2021.10.22
- その他のアジア【マレーシア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第72回「移動制限令を理由とした整理解雇について」
- 【マレーシア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第72回
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このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第130号(2021年10月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇マレーシア: 移動制限令を理由とした整理解雇について
マレーシアでは、昨年3月18日に新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための移動制限令が発令され、それ以降、幅広い業種を対象に操業の禁止や制限が続けられました。ワクチン接種の進展に伴い、これらの制限は緩和されつつあります。他方、移動制限令に基づき、経済活動が厳しく制限されていた間に、これを理由として整理解雇された従業員が解雇の有効性を争った裁判の判決が報じられるようになりました。このような動きは今後も続くと思われますので、マレーシアの整理解雇の一般論とともに、ご紹介いたします。
(1) マレーシアにおける整理解雇(retrenchment)の一般論
マレーシアにおいて、雇用主は、従業員に余剰が生じた場合に、整理解雇を行うことが認められています。整理解雇を行う際の手続につき、1975年労使協調行為規則(the Code of Conduct for Industrial Harmony 1975)に定めがあります。このCode of Conduct自体は法的拘束力を持つものではないので、これを遵守しなかったからといって解雇が無効になるわけではありませんが、裁判所が解雇の有効性を判断するにあたり、このCode of Conductに規定される手続に沿っていたかも事実上考慮されているといわれています。Code of Conductは、整理解雇を行う雇用主に対し、整理解雇を行う前に、新規採用の凍結や、既存の従業員の労働時間の削減等に取り組むことを求めており、また整理解雇を行う場合でも従業員に対する早期の通知を行うことや再就職の支援を行うこと等を求めています。
また、整理解雇の対象となる従業員の選別については、雇用法において、外国人従業員をマレーシア人従業員より先に解雇すべきことが求められています。加えて、マレーシア人従業員を解雇する必要がある場合には、雇用された時期の遅い者から先に解雇することが望ましいとされています。
(2) 近時の裁判例
近時、雇用主である企業(被告)が、移動制限令発出による事業への悪影響を理由に、整理解雇を行い、解雇された従業員(原告)が、不当解雇を理由として被告を訴えた事件の判決が出ています。これらの事件において、裁判所は、①リストラを行う必要性が真に存在したか、②整理解雇が必要となるような従業員の余剰が真に生じていたか、③原告を整理解雇の対象者として選定するにあたり、一般的な基準に基づいて選定し、一般的な手続を踏んでいたか、をいずれも考慮の上、整理解雇の有効性を判断するとしています。したがって、移動制限令やこれに伴う操業の禁止・制限があったからといって、整理解雇の有効性を裁判所が直ちに認めるわけではないことに留意する必要があります。
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