2024.07.01
- その他のアジア【フィリピン】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第104回「 エディ・ガルシア法(映画及びテレビ業界の労働者の保護に関する法律)」
- 【フィリピン】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第104回「 エディ・ガルシア法(映画及びテレビ業界の労働者の保護に関する法律)」
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◇フィリピン
本年5月24日、映画及びテレビ業界の労働者や請負人の保護を目的としたエディ・ガルシア法(共和国法11996号)(「本法」)が成立しました。エディ・ガルシア法は、フィリピンの著名な俳優であるエディ・ガルシア氏(享年90歳)が、2019年に撮影中にケーブルに躓いて転倒して死亡した事故を契機として制定された法律です。同氏の事故は、映画やテレビ業界の労働者の安全や労働環境に関する議論を引き起こし、その結果として、映画及びテレビ業界に従事する労働者及び独立請負人の保護を目的とした本法が制定されました。
本法の概要は以下のとおりです。
(1) 雇用契約等の締結
雇用主や委託者は、雇用又は請負が開始する前に、労働者との契約又は独立請負人との委託契約を締結する必要があります。これらの契約においては、一定の必要的記載事項(役職及び地位、業務内容、契約期間、報酬の詳細(ただし、別途合意がない限り、報酬は15日以内の間隔で支払われるものとされます)、報酬の控除項目、勤務時間、苦情解決制度)を規定する必要があります。なお、これらの契約において、他の撮影企業と契約を締結している者を差別的に扱う内容を定めることは原則として禁止されます。
また、勤務時間は1日8時間(ただし14時間まで延長可能)であり、1週間の勤務時間は最大60時間とされます。1日8時間を超えて勤務する場合や深夜の勤務には割増手当が支給されます。なお、勤務時間については、本法の適用対象となる者の特性を踏まえた特別な規定も盛り込まれています(特殊メークのために必要な時間のうち最初の2時間は勤務時間には含めない、撮影スケジュールのキャンセルは8時間以上前に労働者等に通知しない限り、当初スケジュール通りに執務したものとみなすなど)。
報酬については、最低賃金を下回ってはならないこと、適時に直接支払われること、合意がない限り報酬の控除は許容されないこと、報酬の明細を交付すること等が定められています。
(2) 雇用主等の義務
雇用主等の義務として、労働者等に対して食事、移動、宿泊等の最低限の必需品を提供すること、ハラスメントを行わないこと、労働者等に適切な保険を付すこと、安全衛生に関する一定の義務(安全衛生に関する法令の遵守、安全な労働環境の整備、適切な応急措置及び医療サービスの提供、危険性のある業務に関して危険性の告知、安全性の問題への対処、撮影開始前の安全性に関する労働者等への説明等)を負うことが定められております。
エディ・ガルシア法は、既存の労働法等で認められている権利を改めて確認する内容も少なくなく、また、映画及びテレビ業界の労働者や独立請負人の保護を対象としている点で適用範囲も広いものではありませんが、エディ・ガルシア氏という著名人の事故後、同氏と関係が深い国会議員より、エディ・ガルシア氏の名前を冠した法案が提出されて制定に至ったことは、議員立法が中心であるフィリピンの立法過程が垣間見えるという意味で興味深いように思います。
本記事掲載URL
20240620-054536.pdf (mhmjapan.com)
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作