2022.12.16
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第59回「ライブコマースにより偽物を購入した場合、どちらに賠償責任を負わせるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第59回
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『ライブコマースにより偽物を購入した場合、どちらに賠償責任を負わせるか』
甲はあるECプラットフォームのライブコマースにより、陽澄湖産の上海蟹を10匹購入した。商品到着後、甲は偽物だと疑い、オンラインで売主にメッセージを残したが、全く返事がなく、やむを得ずECプラットフォームを通じて、当該プラットフォームアカウントを登録したB社と連絡を取った。
B社は、「当該プラットフォームアカウントをとっくにCに譲渡した。ただ名義変更手続を行っていないだけである。」と主張した。甲はCと連絡を取ったところ、Cは「商品を売ることはキャスターDの行為に該当し、Dの虚偽宣伝はD本人が責任を負うべきである。」と主張し、Dは「自分は代理販売するだけで、上海蟹はE社の商品であり、E社が責任を負うべきである。」と主張した。甲はどうしたらよいか分からず苦慮している。
『分析』:
近年、ライブコマースは新しい販売モデルとして急速に発展している。多種多様な形式があるので、消費者は実際の販売主体を見分けることができず、品質問題が発生したら、どちらに権利を主張するべきか分からないことが多い。これについて、中国の法令では関連規定がある。
一、ライブコマースに係る主体
1、ライブコマースプラットフォーム事業者(ライブ配信プラットフォーム)。通常、ライブマーケティングを行う各種のプラットフォームを指す。例えば、淘宝(ドメイン名:www.taobao.com)、天猫(ドメイン名:www.tmall.com)、TikTok(ドメイン名:www.douyin.com)のライブ配信プラットフォーム。
2、プラットフォーム内の事業者(店)。通常、プラットフォーム上で店を開業し商品を販売する店を指す。つまり、淘宝、天猫、TikTokなどのプラットフォームで店を登録する店である。
3、ライブハウス運営者(ライブハウスを開業する主体)。通常、ライブハウスを開業し、ライブコマースにより商品を販売する主体を指す。このような主体は比較的複雑で、上述のプラットフォーム内の事業者がライブハウスを直接開業する、即ち店が自らライブハウスを開業し、店の商品を販売するライブハウス運営者となるケースもあれば、ライブハウスを開業し、専ら他人(その他の店)の商品の代理販売・普及に用いるケースもある。
4、ライブコマース人員(キャスターチーム)。ライブコマースにおいて販売を行う人員、即ちキャスターなどを指す。
二、紛争が発生する場合に責任追及の対象となる主体
1、プラットフォーム内の事業者がライブハウスを開業し、店の商品を販売する。例えば、公式フラッグシップショップがライブハウスを開業し、店の商品を販売するケースはよく見られる。この場合に、プラットフォーム内の事業者とライブハウス運営者が同じ主体であるので、消費者は直接当該主体に責任を負わせることができる。注意すべきことは、キャスターがプラットフォーム内の事業者の従業員であり、ライブコマースでの虚偽宣伝などにより消費者に損害をもたらした場合、職務上の行為と見なされ、賠償責任はプラットフォーム内の事業者が負う。又、キャスター自身が店を登録したプラットフォーム内の事業者であるケースもある。この場合に、賠償責任は当該キャスター(プラットフォーム内の事業者)が負う。
2、ライブハウス運営者と商品販売者が同じ主体ではなく、つまり、商品の実際の販売者以外の主体がライブハウスを開業し、各店の商品を専ら販売・普及する。この場合に、ライブハウス運営者は、消費者が販売者を判別できるように、「販売者ではない」こと及び実際の販売者を表示すべきである。ライブハウス運営者は上述の表示をしたことを証明できなければ、消費者はライブハウス運営者に責任を負わせるよう主張することができる。ライブハウス運営者は上述の表示義務を尽くしたことを証明できる場合は、裁判所は取引形式、ライブハウス運営者と店との約定、店との提携モデル、取引過程及び消費者の認知などの要素を総合的に考慮して分析した上で、認定を行う。
3、ライブコマースプラットフォームが自らライブを行い、プラットフォームの商品を販売する。この場合に、当該プラットフォーム自体が販売者であれば、ライブハウス運営者でもあるので、品質問題が発生したら、ライブ配信プラットフォームが責任を負う。
4、ネットショップを登録後に他人に譲渡する。この場合に、プラットフォーム内の事業者がネットショップを登録した後、協議などによりアカウント及びネットショップを他の事業者に譲渡したが、法に基づき経営主体情報変更公示を行わず、実際の事業者の事業活動により消費者に損害をもたらした場合は、消費者は登録した事業者又は実際の事業者のいずれか一方に賠償責任を負わせるよう主張することができる。
消費者は相手の具体的な情報を把握できず、権利保護が困難な場合は、プラットフォームに情報を提供させることができる。プラットフォームが真実の氏名、名称、住所、有効な連絡先を提供できなければ、消費者はライブ配信プラットフォームに賠償責任を負わせることができる。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員