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2023.03.13

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第62回「業務に起因する精神病は労災と認定されるか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第62回
『業務に起因する精神病は労災と認定されるか

江さんは甲社で働く間に精神疾患を患い、「仕事の過度なストレスによるものだ」と判断し、甲社に対して労災を申請するよう要求した。甲社は江さんの精神疾患が労災・職業病に属さないと判断し、江さんの要求を拒否した。その後、江さんは自分で労災認定部門に労災認定を申請した。調査したところ、甲社の日常業務には確かに任務が困難で、残業が多く、仕事の要求が厳しいなどの状況がある。

しかし、労災認定部門は、「江さんの精神疾患は事故によるものではなく、長期的な仕事のストレスなどによるものである。又、精神疾患は職業病に属さない。」と判断し、最終的に「労災と認定されない」旨の決定書を下した。

『分析』:

従業員が「仕事の原因で精神疾患を患った」ことを理由に、労災・職業病の認定を申請することについては、司法実務において主に以下の観点がある。

1、身体の傷害による精神疾患。身体の傷害が労災と認定された場合に、身体の傷害と精神の傷害との間に密接な関連があるため、身体の傷害による精神疾患は労災と認定される。(2019)閩04行終13号案件において、裁判所は「労災により創傷・ストレス障害が発生し、そして創傷・ストレス障害が自殺をもたらした。これは労災により負傷状態が進み、続いたと理解され、労災と認定されるべきである。」と判断した。

2、劣悪な労働環境による精神疾患。従業員が劣悪な労働環境と精神疾患との必然的な因果関係を証明できる場合は、労災に該当する。但し、多くの場合は、劣悪な労働環境は必ずしも精神疾患につながるわけではないため、労災と認定される可能性が低い。

(2018)最高法行申332号案件において、裁判所は「本件の従業員は統合失調症を患う前に事故又は予想外の傷害を受けたことがなく、職業病と診断されたこともないため、その罹患した統合失調症は労災又は職業病が直接原因ではなく、労災又は職業病に伴い発生したものでもない。

劣悪な労働環境は従業員の心身の健康に影響を与え、これによって統合失調症を誘発する可能性があるが、統合失調症の主な原因は従業員自身の生物学的特徴にあるため、劣悪な労働環境と統合失調症との間に直接の因果関係がなく、労災と認定されるべきではない。」と判断した。 

3、「仕事の過度なストレス」による精神疾患。中国の『職業病分類と目録』などの関連規定では、精神疾病を職業病の範疇に入れていないため、「仕事の過度なストレス」による精神疾病は通常、労災と認定されない。(2014)一中行監字第3656号案件において、裁判所は「従業員自身が仕事中に精神疾患を発症したことは、『労災保険条例』第14条、第15条に規定された労災と認定される状況に合致せず、労災と認定されるべきではない。」と判断した。

以上のことから、従業員は「劣悪な労働環境、仕事の過度なストレスなど仕事の原因で精神疾患を患った」ことを理由に、労災と認定するよう要求する場合、劣悪な労働環境、仕事の過度なストレスと精神疾患との間に必然的な因果関係があることを立証しなければならない。さもなければ、労災と認定されない。但し、従業員は『民法典』の規定に基づき、雇用企業に権利侵害賠償責任を負わせることができる。 
  

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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