2025.07.24
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第89回『フレックスタイム制と年俸制を適用する高級管理職に残業代を支払うべきか』
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第89回
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『フレックスタイム制と年俸制を適用する高級管理職に残業代を支払うべきか』
甲は上海市のA社で高級管理職を務め、労働契約では「甲の年俸は75万人民元とし、甲の職位は許可を得てフレックスタイム制を実行する。」などを約定している。2025年7月、甲は法定祝日に残業したとしてA社に残業代の支払いを要求した。
『分析』:
(1)フレックスタイム制を実行している状況下で、雇用企業は従業員に法定祝日に勤務させる場合、残業代を支払うべきか?
『上海市企業賃金支払弁法』では、人的資源・社会保障行政部門の許可を得てフレックスタイム制を実行している労働者が法定休日・祝日に企業の指示で勤務する場合、企業は本条第(三)号の規定に従い残業代を支払う。」ことを規定している。当該規定によると、上海市では、雇用企業はフレックスタイム制を実行している従業員に法定休日・祝日に残業させる場合、残業代を支払うものとする。深セン市では同じ意見を持っている。北京、天津、広東では、残業代を支払う必要がないことを規定している。
(2)年俸制を実行している状況下で、従業員に残業代を支払う必要があるか、つまり年俸には残業代が含まれるのは当然であるか?
残業代は時間外労働に対する補償である。『労働契約法』の規定によると、雇用企業は残業を指示する場合、国の関連規定に従い労働者に残業代を支払うものとする。原則として、年俸には残業代が含まれるのは当然ではない。年俸には残業代が含まれるか否かは、双方が明確に約定する必要がある。明確な約定がなく、残業の事実がある場合は、依然として法に従い残業代を支払うものとする。一部の地域、例えば恵州市、江門市、梅州市、中山市には例外規定がある。具体的に言えば、雇用企業と高い賃金を約定した高級管理職、高級技術者など、および標準労働時間で労働時間、労働報酬を測ることが難しく、雇用企業と高い年俸を約定した労働者が残業代を請求する場合は、通常認められない。
もし本件の甲とA社は労働契約において年俸額のみを約定し、年俸の構成を約定しておらず、年俸には残業代が含まれることも約定しておらず、甲の残業事実がある場合、A社は甲に残業代を支払うものとする。
ヒント:
フレックスタイム制と年俸制を同時に実行する高級管理職に対して、残業代を別途支払う必要があるか否かは、以下の要素を同時に考慮するべきである。
1、労働契約履行地におけるフレックスタイム制の残業代に関する支給規定。
2、労働契約またはその他の書面文書では年俸の構成を約定しているか否か、年俸には残業代が含まれるか否か。
3、労働者の残業は雇用企業の規定通りに承認手続を経たか否か、つまり、残業の事実があるか否か。
以上のことから、フレックスタイム制と年俸制を実行する高級管理職は勤務時間の柔軟性が大きく、賃金が高いなどの特徴がある。もし雇用企業が制定した報酬が、発生し得る残業代をカバーできるならば、労働契約において「年俸には残業代が含まれる」こと及び年俸の構成を明確に約定し、かつ残業承認手続を整備し、残業代による紛争を避けるべきである。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員