2026.01.27
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第95回『長沙のある同窓会の動 画事件からネットワーク伝播の合法性と違法性の境界線を検討』
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第95回
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『「無断で撮影して公開する」のはよくない—長沙のある同窓会の動 画事件からネットワーク伝播の合法性と違法性の境界線を検討』
『経緯』
2026 年の初め、長沙のあるレストランで行われた同窓会で、李さん(既婚)と張さ ん(既婚)はからかわれてキスをし、何のぼかし処理もせずに動画を誰かに撮影さ れた。この動画はまず同窓会のチャットグループに配信され、その後すぐにネット上 に広がった。李さんと張さんだけでなく、各自の配偶者のプライバシー情報も公開さ れた。その結果、李さんと張さんの社会的評価が急激に低下し、各自の配偶者が 離婚を申し出て、最終的に各自の家庭が崩壊してしまった。被撮影者は訴訟を提 起し、動画撮影者及び公開者に権利侵害責任を負わせることを請求しようとしてい る。
『焦点』
公序良俗に違反する行為は他人による勝手な公開の理由になるか否か、本件の 動画撮影者と公開者は権利侵害になるか否か。
『分析』
本件の動画撮影者と公開者は被撮影者の下記の人格権を侵害する可能性があ る。
1、プライバシー権
自然人は法によりプライバシー権を享有する。プライバシーは、個人生活の安寧 および他人に知られたくないプライベートな空間、プライベートな活動及びプライベ ートな情報を含む。本件では、李さんと張さんが同窓会という個人的な社交の場面 でキスをする行為は、公開を望まない親密な行為であり、公共の利益と無関係で、 法律による保護を受ける。動画撮影者と公開者はセンシティブな行為であることを 知りながら、被撮影者の同意を得ずに勝手に動画を撮影し、何のぼかし処理もせ ずに公開し、故意または重大な過失という主観的要件があり、かつ被撮影者のプラ イバシーを公開し、被撮影者の生活の安寧を脅かしたので、プライバシー権の侵害 になる。
2、名誉権
民事主体は名誉権を享有する。いかなる組織又は個人も侮辱、誹謗などにより 他人の名誉権を侵害してはならない。名誉権侵害は事実の捏造を必要とせず、当 事者の社会的評価の低下を招いたか否かが核心である。本件では、動画撮影者 は被撮影者の同意を得ずにプライバシーに関わる動画を公開した。その結果、被 撮影者の社会的評価が著しく低下しただけでなく、被撮影者の配偶者も非難を浴び、 家庭が崩壊してしまった。動画撮影者の行為と損害の結果との間に直接の因果関 係があるので、名誉権侵害になる。
3、肖像権
自然人は肖像権を享有する。自然人の同意を得ずに、自然人の肖像を作成、使 用、公開してはならない。本件では、動画撮影者は許可を得ずに動画を撮影して公 開した。その結果、被撮影者の肖像は大衆にはっきり識別された。又、法定の合理 的な使用理由もないため、肖像権侵害になる。 以上のことから、動画撮影者と公開者は法に従い侵害を停止して謝罪し、かつ被 撮影者への慰謝料及び権利侵害行為を制止するための合理的な支出を負担しな ければならない。
『ヒント』
本件は実際に発生したケースである。動画がネット上に広まった後、ネットユーザ ーの意見は、「李さんと張さんのキス行為は公序良俗に違反した。公開者の行為は 不正行為又は不適当な行為に対して警告の役割を果たすことができている」と一辺 倒になっている。しかし、法律の観点から見て、人格権は公民の基本的権利であり、 不正な侵害を受けない。仮に不適当な行為であるとしても、個人が公開して勝手に 裁判するのではなく、法律にしたがって処理されるべきである。
「勝手に撮影して勝手に公開する」ことは生活を記録するごく普通な行為のように 見えるが、実際には法律のレッドラインに触れる可能性がある。社交の場面で他人 を撮影する場合は、事前に相手の明確な同意を得なければならない。他人のプライ ベートな活動や肖像に関わる場合は、勝手に撮影・伝播してはならない。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員





