2022.01.28
シンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第75回「ACRAによる個人情報保護、通信のデジタル化、及び企業の透明性の強化に関連する法改正案の公表」
- 【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第75回「ACRAによる個人情報保護、通信のデジタル化、及び企業の透明性の強化に関連する法改正案の公表」
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このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第133号(2022年1月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇シンガポール: ACRAによる個人情報保護、通信のデジタル化、及び企業の透明性の強化に関連する法改正案の公表
シンガポール会計・企業監督庁(ACRA:The Accounting and Corporate Regulatory Authority)は、2021年12月17日付けで、個人情報保護、通信のデジタル化、及び企業の透明性の強化に関連する法改正案(「本改正案」)を公表し、パブリックコンサルテーションを開始しました。本改正案は、会社法(Companies Act)、事業登録法(Business Names Registration Act)、有限責任事業組合法(Limited Liability Partnerships Act)、ACRA法(ACRA Act)、及びACRAが管理するその他の法律を対象として、登記情報に関する個人情報保護と企業の透明性のバランスを取ることを目的としています。本稿ではその概要についてご紹介します。
(1) 登記情報における個人情報保護及びデジタル通信の促進
ACRAは、ACRAに登録される法人の役職者及び株主に関する「身分証明書番号」及び「居住住所」の届出をそれぞれ義務付けており、これらの情報は現在登記簿上で一般公開されています。本改正案では、個人情報保護の観点から、登記簿上に記載される「身分証明書番号」を部分的に隠して公開すること、及び「居住住所」ではなく「連絡先住所(コンタクト先住所)」を公開される住所とすることが提案されています。本改正案が成立した場合、個人の完全な身分証明書番号と実際の居住住所は一般公開されないこととなります。
また、本改正案においてACRAは役職者と株主に対して電子メールアドレスと携帯電話番号の提供を、事業体には事業用の電子メールアドレスの提供をそれぞれ義務付けることに加え、デジタル通信の促進の観点から、法人がバーチャルメールボックスを通じてACRAとのコミュニケーションをとる仕組みを提案しています。
(2) 登記事項申告における利便性と情報の正確性の向上
本改正案では、シンガポールのスマートネーション化の一環として、ACRAが他の機関や団体からデータを直接取得できるよう、ACRAに以下の権限を与えることを提案しています。
(a) 当事者からの登記申告事項に関する情報を特定の政府機関から取得できる権限
(b) 登記上の情報を検証するために、特定の団体から入手した情報を使用する権限
このような政府間のデジタル通信・データ共有の促進により、これまで申告者側が準備していた情報をACRAが該当政府機関から直接入手できるため、申告者にとって手間が省け登記実務の利便性が増すことや、一般に公開され入手可能な登記情報の正確性を向上させることを目的としています。
(3) 企業や組合の受益者情報の透明性の向上
企業や有限責任事業組合(Limited Liability Partnerships)に関し、実質的な受益者に関する情報の透明性を向上させ、不正な目的で企業や組合が悪用されることを防ぐため、本改正案では現行の法律に対する以下の修正がなされています。
(a) 特定の企業に認められている名目取締役名簿(Registers of Nominee Directors)作成義務の免除制度の廃止
(b) 実質的支配者名簿(Registers of Controllers)の情報の正確性に関する年次精査の義務付け
(c)誤った情報の実質的支配者情報を申告した者に対する最高10,000シンガポールドル(現在の為替レートで約85万円)の罰金の導入(不注意又は誤解、若しくは故意又は詐取の意図なしに不正確な情報を申告した場合も含む。)
(d)実質的支配者名簿登録義務及び名目取締役名簿作成義務に関する法令遵守違反に関する最高罰金額を5,000シンガポールドル(現在の為替レートで約42万5,000円)から20,000シンガポールドル(現在の為替レートで約170万円)に引き上げ
(e)実質的支配者名簿の更新期限を、現行の2営業日から7暦日に延長
これらは、シンガポールが信頼できる金融ハブとして高い評価を維持するための取り組みの一環でもあり、マネーロンダリング規制、テロ資金対策、及び国際金融システムの完全性に対するその他の脅威を排除することを目的とした国際基準に沿ったものとなっています。
本改正案が成立した場合には、個人情報の保護や、登記実務運用上の利便性や情報の正確性の向上が期待されるものの、企業の透明性担保のために求められる登記情報の質を維持する基準が引き上げられている点に留意が必要です。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
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