2020.01.07
インド【インド】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/《インド編》第5回「賃金に関する法規」及び「労働条件に関する法規」
- 【インド】第5回「賃金に関する法規」及び「労働条件に関する法規」
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《インド編》 第5回 「賃金に関する法規」及び「労働条件に関する法規」
Ⅰ.賃金に関する法規
1936年インド賃金支払法(Payment of Wage, Act, 1936)
1.規定内容
1936年インド賃金支払法は、工場、鉄道、その他の施設等において雇用される一定の従業員の賃金支払いについて規律しています。具体的には、賃金発生対象期間、賃金支払期日、支払方法、賃金から法的に控除することが認められる費目等を規定し、雇用主による従業員への賃金支払いを確実なものとし、それによって従業員の保護を目的としています。
2.適用対象
月額賃金が24,000ルピー以下、又は消費支出調査の結果に基づいて中央政府が5年毎に官報において通達する金額以下の一定の従業員に対してのみ適用されます(同法第1条6項)。
3.具体的内容
(1)賃金発生対象期間
賃金発生対象期間とは、従業員が受領すべき賃金が発生した期間を意味します。例えば、1月1日から1月31日の間の賃金を2月5日に受領する場合、賃金発生対象期間は1月1日から1月31日の1ヶ月ということになります。
1936年インド賃金支払法は、この賃金発生対象期間を確定させなければならないこと、及びその期間は1ヶ月を超えてはならない旨を規定しています(同法第4条)。
(2)賃金支払期日
賃金支払期日について、1936年インド賃金支払法は、①1,000人未満の従業員が雇用されている工場、鉄道、その他の施設の場合、賃金は当該賃金発生対象期間の末日から7日経過前に、②その他の場合、賃金は当該賃金発生対象期間の末日から10日経過前に、原則として支払わなければならない旨を規定しています(同法第5条)。
(3)賃金支払方法
賃金の支払いは、原則として現金、小切手、又は銀行振り込みの方法で行われなければなりません(同法第6条)。
(4)控除
1936年インド賃金支払法は、同法に規定する控除費目以外を賃金から控除することを禁止しています(同法7条)。具体的な控除費目として同法は、罰金、欠勤分の賃金、明示的に保管を命じられた商品又は金銭を自己の過失により滅失・毀損した場合の損害又は損失、各種ローン返済、所得税、従業員積立基金(Provident Fund)等を規定しています。
4.罰則
1936年インド賃金支払法の規定に違反した者に対しては、罰金が科される可能性があります。また、再犯の場合には、罰金が加重され、さらに禁固刑が科される可能性もあります。
1948年インド最低賃金法(Minimum Wage, Act, 1948)
1.規定内容
1948年インド最低賃金法は、一定の労働者に対する最低賃金を規律する法律です。具体的には、指定した種類の雇用における労働者に支払われるべき最低賃金額を、その熟練度等ごとに規定し、それによって労働者の保護を図っています。
2.適用対象
インド最低賃金法の別表(Schedule)において指定される種類の雇用におけるすべての従業員に適用されます(同法第2条(i))。
3.具体的内容
(1)規制対象となる雇用の種類
インド最低賃金法は、別表(Schedule)第1部及び第2部において、中央政府又は州政府がその雇用に関する従業員に対して支払われるべき最低賃金を規定しなければならない種類の雇用を列挙しています。また同法は、上記以外の種類の雇用を追加する権限を州政府に付与しているため、この権限に基づいて州政府が追加した種類の雇用についても該当する州においては規制の対象となります。
(2)最低賃金の規定及び支払い
規制対象となる種類の雇用について、中央政府又は州政府はその従業員の熟練度に応じ最低賃金を規定しています。雇用主は、その最低賃金以上の賃金を当該従業員に支払う義務を負うことになります(同法第12条)。
(3)その他
インド最低賃金法は、賃金の支払方法・時期、残業手当等も規定していますが、関連する他の法律(インド賃金支払法等)とほぼ同一内容であるため、ここでは割愛します。
1965年インド賞与支払法(Payment of Bonus, Act, 1965)
1.規定内容
1965年インド賞与支払法は、一定の施設において雇用されている従業員に対し、その利益又は生産量に基づいた義務的な賞与の支払いについて規定しています。
2.適用対象
1965年インド賞与支払法は、すべての工場、及び一会計年度中の任意の日において20名以上の従業員を雇用する施設において(同法第1条3項)、当該会計年度中30営業日以上の期間就労し、その給与又は賃金が月額21,000ルピー以下の従業員に適用されます(同法第8条)。
3.具体的内容
(1)最低賞与額
1965年インド賞与支払法は、当該会計年度において損失を計上している場合であっても、原則として、当該会計年度中の従業員の給与又は賃金の8.33%又は100ルピーのいずれか高い金額を最低賞与額として支給しなければならない旨規定しています(同法第10条)。なお、従業員の給与又は賃金が月額7,000ルピーを超える場合、上記の最低賞与額の算出においては、その給与又は賃金額を月額7,000ルピーと見做して計算されることになります(同法第12条)。
(2)最高賞与額
当該会計年度において、同法の規定に従って計算される分配可能剰余金(allocable surplus)が発生し、それが上記の最低賞与額を超える場合には、従業員の給与又は賃金に比例した賞与を支払わなければなりません。もっとも、この場合の賞与はその給与又は賃金の20%を超えることはできません(同法第11条)。なお、従業員の給与又は賃金が月額7,000ルピーを超える場合、上記の最高賞与額の算出においても、その給与・賃金額を月額7,000ルピーと見做して計算されることになります(同法第12条)。
(3)支払時期
上記の賞与は、原則として当該会計年度末日から8ヶ月以内に支払わなければなりません(同法第19条)。
4.罰則
1965年インド賞与支払法及び規則の規定に違反した者、又は同法に基づく命令等を遵守しなかった者に対しては、6月以下の禁固、又は1,000ルピー以下の罰金、又はその両方が科される旨が規定されています(同法第28条)。
Ⅱ.労働条件に関する法規
1948年インド工場法(Factories Act, 1948)
1.規定内容
1948年インド工場法は、工場において雇用されている労働者の規律、及びそのような労働者を不当な搾取から保護するために制定されています。また同法は、工場における労働条件を規律し、労働者の安全、健康、福祉、並びに勤務時間、休暇・休日、児童・女性の雇用等に関する基本的な最低限の要件を規定しています。
2.適用対象
インド工場法は、同法に定義される「製造過程」が行なわれているすべての建造物、又は①製造過程に動力支援が用いられている10名以上の労働者が現に労働している、又は直前12ヶ月中の任意の日に労働していた工場、又は②製造過程に動力支援が用いられていない20名以上の労働者が現に労働している、又は直前12ヶ月中の任意の日に労働していた工場に適用されます。
3.具体的内容
(1)健康配慮義務
インド工場法は、工場の管理責任者に対し、工場を清潔に保ち、排水その他の有害物質から発生する悪臭の除去、排水の処理、工場内の十分かつ適切な照明の確保、安全な飲料水の確保、及び換気及び室温管理等を行う義務を課しています。
(2)安全配慮義務
またインド工場法は、工場の管理責任者に対し、機械を安全柵で囲む、稼働中の機械周辺における安全の確保、労働者に対する安全装置の提供等、労働者の安全を確保する義務を課しています。
(3)福祉設備設置義務
インド工場法には、様々な福祉設備を設置しなければならない旨が規定されています。主な具体例は以下のとおりです。
・250名を超える労働者が雇用されている工場には、労働者が利用できる食堂(canteen)を設置しなければならない(同法第46条)
・150名を超える労働者が雇用されている工場には、休憩室、飲料水を提供する軽食堂(lunch room)を設置しなければならない(同法第47条)
・30名以上の女性労働者が雇用されている工場には、女性労働者の6歳未満の子供が利用できる託児所を設置しなければならない(同法第48条)
(4)労働条件
(a)労働時間
インド工場法は、労働者の労働時間につき、週48時間、1日あたり原則9時間を上限としています(同法第51条及び54条)。また、1日につき連続して労働させることができるのは最長5時間とされ、少なくとも30分の休憩時間を与えずに連続5時間を超えて労働させてはなりません(同法第55条)。
また、労働者の1日あたりの拘束時間は、原則として休憩時間を含め原則10.5時間を超えてはなりません。なお、女性労働者は、原則として午後7時から翌朝6時までの間勤務することが許されていません(同法第66条)。
(b)時間外手当
労働者が定められた労働時間(1日9時間又は週48時間)を超えて勤務した場合、その超過労働に関し通常の2倍の賃金を支払われなければなりません((同法第59条)。
(c)週休
インド工場法は、日曜日を週休とすることを規定し、日曜日に労働者を勤務させる場合、その前後3日間のうちの1日を休日としなければならない旨を規定しています。また、1日の完全休日(24時間)なしに連続10日を超える期間の労働は許されていません。なお、任意の理由又は規定により上記の週休をとらなかった労働者は、その週休と同じ日数の休日を以後2ヶ月(場合によっては1ヶ月)以内にとることができる旨が規定されています(同法第53条)。
(d)年次有給休暇
インド工場法は、前暦年中240日以上の期間勤務した労働者に対して、その勤務日数の20日毎に1日の割合で計算された日数の年次有給休暇が付与される旨を規定しています(同法第79条)。
4.罰則
インド工場法及びその規則に違反した者に対して、同法は一般的な罰則として、2年以下の禁固、又は10万ルピー以下の罰金、又はその両方が科される旨を規定しています。また再犯の場合は刑が加重され、3年以下の禁固、又は20万ルピー以下の罰金、又はその両方が科される旨を規定しています。
インド店舗及び施設法(Shops and Establishment Act)
1.規定内容
インド店舗及び施設法は、インドのすべての州によってその州法として制定されており、特に、店舗、商業施設、レストラン、映画館等、及び1948年インド工場法の適用対象外の工場における従業員の労働時間、休暇、賃金、超過時間賃金を含む雇用条件等を規定しています。
2.適用対象
インド店舗及び施設法は、商業、専門職、事業活動、又はそれらに付随的・補助的な仕事が行なわれているすべての施設及びそれらに雇用されているすべての従業員に適用されます。なお、1948年インド工場法が適用される工場及びその労働者には適用されません。
3.具体的内容
(1)労働条件
(a)労働時間
店舗及び施設の従業員の労働時間は、各州の店舗及び施設法によって規定されています。例えば、パンジャブ州店舗及び商業施設法(ハリヤナ州にも適用)は、従業員の労働時間につき、原則として週48時間、及び1日あたり9時間を上限としています(同法第7条)。また、1日につき連続して労働させ得るのは最長5時間とされ、少なくとも30分の休憩時間を与えずに連続5時間を超えて労働させてはならない旨も規定しています(同法第8条)。
(b)時間外手当
時間外手当についても、各州の店舗及び施設法によって規定されています。すべての州の店舗及び施設法には、従業員が定められた労働時間を超えて勤務した場合、その超過労働に関し通常の2倍の賃金を支払われなければならない旨が規定されています。
(c)祝祭日
各州の店舗及び施設法は、一般的に、独立記念日(8月15日)、共和国記念日(1月26日)、ガンジー誕生日(10月2日)を有給休暇とする旨を規定しています。またすべての州において、各州で祝われる特別な祭典に関する州独自の休日を規定しています。
(2)解雇
多くの州の店舗及び施設法では、一定の期間連続して雇用されている従業員との雇用契約を解除する場合、雇用主は、当該従業員に対して解雇日から少なくとも1ヶ月前までにその旨を通知するか、もしくは通知に代えて1ヶ月分の賃金を支払わなければならない旨を規定しています。但し、従業員の非行を理由とする雇用契約の解除の場合はこの限りではありません。
4.罰則
罰則については、各州の店舗及び施設法ごとに異なる罰則を規定しています。なお、すべての州の店舗及び施設法は、同法の規定に違反した場合、罰金を科す旨を規定しており、その罰金額は100ルピー乃至5,000ルピーとなっています。
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
第6回に続きます。
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