2024.04.01
ベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第101回「 改正土地法の成立」
- 【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第101回「 改正土地法の成立」
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◇ベトナム
ベトナムでは、2024年1月18日に、現行の土地法(Law on Land No.45/2013/QH13。「現行法」)を全面的に改正する改正土地法(Law No. 31/2024/QH15。「改正法」又は「改正土地法」)が国会で可決されました。改正法は一部を除き2025年1月1日から施行が予定されており、ベトナムにおける不動産実務に大きく影響を及ぼすことが考えられます。
改正法のポイントは多岐に亘りますが、本レターでは、MHM Asian Legal Insights 第157号(2023年11月号)※1でご紹介した2023年10月13日付けの改正法案のトピックを中心に、日系企業による不動産開発実務に影響を与える可能性がある重要なポイントに絞ってご紹介します。
(1) 外国投資企業が土地使用権を譲り受けることができる事由
現行法下では、外国投資企業(Foreign-Invested Enterprisesをいいます。一般的に外国投資家が一部でも出資しているベトナム法人をいうと考えられています。)が私人や私企業から土地使用権を譲り受けることは、一定の例外類型を除き、原則として認められません。
改正法では、まず、外国投資企業という用語に代わって外国投資経済組織(Foreign-Invested Economic Organizations)という用語が使用され、外国経済組織とは、「投資法上、土地を利用する投資プロジェクトを実施するために、外国投資家について定められた条件を満たし投資手続を行わなければならない経済組織」と定義されています。そして、外国投資経済組織は、工業団地、工業クラスター、ハイテク団地において私人や私企業から土地使用権を譲り受けることができることとされています。
改正土地法上の外国投資経済組織は、投資法上の概念を参照する形で定義されているため、その範囲を画するためには、投資法の規定を確認する必要があります。この点に関して、投資法には、外国で設立された法人や外国人等の外国投資家と同様に外資規制に服する類型として、いわゆる「みなし外国投資家」の範囲を定める条文が設けられており、例えば、定款資本の50%以上を保有する経済組織等が「みなし外国投資家」に含まれます。その結果、この投資法上の「みなし外国投資家」に該当しなければ、外資の出資を受け入れているベトナム法人であっても、純粋な内国投資家と同様に、私人や私企業から土地使用権を譲り受けることができると考えられます。もっとも、この点は不動産の実務に与える影響が大きいところであり、実際の当局による解釈・運用動向も含め、引き続き議論を注視する必要があります。
(2) リース土地使用権の土地使用料が一括払いとなる場合の限定
ベトナムの土地使用権は、(その取得態様及び土地使用権者に許容される利用形態に応じて)割当土地使用権とリース土地使用権に大別され、そのうちリース土地使用権については、当局への土地使用料の支払方法に応じて、(i)土地使用料が一括払いのリース土地使用権と、(ii)土地使用料が年払いのリース土地使用権に分類されます。現行法上、この一括払いと年払いのリース土地使用権の主な違いとしては、一括払いのリース土地使用権は当該土地使用権を対象とする譲渡・担保提供・サブリース等が原則可能であるのに対して、年払いのリース土地使用権は当該土地使用権を対象とする第三者への譲渡・担保提供が認められず、かつ、サブリースも一定の場合を除いて認められない点にあります。
そして、現行法下では、当局からリース土地使用権を取得する場合、土地使用料の支払いについて一括払いと年払いのいずれかを選択することができ、また、年払いのリース土地使用権を一括払いのリース土地使用権に変更する申請を行うこともできる制度となっています。
これに対して、改正法では、土地使用料の一括払いが認められる場合が、以下に限定されました。
①農業、林業、養殖業、製塩業の投資プロジェクトを実施するための土地利用
②工業団地、工業クラスター、ハイテク団地、工業団地内の労働者用宿泊施設の土地利用
③公共事業用地の事業目的への利用、観光・オフィス事業活動のための商業・サービス用地の利用
④住宅法に基づく賃貸社会住宅(住宅支援プログラムの恩恵を受ける事業体が使用するために政府が支援する住宅)の建設のための土地の使用
この改正により、譲渡・担保提供・サブリースの対象となり得る年払いのリース土地使用権の取得可能な場合が限定されることから、土地使用権への担保設定を組み込んだデット性の資金調達や、第三者への土地使用権譲渡の方法によるエグジットを行うことができるプロジェクトが限定されるといった影響が出ることが懸念されます。
(3) 土地使用権・建物の抵当権者の範囲の拡大
現行法上、土地使用権及び土地上の建物については、ベトナム国内にて営業を行うことを許可された金融機関を抵当権者としてのみ抵当権を設定することができるとされており、このような金融機関以外の法人・個人が抵当権者となることは認められていません。
これに対して、改正法では、土地使用権及び土地上の建物について、抵当権設定者が「みなし外国投資家」(詳細は上記(1)ご参照)以外の法人であれば、上記金融機関のみならず、「その他の法人」・個人のために抵当権を設定することが認められることとされており、抵当権者の範囲が拡大されています。なお、この「その他の法人」については、上記抵当権設定者と同様、その他の「みなし外国投資家」以外の法人(すなわち、内国投資家や内国投資家と同様に扱われる外国投資企業)を意味すると考えることが合理的と思われます。
実務上、この抵当権者の範囲が不動産開発プロジェクトのストラクチャーに影響を及ぼすケースは少なくなく、ベトナム国内の金融機関のみならず、より広い範囲の属性の法人・個人にも土地使用権及び建物への抵当権の設定を受けることが認められることとなれば、より柔軟なストラクチャーを採用できるようになる可能性もあります。
(4) 年払いのリース土地使用権に関する賃借権の新設
現行法下では、土地使用権のうち、譲渡・担保設定が認められるのは原則として割当土地使用権及び一括払いのリース土地使用権であるところ、改正法では、土地に付随する資産の売却と同時に譲渡される場合に限り、一定の条件(例えば、当該土地に付随する資産が土地使用権証書に登録されていること等)を満たす場合には、年払いのリース土地使用権に関する賃借権の譲渡が可能となります。条件付きではあるものの、譲渡対象となる土地使用権の範囲が拡大されたことにより、不動産開発のストラクチャーに影響を与え得ると考えられます。
(5) 土地に関する紛争の管轄権
ベトナムの民事手続法上、「ベトナム内にある不動産に対する権利に関する民事訴訟」はベトナムの裁判所が専属管轄を有すると規定されています。当該規定は抽象的であり、具体的にどの範囲で裁判所が専属管轄を有するかについては議論があるところです。
これに対して、改正法では、「土地に関連する商業活動から生じる紛争」については、ベトナムの裁判所又はベトナムの商事仲裁により解決されなければならないと規定されています。
もっとも、現行法と同様、改正法上ベトナムの裁判所又は商事仲裁に専属管轄が認められる範囲は不明確であり、場合によっては想定以上に広く解釈される可能性もある点に留意を要します。
以上は改正内容の一部であり、改正法では、土地使用権取得のためのオークション・入札に関する規制の改正等、他にも重要な改正が含まれています。ベトナムの不動産関連の法制の改正動向については、改正土地法のみならず、MHM Asian Legal Insights第159号(2024年1月号)※2でご紹介したベトナム改正住宅法や改正不動産事業法の改正も含め、改正内容を子細に確認・検討しておくことが肝要といえます。
(ご参考)
※1 MHM Asian Legal Insights第157号(2023年11月号)
2. ベトナム: 土地法改正案の国会への提出
https://www.mhmjapan.com/content/files/ 00069341/20231121-112819.pdf
※2 MHM Asian Legal Insights第159号(2024年1月号)
3. ベトナム: 改正住宅法・改正不動産事業法の成立
https://www.mhmjapan.com/content/files/00069711/20240122-034324.pdf
本記事掲載URL
20240325-043030.pdf (mhmjapan.com)
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作