2022.02.28
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第56回「代表者印の私的使用に対する認定」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第56回
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『代表者印の私的使用に対する認定』
甲はA 社の元法定代表者であり、その後辞職した。ある日、甲は乙から40 万元を借り、借用書を作成し、A 社の法定代表者として使用していた代表者印を押印した。返済期限が到来した後、甲は行方不明になった。乙はA 社を訴え、「甲はA 社の法定代表者として借金したので、A 社は返済責任を負うべきである」ことを主張した。A 社は、「甲は既に辞職した。甲が勝手に私的用途で代表者印を使ったことに対して、A 社は責任を負うべきではない」と主張した。
『分析』:
代表者印は、法定代表者としての職務を履行するために作られ、限られた範囲内において使用される。例えば、小切手などの銀行証券、財務諸表、監査報告書、一部の契約書などにおいて代表者印を押す。日常管理において、通常、代表者印は、会社が他の会社印鑑と併せて保管する。法定代表者が職務を履行し、会社の対外的な代表権を行使する場合にのみ、代表者印は使用される。従って、性質において、代表者印は「公印」の範疇に属し、個人の意思を反映する個人印鑑ではなく、法定代表者の私的用途で使われてはならない。
但し、実務において、法定代表者が勝手に代表者印を使用するケースもある。従って、代表者印の私的使用に係る訴訟が提起された場合、裁判所はケースバイケースで総合的に分析する。例えば、当該代表者印は普段、法定代表者本人が自ら保管・使用するか否か。当該代表者印は法定代表者の私的用途で使われることが多いか否か。代表者印が押印されている書類は、公的文書に属するか、それとも私的文書に属するか。押印する行為は会社の意思を反映するか、それとも明らかに法定代表者の個人的な行為であるかなど。
「代表者印が私的用途で使われ、法定代表者個人の意思を反映する。」ことを立証できなければ、「押印する行為は個人的な行為であり、会社の意思を反映しない」という主張は裁判所に認められない。
以上のことから、会社又は元の法定代表者のいずれか一方が元の代表者印を濫用し、これによってトラブルを起こすことを避けるために、会社の法定代表者を変更し、新しい代表者印を作成した後に、元の法定代表者本人と会社の双方立会いの下、元の代表者印を密封保存又は廃棄した方がよい。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員