2023.05.08
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第63回「企業は如何に法に従い反スパイ安全対策を実施すべきか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第63回
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『企業は如何に法に従い反スパイ安全対策を実施すべきか』
最近、関係部門はスパイ活動の疑いで1名の日本人に対して刑事的強制措置を取った。近年、国家安全機関、検察機関、裁判所などが発表した国家安全危害に係る典型的な事件からみて、実際の「スパイ」は映画やドラマにおける特技を身につけ、他国の秘密情報の窃取を職とする者ではなく、大部分は普通のサラリーマンや企業・事業体の管理者である。
『分析』:
周知のとおり、スパイ行為は国家の安全に危害を及ぼし、世界各国はそれを刑事犯罪として処罰している。中国の『刑法』では「スパイ罪」、「海外のために国家秘密、情報を窃取、偵察、買収、不法に提供する罪」などのスパイ犯罪を定めている。
上記のスパイ犯罪の主体は16歳以上で刑事責任能力を有する自然人であり、企業はスパイ犯罪の主体ではない。但し、スパイ犯罪事件が発生すると、企業は必ず影響を受けたり、巻き添えを食ったりする。中国国家安全部が公布した「反スパイ安全防備工作規定」によると、上述のスパイ犯罪事件が発生した企業に対して、国家安全機関は法に従い期限付きの是正を命じることができる。
スパイ犯罪事件が発生した企業は是正期限の満了前に国家安全機関に是正レポートを提出しなければならない。要求通りに是正せず、又は是正要求を満たさない場合は、国家安全機関は法に従い関係責任者に対して強制力のある取り調べ又は行政指導を行い、関連状況を当該組織の上級の主管部門に通報することができる。従って、企業は日常経営において法に従い反スパイ安全対策を実施する必要がある。
一般企業が反スパイ安全対策を実施するには、『中華人民共和国反スパイ法』、『反スパイ安全防備工作規定』の規定に従い、反スパイ安全防備の主体責任を実行し、以下の義務を履行しなければならない。
(一)当該企業の人員に対して国家の安全を保護するための教育を行い、反スパイ安全防備教育・訓練を実施し、当該企業の人員の安全防備意識及び対応能力を高め、当該企業の人員を動員、組織してスパイ行為を防備、制止する。
(二)反スパイ活動のために便宜又はその他の協力を供与する(例えば、国家安全機関に徴用された当該企業の交通手段、通信手段、場所、建物をその要求に応じて引き渡し、国家安全機関に協力して当該企業に関するファイル、資料、物品を取り調べる。国家安全機関に協力して当該企業の電子通信手段、器材などの設備、施設を検査するなど)。
(三)スパイ行為又はスパイ行為に係わり、その他の国家の安全を脅かす行為など不審な状況を発見した場合は、直ちに国家安全機関(又は公安機関などのその他の国家機関、組織)に報告する。
(四)国家安全機関がスパイ行為関連状況を調査・把握し、関連証拠を収集する際に、ありのままに提供しなければならず、拒否してはならない(この義務に違反した場合は、企業の主管者は相応の処分を受けるか、又は国家安全機関により15日以下の行政拘留に処される。情状が深刻な場合は、スパイ犯罪、テロリズム犯罪、過激主義犯罪の証拠提供拒否罪になる疑いがある。虚偽の証明を提供してかばった場合は、庇護罪になる疑いがあり、厳しく処罰される)。
(五)知っている反スパイ活動に関する国家秘密を守る(例えば、国家機関のスパイ行為に対する捜査の手がかり、捜査行動、スパイに対する逮捕行動計画などを漏らしてはならない)。
(六)国家機密に属する文書、資料、その他の物品を不法に所持しない。①特定の国家機密を知るべきではない場合は、当該国家機密に属する文書、資料、その他の物品を携帯、保管してはならない。②特定の国家機密を知ってもよい場合は、手続を行った後に、当該国家機密に属する文書、資料、その他の物品を携帯、保管することができる。
(七)スパイ活動に特に必要な専用スパイ器材を不法に所持、使用しない。「専用スパイ器材」とは、スパイ活動を行うために特に必要な(1)隠匿式の盗聴・盗聴器材。(2)バースト送受信機、ワンタイムパスワード(otp)、ステガノグラフィーツール等のことをいう。(3)情報を獲得するための電子モニタリング、インターセプト器材など、具体的には国務院国家安全主管部門が確認する。
(八)当該企業の反スパイ安全対策管理を強化し、安全対策を実行する。
(九)当該企業と当該企業の従業員に係わる反スパイ安全防備突発状況(スパイ行為、秘密記録媒体の紛失、秘密漏洩、秘密盗み取りが発見された場合などが含まれる)に適切に対応して処置する。
企業が国家安全機関の書面通知を受け、反スパイ安全防備の重点組織と確定された場合、又は重要情報インフラの運営者に属する場合は、法律で別途規定された特別な要求を遵守する必要もある。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員