2019.12.26
- その他のアジア【マレーシア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第50回『1967年労使関係法の改正案』
- 【マレーシア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第50回
-
このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第105号(2019年12月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇マレーシア:1967年労使関係法の改正案
2019年10月9日に、主に労働者、使用者及び労働組合の関係を規律する法令であるIndustrial Relations Act 1967(「現行法」)の改正案(「本改正案」)が代議院(Dewan Rakyat、下院)を通過しました(2019年12月8日現在、元老院(Dewan Negara、上院)の通過は未了です。)。本改正案においては多数の改正点がありますが、そのうち主要なものについて、以下でご紹介します。
(1) 人的資源大臣の権限の縮小
現行法のもとでは、不当解雇に関する不服申立てがあった場合、労使関係局(Industrial Relations Department)における調停がまず行われますが、この調停が不調であった場合、人的資源大臣(Minister of Human Resources)がその裁量により適切と認める事件だけが、労使関係裁判所(Industrial Court)に付託され審理されることとされています。
本改正案では、この人的資源大臣によるスクリーニングは撤廃され、調停が不調に終わった場合、労使関係局長官により全件、労使関係裁判所に付託されることとされています。これにより、人的資源大臣による裁量権行使の妥当性が争われ紛争が複雑化することは避けられるものの、濫用的な不服申し立てが増えるのではないかという懸念もあります。
(2) 単独交渉制度の導入
現行法のもとでは、使用者側の承認を受けた労働組合のみが、労働者を代表して使用者と団体交渉をすることができるとされています。本改正案では、あるカテゴリーの労働者らを代表できる労働組合が複数ある場合、その労働者らの投票により、単一の労働組合にその労働者らを代表して交渉する権限を与えることができることとされています。この権限は3年間有効とされており、その労働組合が解散するなどした場合を除き、他の労働組合は3年間、単独交渉権を得ることはできないとされています。
(3) 上訴手続の変更
現行法のもとでは、労使関係裁判所の判断に不服のある当事者は、高等裁判所(High Court)に対して、司法審査(judicial review)を求めることができるとされています。しかし、この審査で検討されるのは、労使関係裁判所の判断過程に誤りがあったかどうかにとどまり、判断の内容自体については審査の対象外とされています。本改正案では、労使関係裁判所の判断に不服のある当事者は、初級裁判所(Sessions Court)からの控訴と同じ手続により上訴を行えるとされており、高等裁判所は労使関係裁判所の判断の内容自体についても審理を行うことが想定されています。
以上のとおり、本改正案においてはさまざまな変更が予定されているものの、実際に本改正案が成立し施行される時期についてはまだ不透明です。加えて、人的資源省がさらなる改正を意図しているという報道もあり、引き続き動向を注視する必要があります。
(直近記事)
〇第47回『新汚職防止法及び新政令の施行』
〇第48回『会社法改正法案』
〇第49回『外国判決相互執行法・コモンウェルス判決相互執行法の改廃』
- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作