2024.03.05
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第74回「会社は株主を除名することができるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第74回
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『 会社は株主を除名することができるか』
ある有限責任会社は株主A、B、Cの共同出資によって設立された会社である。会社定款により、各株主が払込を引き受けた出資額はいずれも100万元であり、出資期限はいずれも2023年12月31日である。
2023年12月31日までに、AとBは期限通りに出資金を全額納付しており、Cだけは10万元しか納付していない。会社はCに納付を催促しようとしたが、Cが個人の借金トラブルでC名義の執行可能な財産がなく、裁判所によって信用喪失執行債務者リストに入れられたばかりであることを発見した。
これにより会社は「Cが今のところ未納付の出資金を追納できない」と判断し、Cを除名するつもりである。但し、Cを除名できるか否かについては社内で意見が一致しない。この場合に、会社はCを除名することができるか?
『分析』:
株主除名規則について、『会社法解釈三』第17条第1項には、「有限責任会社の株主が出資義務を履行せず、又は全ての出資の払戻を受け、会社から納付や返還を催促された後も合理的な期間内になお納付や返還しておらず、会社が株主会決議により当該株主の株主資格を解除し、当該株主が株主資格解除行為の無効を請求する場合は、人民法院は当該株主の請求を認めない。……」と規定している。
司法判例からみて、上述の規定は会社による株主資格の解除を認めているが、当該株主資格の解除方式が他の救済方式よりも厳しく最終的なので、当該株主除名規則の適用は株主が出資義務を履行しておらず、又は全ての出資の払戻を受けた場合にのみ限定されている。
出資義務を全面的には履行しておらず、又は一部の出資の払戻を受けた株主は当該株主除名規則の適用を受けない。従って、会社は上述の規定に基づき、出資義務を全面的には履行していない株主Cを除名することができない。
但し、2024年7月1日に施行される新『会社法』第52条では、上述の株主除名規則に基づいて株主失権制度を確立している。株主失権制度は、株主が期限通りに出資金を全額納付していないというジレンマを解消することができる。
株主失権制度とは、株主が会社定款で定められた出資期限通りに出資義務を履行しておらず、会社から出資を督促された後もなお履行していない場合は、会社の通知により、当該株主が未払込の出資金に相応する持分を喪失することを指す。ここでいう「出資義務の履行」は2つの状況を含む。1.出資義務を全然履行していない。2、出資義務を全面的には履行していない。株主失権制度の手続の流れは以下の通りである。
1、支払督促状を出す。有限責任会社の取締役会は(取締役会を設置しない場合に取締役とし、以下同様)株主の出資状況に対して子細に調査を行うものとし、株主が会社定款で定められた出資金を期限通りに全額納付していないことを発見した場合、会社は当該株主に書面で支払督促状を出し、出資を督促するものとする。支払督促状において、出資金を納付する猶予期間を明記することができる。猶予期間は会社からの支払督促状の発行日から60日間を下回ってはならない。
2、取締役会決議を下す。期限通りに出資金を全額納付していない株主が支払督促状を受け取った後も、猶予期間内になお出資義務を履行できない場合、取締役会は当該株主への失権通知の発行について、相応の取締役会決議を下すものとする。
3、失権通知を出す。会社は取締役会の決議により、期限通りに出資金を全額納付していない株主に書面で失権通知を出す。注意すべきことは、当該株主が未納付の出資金に相応する持分を喪失する時点を失権通知の発行日とする。
会社は失権通知を出した後、持分喪失後の処理にも注意すべきである。喪失した持分は以下の方式で順次に処理することができる。①法により当該持分を譲渡するか、又はそれに応じて登録資本金を減少させ、かつ当該持分を抹消する。②6ヶ月以内に譲渡又は抹消できない場合、会社の他の株主はその出資割合に応じて相応の出資金を全額納付する。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員