2018.11.19
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㊶「規律違反により解雇された場合でも年次有給休暇を取得できるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿㊶
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規律違反により解雇された場合でも年次有給休暇を取得できるか
A社の従業員である甲は、2017年12月15日に賭博により行政拘留の処分を受けた。A社の『就業規則』の規定によると、従業員が賭博などの行為により行政拘留の処分を受けた場合には、会社は一方的に労働契約を解除することができる。A社は関連規定に従い甲に対し「労働契約解除通知書」を出した。退職手続を行う際に、甲は「勤続年数に基づく10日間の年次有給休暇があるが、2017年度に2日間しか休まなかった。」と主張し、A社に対し残りの8日間の年次有給休暇未消化分の賃金を支払うよう請求した。
『分析』:
従業員が規律違反により解雇される場合に、雇用企業が当該従業員に対し年次有給休暇未消化分の賃金を支払うべきか否かについては、実務において意見が対立する。
一つの意見は、『企業従業員年次有給休暇実施弁法』第12条第1項には、「雇用企業が従業員と労働契約を解除又は終了する際に、従業員の同年度に取得すべき年休を付与できなかった場合には、従業員の同年度の実際に勤務した日数によって未消化年休日数を換算し、未消化年休分の賃金報酬を支払うというものである。但し、換算後1日未満の分については、未消化年休分の賃金報酬を支払わない。」と規定している。
当該条項では、雇用企業が従業員と労働契約を解除又は終了する時に、どのような場合に未消化年休日数を換算して賃金報酬を支払うべきかを明確にしているだけで、労働契約の解除又は終了の事由を明確にしていない。従って、従業員が重大な規律違反により労働契約を解除される場合も、雇用企業は依然として未消化年休分の賃金報酬を支払わなければならないというものである。
もう一つの意見は、『企業従業員年次有給休暇実施弁法』第9条、第10条の規定によると、「雇用企業から付与された年休日数が従業員の取得すべき年休日数を下回る」とは、「雇用企業は生産、業務の具体的状況に応じて、且つ従業員本人の意思を考慮した上で、年休を統一して計画・付与できるが、実際に付与できなかった」という状況を指すというものである。
この場合に、雇用企業は当年度従業員の年次有給休暇未消化分の賃金報酬を支払うものとする。ただし、従業員本人の責任で、即ち従業員が重大な規律違反により労働契約を解除され、これによって雇用企業が計画通りに年次有給休暇を付与できなくなる場合は、従業員本人が相応の責任を負うべきで、雇用企業に対し無理矢理年次有給休暇未消化分の賃金報酬を支払わせるべきではない。
司法判例から見ても、従業員が規律違反により解雇される場合に、雇用企業が従業員の年次有給休暇未消化分の賃金報酬を支払うべきか否かについては、上海市の下級裁判所と中級裁判所は正反対の意見を持っている。以上のことから、人件費などのコストを考慮した上で、雇用企業は年次有給休暇未消化分の賃金報酬を支払う意思がなければ、労働契約の解除又は終了前に従業員に年次有給休暇を全て消化させるよう努めるべきである。
以上
※「陳弁護士の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員