2024.01.04
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第72回「退職証明書に退職理由を明記できるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第72回
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『 退職証明書に退職理由を明記できるか』
張さんは規則制度に違反したため、労働契約を解除された。会社から発行された「退職証明書」には、「会社の規則制度に著しく違反した」という退職理由が記載されている。張さんは訴訟を提起し、「退職証明書は違法で、退職理由を記載すべきではなく、当該マイナス評価は自分の再就職に影響を与えた。」と主張し、「会社に退職証明書を再発行させ、かつ再就職がうまくいかず、他社に入社できないことによる収入の損失を賠償する」よう請求した。
『分析』:
『労働契約法実施条例』第24条には、「雇用企業から発行される労働契約解除・終了証明書には、労働契約期間、労働契約の解除日又は終了日、職位、当該企業での勤続年数が明記されなければならない。」と規定している。
上述の法律では、退職証明書に記載すべき内容を定めているが、雇用企業が退職証明書に退職理由などを追加できるか否かを明確にしていない。実務において、裁判所はこのような事件に対して通常、退職理由の記載が事実であるか否かを重点的に審査する。
もし裁判所は審理の上、「退職証明書に記載される退職理由が客観的事実と合わない」、例えば、従業員の「重大な規則制度違反」、「不適任」などの状況がないと判断した場合、通常、「退職理由が客観的事実と合わない。雇用企業に過ちがある。」として、雇用企業に「退職証明書」を再発行させる。もし裁判所が審理の上、「従業員が確かに退職証明書の記載状況に該当する」、例えば、「従業員が連続して無断欠勤し、労働契約を解除され、又は考課に合格しなかったなど」と判断した場合、「法律では雇用企業が退職証明書において他の内容を追加する権利を排除しておらず、かつ記載内容が事実と一致する」として、従業員の退職証明書再発行請求を棄却する。
雇用企業が退職証明書を再発行すべきだと認定された場合に、従業員は元の退職証明書により再就職に影響を受けたことによる損失の賠償を請求したければ、通常、再就職の失敗と退職証明書との間に因果関係があること及び損失の計算根拠などを立証する必要がある。例えば、新しい就職先の「採用意向書」、「退職証明書の記載により採用しない」旨のチャット履歴など。裁判所は因果関係及び証拠の証明力などを考慮して判断する。実務において、裁判所は「雇用企業から発行された退職証明書に過ちがある」などの要素を総合的に考慮して情状を酌量した上で、「雇用企業が従業員に一定の賠償を与えるべきである」と認定したケースがある。
以上のことから、雇用企業は退職証明書を発行するときは、紛争を回避するために、できる限り上述の法令に従い関連事項を記載したほうがよい。退職証明書において法令以外の情報を記載する必要がある場合は、真実性、合理性、正当性に注意するべきである。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員