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2025.11.07

【中国】陳弁護士の法律事件簿/第92回『奢る約束が「割り勘」になった場合、どちらが負担するべきか』
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第92回
奢る約束が「割り勘」になった場合、どちらが負担するべきか

『経緯』

ある日、甲は大学同級生のウィーチャットグループに「会食を開催する運びとなりました。皆様お誘い合わせの上、ぜひご参加ください。私がおごるよ」というメッセージを送った。会食場所は高級レストランであり、当日は計18人が参加した。会食中、甲は口頭で全員に「今日は海鮮料理もお酒も、どうぞご自由にお召し上がりください。全ては私が負担する。」と言った。参加者はそれを聞いて、オーストラリアのロブスターなどの高価な料理とお酒を注文した。会食が終わった後、甲は5万元近くにもなるのを見て、すぐに「割り勘」にすることを要求した。甲と参加者の争いが続き、警察の調停を経て、最終的に「割り勘」で食事代を支払った。その後、18人は共同で訴訟を起こし、甲に各自支払った食事代を返金させることを請求した。

『焦点』

合理的な範囲を超えた食事代は奢る約束をした甲が負担すべきか、それとも参加者全員が共同で負担すべきか。
 
『分析』


本件の食事代の負担については、2つの意見がある。
一つの意見は、『民法典』第657条には、「贈与契約は、贈与者が自分の財産を無償で受贈者に与え、受贈者が贈与を受ける意思を示す契約である。」と規定している。本件の甲がウィーチャットグループに送った招待メッセージ及びレストランで示した態度は性質上、甲が今回のすべての食事代を無償で負担したい意思を表す贈与契約である。18人の同級生が招待に応じて出席し、注文したことは、贈与を受けたことを意味する。

これにより、甲と18人の同級生との間で「今回の食事代は甲が負担する」ことについて、合法的かつ有効な口頭贈与契約は成立した。したがって、甲が会計時に割り勘を要求することは、当該贈与契約において負うべき義務を履行しないことに該当する。従って、甲は全ての食事代を負担すべきであるというものである。
もう一つの意見は、甲は奢る約束をしたが、その範囲を合理的な期待に限定すべきである。実際の消費の中でその合理的な期待を超えた部分は、甲が約束時に予見しなかったし、自発的に負担したい損失でもない。又、参加者は注文時に合理的な注意義務を尽くさなかったので、公平と信義誠実の原則に基づいて、合理的な範囲を超えた食事代は甲が一方的に負担すべきではなく、実際に消費した全員が共同で負担すべきであるというものである。  

『ヒント』

友情に基づいた行為は法律の「真空地帯」ではない。招待者は慎重に約束し、必要に応じて金額や食べ物、飲み物に対して一定の範囲に制限するものとする。一旦約束したら、誠実に履行するべきである。招待客は善意と信義誠実の原則を堅持し、相手の招待意欲と経済的負担能力を尊重するとともに、過剰消費や浪費の言い訳に友情を濫用することを避けるべきである。


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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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