2025.04.11
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第113回「Food Safety and Security Billの成立-食品関連法令の統合・強化」
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第113回「Food Safety and Security Billの成立-食品関連法令の統合・強化」
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◇シンガポール
2025年1月8日、シンガポールの国会において、Food Safety and Security Bill(食品安全及び食料安全保障法案:「FSSB」)が承認されました。FSSBの目的は大きく分けて以下の3つです。
●既存の食品関連法令を統合し合理化すること
●消費者をより保護するため、食品安全体制を強化すること
●食料供給力を強化すること
(1) 既存の食品関連法令の統合および合理化
MHM Asian Legal Insights第166号(2024年8月号)※1でもお伝えしたとおり、シンガポールでは、安全な食品の供給を確保することを目的として、2019年にSingapore Food Agency(シンガポール食品庁:「SFA」)が設立され、農水産物の生産・輸入(検閲を含む。)・販売を所管していました。今般、FSSBの導入により、SFAが所管する1973年Sale of Food Act(食品販売法:「SOFA」)、1999年Wholesome Meat and Fish Act(「WMFA」)、1987年Environmental Public Health Act(「EPHA」)をはじめとする9つの食品関連法令が一つの法律に統合されることになりました。
FSSBの成立により、異なる法律に存在していた既存の規制が統合・標準化され、共通の罰則枠組みが構築されることにより、食品関連法令の複雑さが軽減され、ひいては公衆衛生の保護に向けたコンプライアンスの強化が期待されています。
(2) 消費者保護を目的とした食品安全体制の強化
既存の法的枠組みにおいては、不衛生又は不適切な食品の販売はSOFAにより規制されている一方で、小売業はEPHAにより規制されており、また、WMFAは食肉及び魚類製品のみを規制対象としているなど、行為態様や取扱対象となる食品の種類により規制の根拠となる法令が異なっており、また、罰則も各法令により定められていました。FSSBでは、販売のみならず、食品の移動、無料配布等、あらゆる形態の食品流通が規制対象とされており、商品の種類や事業活動にかかわらない、より包括的な違反規定及び罰則が設けられています。
例えば、既存の法的枠組みでは、消費に適さない肉や魚を販売した違反者に対してはWMFAの下で最高5万シンガポールドル(約560万円)の罰金が科せられる一方で、他の食品であればSOFAの下で最高5,000シンガポールドル(約55万6,000円)の罰金が科せられることになっていました。一方で、FSSBにおいては、食品の種類や事業活動に関わらず、安全ではない食品を取り扱った違反者に対しては、初犯の法人の場合は5万シンガポールドルの罰金(約560万円)、初犯の個人の場合は2万5,000シンガポールドル(約280万円)の罰金若しくは最長12か月の懲役、又はその両方とされています。
(3) 食料供給力の強化
FSSBでは、食料供給力の強化を目的として、①サプライチェーンに関わる事業体に対して、特定の製品又は農作物の在庫保有を義務付けるMinimum Stockholding Requirement(最低在庫保有要件:「MSR」)を設けることを可能とし、また、②第一次生産活動を行うライセンシーに対してFarm Management Plan(農場経営計画:「FMP」)の作成を義務付けています。
MSRについては、現時点で米以外の商品に対して対象を拡大する計画はないようですが、今後追加の対象製品又は農作物に対してMSRが設けられる可能性があります。また、FMPについては、例えば農家であれば、廃棄物、飼料、疾病管理といった項目について対応する手法やプロセスを検討する必要があるとされています。
(4) FSSBの施行予定
FSSBは2028年までに段階的に施行される予定であり、特定の食品及び非包装飲料水に関する規定については2025年後半から施行される予定です。
(ご参考)
※1 MHM Asian Legal Insights第166号(2024年8月号)
6. シンガポール: シンガポールにおける食料政策
https://www.morihamada.com/system/files/newsletters/newsletters/pdf/20240820-093514.pdf
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
本記事掲載URL
https://www.morihamada.com/system/files/newsletters/ja/asian-legal-insights/20250321/01.pdf
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作