2018.09.27
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㊳「ネット上のデジタル遺産はどのように処理されるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿㊳
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ネット上のデジタル遺産はどのように処理されるか
2011年、徐さんは事故に遭い死亡した。徐さんは生前ソーシャルメディアにより、恋愛・結婚・出産などの幸せそうな写真・書き込みを大量に掲載して保存している。徐さんの奥さんは悲しみのあまり、それらの写真・書き込みを整理して記念に残し、さらに、徐さんが生前に使用していたアカウントを保留しようと考えている。
徐さんの奥さんはログインパスワードが分からず、ソーシャルメディアにそれを教えるように求めたところ、「アカウントの所有権はソーシャルメディアに帰属し、ユーザーは使用権のみを保有する。アカウントは相続財産に該当せず、ログインパスワードを教えることができない。」という回答であった。
『分析』:
実務において本件のソーシャルメディアの回答は珍しくない。ユーザーがログインするときに、多くのウェブサイトは協議書により「アカウントの所有権はウェブサイトに帰属し、申請者は使用権のみを保有し、贈与や売買などを行ってはならない」ことを約定する。
インターネットの普及につれて、WeChat(ウィーチャット)、マイクロブログ、アリペイ(中国語:支付宝)、タオパオ(ネットショップの名前。中国語:淘宝)等の利用するに当たって、電子メールは日常生活に必要不可欠なものとなっている。ユーザーはインターネットにより写真・書き込みなどを掲載する一方、ネットワークサービスを享受するために、ウェブサイトの要求に応じて一定の会費を納付したり、有料サービスを利用したりすることも多い。但し、ユーザーの死亡後に、それらの個人情報及び財産の所有権は誰に帰属するか、デジタル遺産は遺産に該当するか否か、相続の対象になるか否かなどは世界的な課題となっている。中国の関連法律規定には不備もある。
デジタル遺産は法律上の明確な定義がなく、通常、被相続人の死後に残されたその個人所有のインターネット上の財産を指し、主にアカウント、写真、ファイル、手紙、ビデオなどを含む。中国『相続法』の規定によると、遺産とは、公民が死亡時に残した個人所有の合法的な財産を指す。従って、相続の対象になるのは下記の2つの要件を満たす必要がある。(1)合法的に所有されるものである。(2)財産としての性質がある。
デジタル遺産の相続については、2つの面から考慮すべきである。
まず、「QQ」(インスタントメッセンジャーソフトの一種、コミュニケーションツールである)アカウントなどについて、ソーシャルメディアとユーザーは協議書において「ユーザーがアカウントに対して使用権のみを保有し、所有権を持たない」ことを約定した場合、当該アカウントがユーザー本人の所有に属さず、インターネットアカウントは相続の対象にもならない。
次に、仮にユーザーがアカウントに対して所有権を持たなくとも、アカウントログイン後に掲載した写真、書き込み、支払済みの費用などは法律規定に違反していなければ、それらの権利・所有権はユーザーに属する。それらの財産に実害を加えられた場合は、ユーザーは単独で妨害排除、原状回復などを請求する権利がある。従って、デジタル遺産はユーザーの個人所有の合法的な財産に該当し、相続の対象になる。
現時点で、中国の法律ではデジタル遺産について立法裁量の余地を残している。 『民法総則』によると、法律ではデータ、デジタル遺産の保護に係る規定がある場合、それらの規定に従う。今後、デジタル遺産及びその相続などに係る法律は明確化される見込みである。
以上のことから、インターネットユーザーは生前に各種のアカウント及びパスワードを適切に保管すべきである。又、専門の公証機関にてネットゲームアカウントについて公証を行ったり、ソーシャルメディアのアカウントとパスワードを遺言書に記載したりすることによって、個人のデジタル遺産の相続に保護を行うべきである。
(直近記事)
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員