2024.01.04
シンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第98回「 就労ビザのCOMPASS制度の導入」
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第98回「 就労ビザのCOMPASS制度の導入」
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◇シンガポール
シンガポール労働省(Ministry of Manpower:「MOM」)は、2023年9月1日、一般的に日本人がシンガポールで取得する就労ビザであるEmployment Pass(「EP」)について、新たな審査枠組みとして、Complementarity Assessment Framework(「COMPASS制度」)の運用を開始しました。COMPASS制度は、EPの新規申請には2023年9月1日から、EPの更新申請には2024年9月1日から適用されます。
シンガポールでは、原則として、ローカル人材(シンガポール国民・永住権保持者)向けの求人広告を所定の媒体(MyCareersFuture)で最低14日間掲載する必要があり、適切なローカル人材がいなかった場合に外国人の雇用を検討し、EPを申請することができます。次に、このCOMPASS制度の下でEPの申請が認められるには、月額給与の最低基準(原則5,000シンガポールドル(約53万5,000円))を満たす必要があることに加え、以下のC1~C4の基本基準及びC5~C6の附属基準に照らして合計40ポイント以上を獲得する必要があります。本稿では各基準項目の概要について紹介いたします。
(1) C1.申請者の給与
C1.申請者の給与 基準 ポイント 年齢に応じた月額固定給与額が上位10%以内に属する場合 20 上位35%以上、10%未満に属する場合 10 上位35%に満たない場合 0
(2) C2.申請者の学歴
C2.申請者の学歴 基準 ポイント トップティア機関卒業 20 上記以外の大学卒業又は専門資格保持者 10 上記以外 0
MOMは、QS世界大学ランキング等を参考に、独自のトップティア教育機関のリストを策定しており、同リストがウェブサイトで公開されています(日本の大学も含みます)。申請者が同リスト掲載大学の卒業生である場合には20ポイントが付与され、それ以外の大学の卒業生又は専門資格保持者には10ポイントが付与されます。
C3.企業の多様性 基準 ポイント 申請者の国籍が、スポンサー企業の従業員の国籍別割合の5%未満を占める国籍である場合 20 5%~25%未満を占める国籍である場合 10 25%以上を占める国籍である場合 0
基準Cでは、スポンサー企業のPMET従業員における国籍構成に応じて、ポイントが付与されます。外国人従業員の国籍が偏らないようにする目的で、申請者の国籍がスポンサー企業の既存の外国人従業員らの国籍と異なる場合に、より高いポイントが付与されます。
C4.企業の現地雇用支援 基準 ポイント スポンサー企業のローカルPMET割合が、所属する事業セクターの基準値の上位50%以内に属する場合 20 上位80%以上、50%未満に属する場合 10 上位80%に満たない場合 0
基準C4では、スポンサー企業のPMET従業員に占めるローカルPMET従業員の割合(「ローカルPMET割合」)に応じてポイントが付与されます。MOMによる事業セクターごとの統計基準値に照らし、スポンサー企業のローカルPMET割合が、所属する事業セクターにおける基準値の上位に位置付けられる場合にポイントが付与されます。
(5) C5.申請者の技能
基準C5では、シンガポールにおいて人材が不足している職業に申請者が従事する場合に、ポイントが付与されます。人材不足とされる職業リスト(「不足職業リスト」)はMOMのウェブサイトで公開されています。不足職業リストには、現在、アグリテック、金融サービス、グリーン・エコノミー、ヘルスケア、情報通信技術及び海運・海事の6分野から27の職業が掲載されています。
なお、職務内容、職務経験及び資格・認定につき厳格な審査が課されることに留意が必要です。
C5.申請者の技能 基準 ポイント 不足職業リストに掲載の職業に従事し、スポンサー企業の全PMET従業員の国籍別構成に占める割合の3分の1未満に該当する国籍の場合 20 不足職業リストに掲載の職業に従事し、スポンサー企業の全PMET従業員の国籍別構成に占める割合の3分の1以上に該当する国籍の場合 10
(6) C6.企業の戦略的経済優先
基準6では、シンガポール政府の政策により、各省庁、経済機関及び労働組合等の関連機関が推進する所定のプログラムにスポンサー企業が参画する場合にポイントが付与されます。所定のプログラムのリストがMOMのウェブサイトで公開されていますが、プログラムの数・内容は限定的で、ポイント獲得には関連推進機関の推薦が必要となります。
C6.企業の戦略的経済優先 基準 ポイント 所定のプログラムに参画 10
なお、COMPASS制度運用においては一定の緩和措置が設けられており、固定月額給与が22,500シンガポールドル(約241万円)以上の場合、COMPASS制度の適用が免除されます。また、小規模会社向けの緩和措置として、基準C3及びC4において、スポンサー企業のPMET従業員の人数が25名未満の場合は、自動的に10ポイントが付与されます。
COMPASS制度の導入によって、シンガポールにおけるEP発給に必要とされる基準値がある程度公開され、日系企業をはじめとする企業は外国人の採用及びEP取得に向けてより具体的な事前検討が可能となりましたが、COMPASS制度における上記基準はMOMにより定期的に更新されるともされており、申請時期に合わせて最新情報を確認する必要があると思われます。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
本記事掲載URL
20231220-120023.pdf (mhmjapan.com)
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作