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2024.05.07

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第79回「一方的な減給はどうすれば合法的かつ合理的になるか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第79回
一方的な減給はどうすれば合法的かつ合理的になるか

崔さんは2023年5月にある保険会社に入社し、保険会社と2年間の労働契約を締結した。労働契約では「崔さんは団体保険発展部で従業員福利厚生高級プランナー3級を務め、月給は基本給、業績ボーナス、管理ボーナスによって構成される。」ことを約定している。当該保険会社は民主的協議手続きを行った上で「団体保険営業マン基本管理弁法」(以下『弁法』という)を制定して従業員に公示した。『弁法』では、「従業員福利厚生プランナーの基本給の50%は月間の人事考課にリンクし、月間の人事考課は業務量、チームワーク、勤怠管理、育成訓練の4つの面により実施する」旨を明確にするとともに、職務等級に合わせて基本給を定めている。

2023年10月、保険会社は月間の人事考課結果に基づき崔さんの月給を900元減らし、従業員福利厚生高級プランナー3級から従業員福利厚生高級プランナー2級に降格した。又、2023年12月に崔さんの月給をさらに900元減らし、従業員福利厚生高級プランナー2級から従業員福利厚生プランナー2級へと2等級下げた。
崔さんは「保険会社の一方的な減給行為は違法である」と判断し、「保険会社が期日通りに労働報酬を満額支払わなかった」ことを理由に、一方的に労働契約を解除して労働仲裁を提起し、「1、保険会社が2023年10月-12月の給料を支払う。2、保険会社が経済補償金を支払う。」ことを請求した。労働仲裁、一審裁判所、二審裁判所が審理を行ったところ、崔さんの請求は全て認められなかった。


『分析』:

本件係争の焦点は、保険会社が一方的に崔さんの給料を引き下げる行為の合法性・合理性の有無にある。審理において、仲裁委員会、一審裁判所、二審裁判所はいずれも次のように認定した。

(1)『弁法』では、崔さんの基本給の50%が月間の人事考課結果につながることを明確にするとともに、月間の人事考課結果に応じる降格と減給額を定めている。
(2)保険会社はその制定した『弁法』について民主的協議と公示の手続を行い、かつ崔さんに公示しており、当該『弁法』は崔さんに対して拘束力を有する。
(3)保険会社は業務量、チームワーク、勤怠管理、育成訓練の4つの面により崔さんに対して月間の人事考課を実施し、客観性があり、崔さんの利益を損なっていない。そのため、期日通りに労働報酬を満額支払わなかったという状況は存在せず、崔さんに未支払の給料を支払う必要がなく、経済補償金を支払う必要もない。

本件の裁判の考え方から見て、仲裁委員会及び裁判所は雇用企業の一方的な減給行為を適法と直接認定し、雇用企業の規則制度、人事考課の真実性・客観性を審査して、一方的な減給行為の合法性・合理性を判定した。労働報酬の減少による労働紛争は、雇用企業が立証責任を負う。従って、雇用企業は一方的に減給する場合、以下の条件を満たすべきである。

(1)従業員の給料が人事考課の結果にリンクすることを規則制度により規定し、又は労働契約により約定し、かつ規則制度は民主的協議と公示の手続を行う。
(2)雇用企業は人事考課手続に従い従業員に対して人事考課を行い、人事考課の結果は減給条件に合致する。
(3)雇用企業が従業員に対して実施する人事考課は公平かつ公正である。
(4)減給額は合理的な範囲内である。

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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