2020.12.09
- その他のアジア【カンボジア】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《カンボジア編》第5回「解雇規制」
- 【カンボジア】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《カンボジア編》第5回「解雇規制」
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 《カンボジア編》 第5回「解雇規制」
 
 カンボジアにおける雇用関係を規律する一般的な法令として,労働法(1997年3月13日,法第CS/RKM/0397/01号。労働法139条及び144条を改正する法律(2007年3月24日,法第NS/RKM/0707/020号)による改正,及び労働法を改正する法律(2018 年 6 月 26 日,NS/RKM/0618/010号)による改正を含み,以下「労働法」といいます。)が存在しています。以下では,カンボジアにおいて,使用者側が,期限の定めのない雇用契約を解除する場合に,労働法上必要とされている一般的な要件・手続をご紹介します。
 
 使用者側が期限の定めのない雇用契約を解除する場合の一般的な要件・手続
 カンボジアにおいては,使用者側が期限の定めのない雇用契約を解除する場合,①書面により事前に通知を行い,②原則として年功補償金を支払い,かつ,③解雇には正当理由が必要です。以下,順に検討します。
 
 1. 書面による事前通知
 使用者が期間の定めのない雇用契約を解除する場合,契約を終了しようとする当事者は,書面により解雇の事前通知を行わなければなりません。事前通知期間は,当該労働者の勤続期間に応じて,原則として以下のとおりです。
 勤続期間 事前通知期間 6ヶ月未満 7日 6ヶ月以上2年以下 15日 2年を超え,5年以下 1ヶ月 5年を超え,10年以下 2ヶ月 10年を超える 3ヶ月 
 上記の事前通知期間より短い事前通知期間を定める労働契約,就業規則又はその他の個別の合意の条項は無効となるため,注意が必要です。
 また,使用者が,事前通知を行わず,又は,上記の事前通知期間の定めに違反して雇用契約を終了した場合,労働者が上記の事前通知期間内に受け取ることができた賃金及び全ての手当に相当する金額を,使用者は補償しなければなりません。
 ただし,以下に該当する場合には,事前通知を行う必要はありません。
 
 (ⅰ)契約において定められた試用期間又はインターンシップの場合
 (ⅱ)一方当事者に重大な不履行があった場合
 (ⅲ)不可抗力により一方当事者が義務を履行することができない場合
 
 事前通知が不要となる「重大な不履行」とみなされる事由は,以下のとおりです。
 
 <使用者側の重大な不履行>
 (ア)詐術を用いて労働者を欺き,労働者が気付いていれば合意しない状況で契約を締結させる行為
 (イ)賃金の一部又は全部の支払いの拒絶
 (ウ)度重なる賃金の支払いの遅延
 (エ)暴言,脅迫,暴力又は暴行
 (オ)出来高払いの労働者に対して十分な業務を与えないこと
 (カ)適用法が求める職場における労働安全衛生の措置を講じないこと
 
 <労働者側の重大な不履行>
 (ア)窃盗,着服,横領
 (イ)契約締結時における不正行為(偽造文書の提示)又は雇用期間中における不正行為(怠業,労働契約の条項に従うことの拒否,職務上の秘密の漏洩)
 (ウ)規律,安全及び健康規則上の重大な違反行為
 (エ)使用者又は他の労働者に対する暴言又は暴行
 (オ)重大な不履行を犯すよう他の労働者を教唆する行為
 (カ)事業所における政治的なプロパガンダ,活動又はデモ行為
 
 2. 年功補償金の支払
 (1) 従前は,期限の定めのない雇用契約を締結した労働者に対しては,退職時に解雇補償金を支払う必要がありました。かかる解雇補償に代わり,2018年改正により,年功補償が規定されました。年功補償金は,期限の定めのない雇用契約を締結した労働者に対し,雇用期間継続中に支払われるべき金員です。すなわち,使用者は,雇用期間が1年以上継続した労働者に対し,雇用期間 1 年あたり15 日分の賃金その他の手当に相当する金額を,年功補償金として支払わなければなりません。支給するタイミングは,毎年6月と12月の2回で,各7.5日分の年功補償金を支払う必要があります。
 
 (2) かかる年功補償金の支払義務は,雇用契約終了の場面においても,原則として発生します。すなわち,使用者が,労働法の定めに基づいて,期限の定めのない雇用契約を終了した場合,原則として,7 日分の年功補償金を支払わなければなりません。ただし,当該半期に勤務した期間が1ヶ月未満の場合には,年功補償金の支払義務は発生しません。
 また,労働者による重大な不履行を理由とする解雇の場合には,使用者は,年功補償金を支払う必要はありません。
 
 3. 正当理由
 使用者は,①労働者の適正若しくは素行に関係する正当な事由がない場合,又は,②企業,事務所若しくは団体における経営上の必要性に基づかない場合には,雇用契約を解除することはできません。かかる正当理由の具体的な内容については,法律上定められていないため,これまでの先例等を参考にしながら,個別に判断する必要があります。
 使用者がかかる正当理由なく労働者を解雇した場合,当該労働者は,使用者に対して,前述の事前通知に代わる補償及び年功補償金とは別に,損害賠償を請求することができます。かかる損害額については,当該労働者は,年功補償金等と同額を請求することができ,この場合,当該労働者は,損害額を証明する必要はありません。
 また,かかる損害賠償金については,当該労働者は,年功補償金と一括して支払うように請求することができ,使用者は,これらの金員を,労務提供が終了した日から48時間以内に支払う必要があります。
 
 以上
 
 ※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
 
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- 【掲載元情報】
- 弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 作成

















 


