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2020.01.23

ベトナムベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第51回『新労働法の成立』
【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第51回
このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights106号(20201月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
 
◇ベトナム:新労働法の成立
 
本レター第104号(2019年11月号)にてご紹介したとおり、2013年に施行された現行のベトナム労働法(「現行法」)について、改正案が2019年10月23日に国会に提出されていましたが、この度、国会で改正案が承認され、2019年11月20日に新たな労働法(「新労働法」)が成立しました。新労働法は2021年1月1日に施行されます。本稿では、新労働法のうち特に重要と思われる点についてご紹介します。
 
(1) 残業時間の上限
 
現行法上、残業時間は、1日あたりの通常労働時間の50%(1日8時間労働の場合は4時間)、1か月あたり30時間、1年あたり200時間(ただし、法が定める一定の分野・業務(繊維、衣類、履物等)は300時間)を超えてはならないとされています。
これに対し、新労働法では、1か月あたりの残業時間の上限が30時間から40時間に増やされました。国会に提出された改正案では、1年あたりの残業時間の上限についても政府が定める特別な場合には400時間に増やすことも検討されていましたが、結果としては、現行の枠組み(原則200時間、一定の分野・業務では300時間)が維持されました。
 
(2) 労働契約
 
(a) 労働契約の種類の変更
現行法上、労働契約は、労働期間によって①期間の定めのない労働契約、②12か月から36か月の有期労働契約及び③12か月未満の季節的又は特殊な労働契約の3種類に分類されていますが、新労働法では、(i) 期間の定めのない労働契約と(ii) 36か月以内の有期労働契約という2種類のみに整理されました。また、この種類の変更に合わせ、12か月未満の労働契約に関する試用期間の取扱いにも変更が生じています(下記(2)(e)参照)。
 
(b) 有期労働契約の更新と期間の定めのない労働契約への移行
現行法上、有期労働契約は原則として1度しか更新できず、更新後の期間満了後も労働関係が継続する場合、期間の定めのない労働契約へ移行するとされています。
新労働法では、原則として、有期労働契約の更新は1度に制限され、更新後の期間満了後は期間の定めのない労働契約に移行するという点は現行法と同様ですが、その例外が新設され、①国営企業のdirector、②定年に達した者、③外国人、④労働者代表組織の管理委員会のメンバーとの労働契約については、更新後の期間満了後も再度有期労働契約を締結できることとされました。
 
(c) 労働者側からの労働契約の一方的解除
新労働法では、労働者側から一方的に労働契約を解除できる要件が概ね以下のように変更されました。これにより、労働者は、労働契約の期間にかかわらず、法定の解除事由がある場合には事前通知なく、解除事由がない場合には事前通知を行うことにより、一方的に労働契約を解除できることとなりました。
 
期間 現行法 新労働法
無期 法定の解除事由の有無を問わず原則45日以上前の通知により解除可能 現行法と同様 法定の解除事由がある場合は事前通知不要
有期 法定の解除事由がある場合のみ、解除事由・労働契約の種類に応じて3~30日以上前の通知により解除可能 法定の解除事由の有無を問わず、契約期間に応じて以下の事前通知により解除可能
・12か月未満:3日以上前
・12か月以上:30日以上前

(d) 使用者側からの労働契約の一方的解除
新労働法では、使用者側から一方的に労働契約を解除できる要件が概ね以下のとおり変更され、解除事由が現行法より広がり、事前通知が不要な場合も規定されました。
 
  現行法 新労働法
解除事由 ①労働者が労働契約上の義務不履行を繰り返した場合
②労働者が傷病の治療後、労働契約の種類に応じ定められた期間連続して勤務できない場合
③自然災害等の不可抗力により使用者が必要な手段を尽くしてもなお雇用を維持できない場合
④法定事由(兵役等)に基づく労働契約の停止期間満了後15日以内に労働者が復帰しない場合
(i)~(iv):現行法①から④と同様
(v):労働者が定年に達した場合
(vi):労働者が正当な理由なく5営業日以上連続して欠勤した場合
(vii):労働者が提供した虚偽の情報に基づき労働契約が締結された場合
手続 解除事由、労働契約の種類に応じ3~45日以上前の通知により解除可能 ・(iv)(vi)は事前通知不要
・(iv)(vi)以外は解除事由、労働契約の種類・期間に応じ3~45日以上前の通知により解除可能

 
(e) 試用期間
現行法上、試用期間を設ける場合、その上限は、①短期大学卒業以上の専門技術を要する職種においては60日、②中級程度の専門技術を要する職種においては30日、③その他の職種については6日とされています。他方、12か月未満の季節的労働については、試用期間を定めることが認められていません。
これに対し、新労働法では、上記①から③に加え、企業の管理職については180日とすることが定められ、高度な職種に対する長期の試用期間が認められました。また、有期労働契約については、1か月未満の有期労働契約に限り、試用期間を定めることが禁止されました(すなわち、12か月以上の有期労働契約のみならず、1か月以上12か月未満の有期労働契約についても、試用期間を定めることが認められました)。
 
(3) その他の改正内容
 
以上のほか、新労働法では、電子的方法による労働契約の締結、定年の男性62歳・女性60歳への段階的な引き上げ(現行法上は男性60歳・女性55歳)、祝日の追加に関する規定等が新設されました。
 
新労働法の成立・施行により、従来の人事労務に関するプラクティスに影響が生じ得るため、その内容を把握することが重要となります。また、新労働法の成立・施行に伴い、今後の詳細を定める政令や通達等の整備動向も注視することが必要となります。
 
(ご参考)
本レター第104号(2019年11月号)
http://www.mhmjapan.com/content/files/00037919/20191120-112718.pdf

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【掲載元情報】
森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ  制作

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