2021.04.27
シンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第66回『外国人就労ビザ発給規制の強化』
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第66回
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このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第124号(2021年4月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇シンガポール:外国人就労ビザ発給規制の強化
シンガポールの外国人就労ビザ(「就労ビザ」)発給を管轄するシンガポール労働省(The Ministry of Manpower:「MOM」)は、シンガポール国籍又は永住権保持者らの国内人材(「国内人材」)を対象とした従前からの雇用促進政策に加えて、COVID-19の影響による国内外の経済状況に鑑み、昨年から就労ビザ発給条件の変更を行うなど、就労ビザ発給については規制強化の方向性を示しています。外国人を雇用しているシンガポール企業は今後の規制動向にも引き続き留意が必要です。本稿では、昨年からこれまでに発表された就労ビザ発給規制強化策の大きな流れをご紹介します。
(1) 就労ビザの最低給与基準の増額による規制強化
一般職や中堅技術職種に従事する外国人を発給対象者とした就労ビザであるS Pass及び総合職や高度専門職に従事する外国人を発給対象者とした就労ビザであるEmployment Pass(「EP」)の両方において、申請要件の一つである最低給与基準(「基準」)が相次いで増額されました。2020年における具体的な増額の経緯は、以下の表のとおりです。
なお、この基準は就労ビザ申請者の年齢や経験年数に比例して上昇するとされており、年齢や経験年数が高い外国人の就労ビザ申請に必要な基準も全体的に上昇する点に留意が必要です。これにより、従前と同様の給与設定では基準を満たせず、EPの申請又は更新が出来ないといった事例が生じており、雇用主にも大きな影響を及ぼしています。
(2) 就労ビザ発給枠の削減
S Passの申請に関しては、国内人材の従業員数に基づきMOMから雇用主に対して発給枠が付与され、雇用主はその発給枠の範囲でS Passの申請が出来ます。2021年2月16日付けのMOMの発表において、製造業に分類される雇用主に付与するS Pass発給枠を、2022年からはこれまでの基準である国内人材の従業員数の20%から18%に、2023年からは15%まで引き下げることが決定されています。このようなS Pass発給枠の削減により、国内人材の従業員数を増やさない限りは、雇用主のS Pass発給枠が純減し、現在S Passの発給を受けて就労している外国人の雇用が維持できない結果となるため、雇用主として対応方針の検討が必要となります。
(3) 企業内転勤者(「ICT」)の制度を利用した場合の駐在員の家族帯同制限と将来的な就労ビザ取得制限の可能性
MOMは、原則として外国人を採用する前に最低28日間の国内人材向け求人広告掲載を雇用主に義務づけており(「求人広告掲載義務」)、応募者に対する採用選考を行った上で、採用要件を満たす候補者が国内人材には見つからなかった旨を就労ビザ申請時にMOMに申告する必要があります。ただしこの例外として、世界貿易機関(World Trade Organization:「WTO」)で定義される企業内転勤者(Inter-Corporate Transferees:「ICT」)に該当する多国籍企業の駐在員らに関しては、これまで特段条件が付されること無く、ICTとしてのEP申請であれば求人広告掲載義務が免除されていました。
しかし、2020年11月以降の運用上、ICTを適用した駐在員のEP申請について、引き続き求人広告掲載義務の免除は可能なものの、その場合は原則として駐在員の家族らの帯同家族ビザ(Dependant’s Pass:「DP」)申請が出来ないという新たな条件が課されました。また、MOMは、2020年11月以降にICTの制度を適用してEP発給を受けた駐在員に関して、当該EPの有効期限満了後、将来的に就労ビザの発給を行わないとの立場をとっています。
これらの制限により、駐在員が家族の帯同を希望する場合や、将来的に再びシンガポールでの就労が想定される場合には、駐在員のEP申請に際してICTを選択する実益が乏しくなりました。
(4) DP保持者に対する就労許可証(「LOC」)の発行停止と就労ビザ取得の義務化
シンガポールでは、就労ビザ保持者の家族であるDP保持者の現地での雇用に際しては、最低給与基準等の申請要件設定が無く、また、別途EP又はS Passを取得せずとも雇用主がMOMに就労許可証であるLOCの発行を申請することで、これまでは比較的容易にDP保持者の雇用が可能とされてきました。しかし、2021年3月3日付けのMOM発表によると、原則として2021年5月1日以降はLOCの発行が停止され、LOC有効期限満了後も就労を継続するDP保持者は、別途EP又はS Passの取得が必須となります。したがって、これまでの就労条件ではEP又はS Passの各発給条件を満たせず就労ビザ取得が出来ない場合、DP保持者の就労の継続が困難となる事例が多く発生するように思われます。
上記のとおり、MOMにより様々な角度から就労ビザ発給に関する規制が強化されています。これらは、外国人を雇用している企業にとって重要な検討・考慮事項を含むため、今後の変更点にも引き続き注視する必要があります。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
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