2019.05.07
- その他のアジア【フィリピン】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第42回『約40年ぶりの会社法改正』
- 【フィリピン】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第42回
-
このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第97号(2019年4月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇フィリピン:約40年ぶりの会社法改正
2019年2月23日にフィリピンの改正会社法(Revised Corporation Code of the Philippines, Republic Act No. 11232:「改正会社法」)が公布され、同日施行されました。改正前の会社法(The Corporation Code of the Philippines, Batas Pambansa Blg. 68:「旧会社法」)は、約40年間一度も改正されていませんでしたが、今般、グローバルスタンダードや現在の実務に合致した会社法を制定し、新事業の創出、ビジネス環境の改善、コーポレートガバナンスの強化、株主の保護、詐欺的行為等の防止等を目的として改正が行われました。
フィリピンにおける会社の形態としては、大別して、株式会社(stock corporation)と非株式会社(non-stock corporation)が存在しますが、日本企業の進出に際しては株式会社の形態が利用されることが多いことから、以下では日本企業に特に影響があると考えられる株式会社に関係する改正内容を3点ご紹介します。
(1) 会社設立に関する、発起人数等に関する改正
(a) 発起人の最低人数要件及び資格要件の撤廃
旧会社法では、発起人の人数は5名以上15名以下であり、かつ、発起人は自然人である必要がありました。これに対して、改正会社法では、発起人の人数は15名以下とのみ規定されて最低人数要件が撤廃されるとともに、法人であっても発起人となることが認められました。
(b) 一人会社(One Person Corporation)
改正会社法においては、自然人、trust又はestateが発起人となる一人会社(One Person Corporation)の設立が認められました。一人会社には、会社名に「OPC」を付ける必要があること、発起人が唯一の取締役/社長となること等、特別な規制が適用されます。なお、一人会社の発起人は自然人、trust又はestateに限定されており、法人である日本企業が単独の発起人となり、一人会社を設立することは認められておりません。
(2) 取締役の最低人数要件及び居住要件の撤廃
旧会社法では、取締役の人数は5名以上15名以下、かつ、その過半数はフィリピン居住者でなければならないとされていました。これに対して、改正会社法では、取締役の人数は15名以下とのみ規定され、取締役の最低人数要件が撤廃され、また取締役の居住要件も撤廃されました。それに伴い、会社運営上の観点からは実際には不要な取締役の選任(最低5名の取締役を確保し、かつ、そのうち過半数の3名をフィリピン居住者とする必要があった)という旧会社法下で求められていた対応が不要となりました。
もっとも、一定の外資規制が適用される事業(例えば、土地の所有、公益事業等)については、Anti-Dummy法上、外国人は出資比率に応じた人数しか取締役になることができない点に留意する必要があります。
(3) 株主総会への参加及び議決権行使方法
旧会社法では、ビデオ会議や電話会議等の方法による株主総会への参加は認められないと解されていましたが、改正会社法においては、附属定款又は取締役会の決議に基づき、remote communication(遠隔通信)又はin absentia(欠席する場合に別の方法で参加、なお詳細は未定)による株主総会への参加及び議決権行使が認められることになりました。
なお、取締役会については、旧会社法下においても、株主総会と異なり遠隔通信による参加は認められると解されていたところ、改正会社法において、ビデオ会議、電話会議その他合理的な参加の機会を与える通信手段等の遠隔通信により参加し、議決権を行使できることが明記されました。
上記改正に伴い、今後の実務に一定の影響が出るものと考えられます。また、改正会社法のいくつかの条文においては、フィリピン証券取引委員会が施行規則等を制定することを予定しており、実際に一人会社の設立に関するガイドライン案(提出書類のひな型案を含む)が公表されてパブリックコメントが募集される等(2019年3月29日に終了)具体的な動きもみられます。今後も、フィリピン証券取引委員会の定める施行規則等の動向に注目する必要があります。
(直近記事)
〇第39回『サイバーセキュリティー法に関する政令案の公表』
〇第40回『A Guide to Digital Token Offering改訂版の公表』
〇第41回『投資法の改正案の公表』
- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作