2025.12.25
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第94回『競売物件に関する「賃貸料紛争」』

- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第94回
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『競売物件に関する「賃貸料紛争」』
『経緯』
2021 年 2 月 13 日、張さんは公開入札により、ある「有効な賃貸借関係が存在す る」競売物件を購入した。競売公告では「不動産の賃貸借期間は 2021 年 12 月まで とする」ことを記載している。2021 年 4 月 13 日、執行裁判所は「不動産の差し押さえ を解除し、不動産名義人を張さんに変更する」と執行裁定を下した。不動産の名義 変更は行われたが、賃貸料について紛争が起こった。2020 年 10 月 27 日から、賃 借人は要求通りに執行裁判所に賃貸料を支払っている。
張さんはそれを知った後、 すぐに執行異議を申し立て、執行裁判所に対して「2021 年 2 月 13 日(競売成立日) 以降の賃貸料の執行を中止し、その日以降の賃貸料が張さんの所有に属すること を確認する」よう請求した。 当該執行異議は 3 つの等級の裁判所の審査を経た。執行裁判所は 2021 年 9 月 16 日に「張さんの請求を棄却する」と裁定を下した。張さんは不服で、中級裁判所 に複議を申請し、中級裁判所は 2021 年 12 月 9 日に「張さんが執行裁判所に対し、 2021 年 4 月 13 日(所有権移転日)以降の本件不動産の賃貸料に対する執行を中 止させる請求は成立する。張さんのその他の請求を棄却する」と裁定を下した。執 行債権者である彭さんは不服で高級裁判所に上告を申し立て、高級裁判所は 2022 2 年 3 月 30 日に「張さんの上告を却下する」と裁定を下した。
『分析』
本件係争の焦点は、執行対象となる不動産に賃貸借権が設定されている場合に、 競売が成立した後、賃貸料権益の帰属を如何に認定すべきかにある。『〈中華人民 共和国民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院の解釈』(2020 年改正)第 493 条には、「競売が成立した場合、又は物で債務を返済するという裁定を法定手続に より下した場合、目的物の所有権は競売成立の裁定又は物で債務を返済する裁定 が買受人又は債務返済に用いる物を受け取る債権者に届いた時に移転される。」 と規定している。
従って、競売成立の裁定が張さんに届いた時、本件不動産は張さ んの所有になった。張さんは合法的な所有権者になった後、不動産に対して占有、 使用、収益受取、処分を行う権利を持つはずで、賃貸料の受取は「収益権」の核心 的な体現である。競売公告では「当該不動産は販売時に有効な賃貸借契約関係が 存在する」ことを記載しているだけで、不動産所有権移転後の賃貸料権益の帰属を 明確にしていない。買受人が対価を支払って不動産を取得したのに、相応の賃貸 料収益を獲得できなければ、明らかに不公平である。最終的に裁判所は、「2021 年 4 月 13 日(所有権移転日)以降の賃貸料は張さんの所有になる」と認定した。
本件の「賃貸料紛争」は最終的に物権の基本ルールを尊重し、競売の公平性を 保障することで終止符を打った。本件はシンプルであるが、「有効な賃貸借関係が 存在する」競売物件について明確なルールを確立した。
(1)競売が賃貸借に影響を及ぼさない:不動産上の合法的な賃貸借契約は競売 によって消滅することにはならず、買受人(新しい大家)は元の賃貸借契約を履行し 続けなければならない。
(2)賃貸料収益権は所有権と同時に移転される:法により新しい大家になると、 賃貸料を受け取る権利は同時に移転され、賃貸料権益の移転は所有権移転の法 律上のタイミングによるもので、競売成立日や支払日によらない。
(3)競売公告にも法的効力がある:裁判所が競売公告において賃貸借契約の情 報を明確にするのは、賃借人の利益を保護するだけでなく、競売人に目的物の状 況を全面的に理解させるためである。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員





