のうち一定の要件を満たす会社は「公開会社」として整理され、証券法等における証券取引、情報公開、機関設計等に関する種々の制約の対象となるところ、新証券法において、「公開会社」の定義が以下のとおり変更され、「公開会社」に該当し得る株式会社の範囲が狭められました。現行証券法 新証券法 以下の①から③のいずれかに該当する株式会社
① 株式の公募を行った株式会社
② 株式を証券取引所に上場している株式会社
③ 払込済定款資本が100億ベトナムドン(現在の為替レートで約4,628万800円)以上であり、かつ、100名以上の株主(プロ投資家を除く)が存在する株式会社以下の(i)又は(ii)に該当する株式会社
(i)払込済定款資本が300億ベトナムドン(現在の為替レートで約1億3,884万2,000円)以上であり、かつ、議決権付株式の10%以上が100名以上の非主要株主(議決権付株式の持株比率が5%未満の株主)に保有されている株式会社
(ii)株式の新規公開(IPO)を行った株式会社
なお、法改正に伴う経過規定として、現行証券法上は「公開会社」に該当する株式会社が、新証券法上の「公開会社」に該当しなくなる場合、当該株式会社が新証券法の施行前にその株式を(a) UPCoM市場(Unlisted Public Company Market:未上場株式の取引市場)に登録している場合には、新証券法の施行後も「公開会社」としての国家証券委員会(State Security Commission:「SSC」)への登録を取り消す必要はありませんが、他方、(b) UPCoM市場に登録していない場合には、新証券法の施行後は「公開会社」としてのSSCにおける登録を取り消す必要があるとされています。
(2) 公開買付規制の対象
現行証券法上、投資家が公開会社の株式を一定割合以上取得する場合、公開買付けの手続によらなければならないとされています。この点、新証券法においては、公開買付けが必要となる取引の基準が以下のとおり変更されています。
なお、新証券法においては、公開買付けの実施後、自ら又はその関係者と併せて公開会社の議決権付株式総数の80%以上を保有するに至った場合(ただし、当該公開買付けにおいて全議決権付株式を対象としていた場合を除く。)、さらに30日間、当該公開買付けと同じ買付価格・支払方法により、残りの株主が保有する全株式を公開買付けにより買い取らなければならない旨の規制が追記されました。もっとも、このような全部買付義務に関する規定と同様の規定は(現行証券法自体ではないものの)現行証券法に関する施行令に存在し、必ずしも新たな規制ではない点、ご留意ください。
現行証券法 新証券法 以下の①から③のいずれかに該当する取引
① 自ら公開会社の発行済株式総数の25%以上を取得することになる議決権付株式を取得する取引
② 自ら又はその関係者と併せて公開会社の議決権付株式総数の25%以上を保有する者が、さらに10%以上の議決権付株式を取得する取引
③ 自ら又はその関係者と併せて公開会社の議決権付株式総数の25%以上を保有する者が、直前に実施された公開買付の完了日から1年未満の間にさらに5%以上10%未満の議決権付株式を取得する取引以下の(i)又は(ii)に該当する取引
(i)自ら又はその関係者と併せて公開会社の議決権付株式総数の25%以上を直接又は間接的に保有することになる取引
(ii)自ら又はその関係者と併せて公開会社の議決権付株式総数の25%以上を保有する者が、さらに株式を取得することにより、その直接又は間接の議決権所有割合が議決権付株式総数の35%、45%、55%、65%及び75%の各基準に達することとなる取引
なお、現行証券法上、上記①~③の公開買付規制の適用対象取引を行う場合であっても、当該取引が対象会社の株主総会にて承認されている場合等には、公開買付けを実施する必要はないとされているところ、新証券法上も同様の枠組みが維持されており、上記(i)又は(ii)の公開買付規制の適用対象取引が、対象会社の株主総会にて譲渡人・譲受人を特定した上で承認されている場合等には、公開買付けの実施は不要となります。
(3) その他の改正内容
以上のほか、新証券法では、株式の公募(Public Offering)・私募(Private Placement)や自己株式取得に係る規制の変更等、様々な改正が行われています。
新証券法の成立・施行により、公開会社への投資手続等に影響が生じ得るため、その内容を理解しておくことが重要となります。また、新証券法に関連する政令や通達の制定状況についても注視する必要があります。
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- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作