2022.11.11
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第58回「個人情報漏洩の予防・救済」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第58回
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『個人情報漏洩の予防・救済』
子供が授業を受けられるように、張さんはある教育機関に申込をし、子供の氏名及び自分の連絡先などを登録した。思いもよらず、翌日から、張さんは相次いで様々な課外教育機関からセールス電話を受け、「個人情報が教育機関に漏らされた」と感じた。類似のケースは他にもある。李さんは5年前に旅行で他の都市のAホテルに宿泊したことがある。最近、李さんにAホテルから電子メールが届き、「ホテルのネットワークがハッキングされ、貴方を含む宿泊客の情報が漏洩した」ことを告知された。個人情報漏洩については、どのような予防・救済措置があるか。
『分析』:
生活において、外部に個人情報を提供することが多い。中国の法律には、個人情報の収集、保存、使用などに関連する明確な規定がある。それにもかかわらず、個人情報が漏洩するケースも珍しくない。これについて、下記の予防・救済措置を取ると考えられる。
一、個人情報取扱者に個人情報を削除させる
『個人情報保護法』第47条には、「以下に掲げる事由のいずれか一つに該当する場合、個人情報取扱者は自発的に個人情報を削除しなければならない。個人情報取扱者が削除しない場合、個人は削除を請求する権利がある。
(1)取扱目的が既に実現した場合、実現が不可能な場合、又は取扱目的の実現のために必要ではなくなった場合。
(2)個人情報取扱者が商品又はサービスの提供を停止し、又は保存期間が満了した場合。
(3)個人が同意を撤回した場合。
(4)個人情報取扱者が法律、行政法規に違反し、又は約定に違反して個人情報を取り扱った場合。
(5)法律、行政法規で定められたその他の事由。法律、行政法規で定められた保存期間が満了しておらず、又は個人情報の削除が技術的に困難である場合、個人情報取扱者は、保存及び必要な安全保護措置を除き、取扱を停止しなければならない。」と規定している。
上述の規定からみて、関連状況に合致する場合に、個人は個人情報取扱者に個人情報を削除させ、かつ確認を行うことができる。本件の李さんはチェックアウト時に、Aホテルに提供済みの個人情報を削除するよう要求し、かつ削除の有無を確認することができる。
二、規範に合わない個人情報取扱行為に対して苦情を申し立てたり、通報を行ったりする
『個人情報保護法』の規定によると、いかなる組織、個人も、違法な個人情報取扱活動について、個人情報保護の職責を履行する部門に対して苦情を申し立て、通報を行う権利がある。国家インターネット情報部門、及び県レベル以上の人民政府関連部門は個人情報保護の職責を履行する部門である。
違法行為を行った個人情報取扱者は警告を受け、違法所得を没収され、個人情報を違法に取り扱うアプリケーションの一時停止又は終了を命じられ、企業及び関係者は過料に処される。情状が深刻な場合、業務の一時停止、営業停止・整理を命じられ、業務許可又は営業許可証を取り上げられる。
従って、本件の張さんは、個人情報が漏洩したことに気づいた後、インターネット管理部門、公安、工商等の関連部門に苦情を申し立てたり、通報を行ったりすることができる。
三、法により損害賠償を請求する
『個人情報保護法』の規定によると、個人情報の取扱により個人情報の権益を侵害し、損害をもたらし、個人情報取扱者は自分に過失のないことを証明できない場合、損害賠償等の権利侵害責任を負わなければならない。損害賠償責任は、個人がこれにより被った損失、又は個人情報取扱者がこれにより得た利益に基づき確定される。個人がこれにより被った損失、個人情報取扱者がこれにより得た利益を確定しにくい場合は、実際の状況に基づき賠償額を確定する。
情報提供者である個人を保護するために、法律では、「訴訟において個人情報取扱者は、本人に過失のないことを証明する立証責任を負わなければならない。さもなければ、賠償責任を負う。」ことを定めた。個人情報漏洩による個人の損失額を確定しにくい場合が多いことに鑑み、損失額の確定について、法律では、個人に有利な規定を行った。
注意すべきことは、個人情報が漏洩した場合は、苦情申立、通報又は訴訟の便宜を図るために、証拠を適時収集、保存するべきである。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員