2020.01.23
インド【インド】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《インド編》第6回「社会保障に関する法規」及び「労働組合・労使関係の法規」
- 【インド】第6回「社会保障に関する法規」及び「労働組合・労使関係の法規」
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《インド編》 第6回 「社会保障に関する法規」及び「労働組合・労使関係の法規」
Ⅲ.社会保障に関する法規
1948年インド従業員州保険法(Employees’ State Insurance Act, 1948)
1.規定内容
1948年インド従業員州保険法は、主に妊娠・出産、及び労災により従業員が就業不能となった場合における給付金を規定する目的で制定されたものです。
2.適用対象
インド従業員州保険法は、10名以上の従業員を雇用している季節稼働ではない工場、及び10名以上(一部の州は20名以上)の従業員を雇用している店舗、ホテル、レストラン、映画館、道路運送業、新聞社、保険業者、ノンバンク、港湾、空港、及び倉庫施設及びその従業員に適用されます。なお、月額21,000ルピーを超える賃金を受領している従業員、及び月額25,000ルピーを超える賃金を受領している身体障害を持つ従業員には適用されません。
3.具体的内容
(1)保険金の負担
インド従業員州保険法に基づき、従業員州保険基金(Employees’ Statement Fund)が設立され、同法の適用対象となる従業員及びその雇用主は、当該基金に対し保険金を支払わなければなりません。具体的には、従業員がその賃金の0.75%を保険金として負担し、雇用主が当該従業員に対する賃金の3.25%を保険金として負担しなければなりません。なお、一日の賃金が137ルピー以下の従業員は、上記の保険金の負担を免除されています。但し、この場合であってもその雇用主の保険金の負担は免除されません。
(2)主たる雇用主(Principal Employer)の責任
主たる雇用主は、直接又は直接の雇用主(例えば、請負業者)を通じて雇用した従業員に関する保険金を支払う義務を負います。したがって、従業員の直接の雇用主が保険金の支払いを怠った場合には、主たる雇用主が直接の雇用主に代わってその保険金を支払わなければなりません。保険金を期限までに納付しなかった場合、主たる雇用主は、納付されるまで未納保険金につき年利12%以上の利息支払義務を負うことになります。
4.罰則
雇用主が、本法に基づき支払義務を負う負担金を納付しない場合、当該雇用主に対する罰則として、1年以上3年以下の禁固及び10,000ルピー以下の罰金が規定されています。また、再犯の場合における刑の加重についても規定されています。
1923年インド従業員補償法(Employees’ Compensation Act, 1923)
1.規定内容
1923年インド従業員補償法は、就業中の事故によって従業員が負った傷害及びそれに基づく就労不能に対する雇用主による補償金の支払いを規定しています。
2.適用対象
インド従業員補償法は、同法のSchedule IIに規定されるすべての従業員に対して適用されます。なお、1948年従業員州保険法の適用対象となっている従業員には、本法は適用されません。
3.具体的内容
(1)雇用主の補償義務
雇用主は、就業中の事故によって従業員が傷害を負った場合、その従業員に対し、原則として補償金を支払う義務を負います。もっとも以下の場合、雇用主は補償金を支払う義務を負いません(同法第3条)。
①3日を超える全面的又は部分的就労不能の結果をもたらさない傷害の場合
②飲酒・薬物使用、故意による安全規則違反・安全措置の除去等に直接起因する事故による傷害であるが死亡又は恒久的全面的就労不能の結果をもたらさない場合
(2)補償額
インド従業員補償法は、以下の場合につき雇用主が支払うべき補償金額を規定しています(同法第4条)。(a)当該傷害から死亡に至った場合 月額賃金の50%に所定の係数を乗じた金額、又は12万ルピーのいずれか大きい額 (b)当該傷害から恒久的全面的就労
不能に至った場合月額賃金の60%に所定の係数を乗じた金額、又は14万ルピーのいずれか大きい額 (c)当該傷害から恒久的部分的就労不能に至った場合
①Schedule I第2部に規定されている傷害の場合
恒久的全面的就労不能の場合の補償額に上記規定の収入能力損失割合を乗じた額
②Schedule Iに規定されていない傷害の場合
恒久的全面的就労不能の場合の補償額に資格を有する医師によって診断された収入能力損失割合を乗じた額(d)当該傷害から、一時的就労不能に至った場合 所定の方法に従って月額賃金の25%に相当する額を月2回支払う
4.罰則
雇用主が、本法に基づく補償金支払義務の履行を不当に遅滞した場合、当該雇用主に対して罰則によって追加の補償金支払義務を課すことができる旨規定されています。具体的には、年利12%(又は政府が通達によって示した銀行の借入金利の最高利率)の遅延損害金及び補償額の50%以下の罰金が規定されています。
1952年インド従業員積立基金及び雑則法(Employees Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952)
1.規定内容
1952年インド従業員積立基金及び雑則法は、従業員の退職後の生活保障、及び在職中の死亡の場合の遺族のための生活保障を目的として規定されています。同法に基づき、以下の3つのスキームが策定されています。
①1952年インド従業員積立基金スキーム(Employees’ Provident Fund Scheme, 1952)
②1995年インド従業員年金スキーム(Employees’ Pension Scheme, 1995)
③1976年インド預託保険スキーム(Employees’ Deposit Linked Insurance Scheme, 1976)
2.適用対象
インド従業員積立基金及び雑則法は、①同法のSchedule 1に規定される産業に従事し、かつその従業員が20名以上のすべての工場、②別途インド中央政府によって通知される従業員20名以上のその他の施設に適用されます。なお、従業員20名未満の施設も自発的に同法の対象となることに同意できますが、インド中央政府によって通知されなければなりません。
上記の要件を充たす工場及び施設の従業員のうち、月額賃金が15,000ルピー以下の従業員のみ前述の3つのスキームへの加入が義務付けられます。
3.具体的内容(積立金・保険料の負担)
(1)従業員積立基金
雇用主は、従業員の賃金の12%に相当する金額を従業員の賃金から控除し、同額を「従業員負担金」として同基金に納付しなければなりません。同様に、雇用主も従業員の賃金の12%に相当する金額を「雇用主負担金」として同基金に納付しなければなりません。
(2)従業員年金基金
従業員年金基金において、その負担金は雇用主のみが負担し、従業員はこれを負担する必要はありません。雇用主は、従業員の賃金の8.33%又は1,250ルピーのいずれか低い金額を同基金に納付しなければなりません。なお、インド中央政府も従業員の賃金の1.16%に相当する金額を同基金に納付しなければなりません。
(3)預託保険
預託保険においても、その保険料は雇用主のみが負担し、従業員はこれを負担する必要はありません。雇用主は、従業員の賃金の0.5%を同保険の保険料として負担しなければなりません。これに加え、雇用主は、管理費として従業員の賃金の0.01%も負担しなければなりません。
4.罰則
雇用主が、前述のスキームに基づく報告書・記録の提出を怠った場合、又は負担金・保険料・管理費の支払いを怠った場合等の違反行為に対して、その違反行為の態様に応じて禁固及び罰金を規定しています。
1972年インド退職金支払法(Payment of Gratuity Act, 1972)
1.規定内容
1972年インド退職金支払法は、工場又はその他の施設において雇用されているすべての従業員に対する退職金の支払いについて規定する法律です。
2.適用対象
インド退職金支払法は、①すべての工場、鉱山、油田、プランテーション(大規模農場)、港湾、鉄道会社、②10名以上が雇用されている又は過去12ヵ月の任意の日に雇用されていたすべての店舗又は施設、③10名以上が雇用されている又は過去12ヵ月の任意の日に雇用されていたその他の施設で、中央政府がこの点につき通達によって規定している施設に適用されます(同法第1項3条)。
3.具体的内容(退職金の支払要件及び支払額)
5年以上の期間中継続して雇用されていた従業員は、その雇用終了時に退職金を受領することができます。退職金を受領することができる場合の雇用終了事由は、①定年退職、②自主退職、又は③死亡・事故・病気を原因とする就労不能を理由とする退職とされています。なお、従業員の退職理由が、雇用主の所有物の破壊、又は損害・損失をもたらした作為又は故意による不作為の場合、雇用主は発生した損害・損失の限度で退職金を減額することができます。
従業員が受領できる退職金の金額は、15日分の賃金×勤続年数で計算されます。
4.罰則
雇用主が、退職金の支払いを免れる目的で虚偽の書類の作成した場合、雇用主には6月以下の禁固、又は10,000ルピー以下の罰金、又はその両方が科せられる旨が規定されています。
また、雇用主が、本法及びその規則等の条項に違反した場合、雇用主には3月以上1年以下の禁固、又は10,000ルピー以上20,000ルピー以下の罰金、又はその両方が科せられる旨が規定されています。但し、退職金の不払いに関する違反行為の場合、上記の禁固刑が加重され、雇用主には6月以上2年以下の禁固が科せられる旨が規定されています(同法第9条)。
Ⅳ.労働組合・労使関係の法規
1926年インド労働組合法(Trade Union Act, 1926)
1.規定内容
インド労働組合法は、労働組合の登録及び登録された労働組合の機関及び権利義務を規定しています。
2.労働組合の定義
インド労働組合法は、労働組合とは、一時的か恒久的かを問わず、主に労働者と雇用主間、労働者間、又は雇用主間の関係を規律するため、又は事業の遂行に対して制限的な条件を課すために組織される団体を意味するものと定義されています(同法第2条g号)。
3.具体的内容
(1)労働組合の登録
インド労働組合法は、7名以上の組合員を有する労働組合についてこれを登録することができる旨を規定しています(同法第4条1項)。なお、登録申請の時点で、当該労働組合が関係する施設又は工場において雇用されている労働者数の10%又は100名の労働者が組合員でない場合は、その組合を登録することができません。
(2)執行部(executive)
労働組合は、その運営をoffice bearerと称される役員によって構成される執行部に委託されます。但し、役員総数の3分の1以上又は5名のいずれか少ない数の役員は、原則として当該労働組合が関係する施設又は工場において実際に雇用されている者でなければなりません。
(3)登録された労働組合の刑事及び民事免責
登録された労働組合の組合員には、以下のような刑事免責及び民事免責が認められます。
・登録された労働組合の組合員は、本法第15条に規定されている労働組合の目的を促進するためになされた組合員間の合意については、インド刑法上の共謀罪の責任を問われない。
・労働争議を企図又はその促進のために行われた一切の行為に関し、それが他の者の労働契約違反を誘発したこと、もしくは他の者の取引、事業、雇用を妨害したこと等を理由に登録された労働組合又はその組合員に対して民事訴訟その他の法的措置を行ってはならない。
4.罰則
登録された労働組合は、前暦年に関する年次報告書を登記官(Registrar)に対して提出する必要がありますが、その報告書に虚偽の記載があった場合、500ルピー以下の罰金が科される旨等が規定されています。
1946年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)
1.規定内容
1946年インド産業雇用(就業規則)法は、産業施設の雇用主に対して、労働者の分類、賃金額の通知方法、労働時間、休日、出勤、労働者の異動及び解雇、条件違反に関する手続き等の雇用条件を明らかにするための法律です。
2.適用
産業雇用法は、100名以上の労働者を雇用している、又は過去12ヶ月の任意の日に雇用していたすべての産業施設に対して適用されます(同法第1条3項)。なお「産業施設(industrial establishment)」とは、特に工場、鉱山、採石場、油田、プランテーション、作業場、及び産業施設の所有者との契約を履行する目的で労働者を雇用する者の施設を含むと定義されています。
3.具体的内容(就業規則(Standing Orders)の制定)
雇用主は、当該産業施設における就業規則案を作成し、同法が当該産業施設に適用されることになった日から6ヶ月以内に、管轄のCertifying Officerに対して、そのコピーを提出しなければなりません(同法第3条1項)。就業規則案は、同法の別表に規定されているすべての事項、又は別途規定されるその他一切の事項につき規定しなければなりません。
Certifying Officerは就業規則案を認可し、認可された就業規則のコピーを雇用主に送付しなければなりません。認可された就業規則は、そのコピーが雇用主に送付された日から30日経過後から効力を有します。
なお、認可された就業規則は、当該就業規則又は直近の改定の効力発生日から6ヶ月が経過するまで、原則としてこれを改定することができません。
4.罰則
就業規則案を提出していない、又は本法の規定に従わずに就業規則を改定した雇用主には、5,000ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています。違反が継続している場合は、その継続中の1日あたり200ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています(第13条1項)。
雇用主が本法に基づいて認可された就業規則の規定に違反した場合、100ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています。違反が継続している場合は、継続中の1日あたり25ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています(第13条2項)。
1947年インド産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)
1.規定内容
インド産業紛争法は、産業紛争に関係する問題の調査及び労働紛争の解決に関する従業員及び雇用主の権利を規定しています。また同法及びその規則は、特に雇用条件の変更、ストライキ、ロック・アウト、解雇、レイ・オフ、閉鎖等に関する重要な問題についても規定しています。さらに同法及び規則は、仲裁、和解、団体交渉等のような様々な紛争解決の仕組みも規定しています。
2.インド産業紛争法における「労働者(workman)」の定義(同法第2条s号)
インド産業紛争法における「労働者」とは、雇用条件が明示されているか否かを問わず、またその熟練度を問わず、肉体労働、技術的、運営的、事務的、監督的仕事を行うため、すべての産業において雇用されている者(見習いを含む)を意味し、本法に基づく産業紛争に関する手続きの趣旨からは、その紛争に関し又はその紛争の結果として解雇された者、もしくはその者の解雇がその紛争を導いたような場合のその解雇された者も含まれると定義されています。但し、「労働者」には、以下の者は含まれません。
①主に経営的又は管理的立場(managerial or administrative capacity) で雇用されている者
②監督的立場(supervisory capacity)で雇用されている者で、月額賃金が10,000ルピーを超える者
③1950年インド空軍法、1950年インド陸軍法、1957年インド海軍法に従う者、又は警察・刑務所で雇用されている者
3.具体的規定
(1)ストライキ及びロック・アウト
インド産業紛争法において、「ストライキ」とは、労働者又は当該産業において雇用されている者の団体によって行われる仕事の中断、又は団体での仕事の拒絶を意味するものと定義されています(同法第2条q号)。他方、「ロック・アウト」とは、雇用主による雇用が行なわれている場所の一時的な閉鎖、仕事の中断、又は雇用する者の雇用の継続の拒絶を意味するものと定義されています(同法第2条l号)。
労働者は、原則として通告なくストライキを行う権利を有し、また雇用主は、ストライキと同じ条件に従ってロック・アウトを宣言する権利を有しています。但し、公共事業(public utility service)に従事している労働者は、雇用主に対する事前の通告等の一定の手続きを履践しない限り、ストライキを行うことが許されておらず、また同様に、公共事業を行う雇用主は、同様の手続きを履践しない限り、ロック・アウトを行うことが許されていません(同法第22条1項及び2項)。
なお、和解手続中、労働裁判所、審判所、国家審判所での係争中、仲裁手続中、又はこれらの手続終了後の一定期間は、ストライキ又はロック・アウトを行うことはできません(同法第23条)。
(2)人員削減(Retrenchment)
インド産業紛争法における「人員削減」とは、懲戒処分による解雇の場合を除く雇用主による労働者の解雇を意味し、その理由は問わないと定義されています(同法第2条oo号)。但し、人員削減には以下の事由は含まれません。
①労働者の自発的退職
②定年退職の条項が雇用契約に規定されている場合の定年退職
③雇用契約期間が満了し当該契約を更新しなかった結果としての解雇、又は契約に含まれているその趣旨の規定に従って解除された結果としての解雇
④継続的な病気を理由とする雇用契約の解除
(a)前歴月の1営業日あたり平均50名以上の労働者が雇用されている産業施設の雇用主は、本法の規定に基づく以外その労働者を人員削減することができません。具体的には、1年以上継続的雇用にある労働者を人員削減するには、①解雇事由を記載した最低1ヶ月の告知期間を設けた書面による解雇通知を送付したこと、又はこのような解雇通知の代わりに告知期間中の賃金を支払ったこと、②平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の解雇補償金を支払ったこと、及び③所定の方法による通知が政府に対してなされたことが要件とされています。
(b)もっとも、過去12ヶ月中の1営業日あたり平均100名以上の労働者を雇用していた施設の雇用主が1年以上継続的雇用にある労働者を人員削減するには、①所定の方法により政府から人員削減についての事前許可を取得したこと、②解雇事由を記載した最低3ヶ月の告知期間を設けた書面による解雇通知を送付したこと、又はこのような解雇通知の代わりに告知期間中の賃金を支払ったこと、③平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の解雇補償金を支払ったことが要件とされています。
(3)閉鎖(Closure)
インド産業紛争法における「閉鎖」とは、雇用が行なわれている場所の全部又は一部の恒久的閉鎖を意味するものと定義されています(同法第2項cc号)。
(a)50名以上の労働者を雇用して事業を遂行している雇用主がその閉鎖を企図する場合、所定の方法で閉鎖予定日の60日以上前に政府機関に対し、閉鎖の理由を記載した通知を送付しなければなりません。また、1年以上継続的雇用にある労働者に対しては、①閉鎖事由を記載した最低1ヶ月の告知期間を設けた書面による通知、又はこのような通知の代わりに告知期間中の賃金の支払い、及び②平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の補償金の支払いが要件とされています。
(b)もっとも、過去12ヶ月中の1営業日あたり平均100名以上の労働者を雇用して事業を遂行している雇用主がその閉鎖を企図する場合は、所定の方法で閉鎖予定日の90日以上前に政府機関に対して閉鎖の事前許可申請を行わなければならず、当該事前許可申請書のコピーは関係する労働者にも送付しなければなりません。また、政府機関より閉鎖の許可が付与された後には、1年以上継続的雇用にある労働者に対して、平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の補償金の支払いをしなければならない旨規定されています。
(4)紛争解決手段
(a)内部的紛争解決手段
(i)苦情解決委員会(Grievance Redressal Committee)
20名以上の労働者を雇用するすべての産業施設は、労働者個人の苦情から生じる紛争を解決するために1以上の苦情解決委員会(Grievance Redressal Committee)を設置しなければなりません。同委員会は、雇用主側からの委員と同数の労働者側からの委員によって構成され、当該労働者個人からの苦情を解決します。
(ii)労働委員会(Works Committee)
過去12ヶ月の間の任意の日において100名以上の労働者を雇用し、政府の命令により労働委員会の設立を命ぜられた工場は、雇用主側からの委員及び雇用主側の委員の数以上の労働者側からの委員によって構成される労働委員会を設置しなければなりません。同委員会には、少なくとも3ヶ月に1回の頻度で開催され、雇用主及び労働者の意見の相違点を協議し、労使紛争を初期の段階で友好的・平和的に解決する役割が求められています。
(b)外部的紛争解決手段
(i)和解(Conciliation)
政府によって選任される和解委員及び和解委員会は、労働者又は産業紛争の一方当事者によって開始され、既存の紛争及び懸念される紛争につき和解を試みます。和解による迅速な紛争解決のため、和解手続きにはその期間が限定されています。
(ii)調査裁判所(Courts of Enquiry)
産業紛争に関係・関連すると思われる問題を調査するために、政府は調査裁判所を設置することができます。同裁判所は、1名以上の独立した者で構成されます。2名以上の者で構成される場合はそのうち1名が議長に選任されます。同裁判所は上記問題を調査し、調査開始後6ヶ月以内に政府に対して調査結果を報告しなければなりません。
(iii)仲裁(Arbitration)
雇用主と労働者が当該紛争を仲裁に付することに合意した場合、書面による合意によって当該紛争が労働裁判所、審判所、国家審判所に付される前はいつでも、両当事者は当該紛争を仲裁に付することができます。
(ⅳ)裁決(Adjudication)
インド産業紛争法は、裁決による紛争解決システムとして、①労働裁判所、②産業審判所、及び③国家審判所の3つのシステムを規定しています。これらの手続きのうち、インド産業紛争法別表2に規定されている問題については、労働裁判所又は産業審判所が、同法別表3に規定されている問題については原則として産業審判所がそれぞれ管轄権を有しています。国家審判所は、国家的に重要な問題を含む紛争等について管轄権を有しています。
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
第7回に続きます。
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