2024.08.31
タイ【タイ】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第106回「タイにおけるAI規制の動向」
- 【タイ】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第106回「タイにおけるAI規制の動向」
-
2024年3月、EU議会では、人工知能(「AI」)を規制する枠組みとして、世界初のAI規制法案(「EU AI規制法案」)が可決されました。タイにおいても、2022年以降、関係機関により、様々なAI倫理ガイドラインが導入されているほか、ここ数年は、EU AI規制法案を参考に、AI規制の法整備の準備が進められています。以下では、現在検討が進められている2つの法案について、概説します。
(1) AI利用業務に関する勅令案
デジタル経済社会委員会事務局(Office of the National Digital Economy and Society Commission)が発案した、AI利用業務の実施に関する勅令案(Draft Royal Decree on Business Operations that Use Artificial Intelligence Systems:「本勅令案」)は、EU AI規制法案と同様、AIにつき、リスクベースアプローチを用いて分類し、規制の内容を区別しています。2022年10月のパブリックヒアリング時点での本勅令案におけるAIの分類及び規制の概要は、以下のとおりです。
(a)禁止AI
本勅令案は、人の行動に影響を与え又は変化させることを意図する活動を含むAIシステムを、禁止AIとして定めています(例えば、公共の空間においてリアルタイムに顔認証等の遠隔生体認証を行うシステムは、人々の行動を監視することを可能にし、自由な行動を制限しうることから、禁止AIとして掲げられています。)。禁止AIは、市場への導入が禁止されます。例外的に、禁止AIの使用が特定の規制機関の法令に合致する場合や関連当局の許可を得た場合等は、禁止AIの使用が可能となりますが、その場合、下記のハイリスクAIと同様の規制を受けます。
(b)ハイリスクAI
①ハイリスクAIの内容
ハイリスクAIに分類されるAIシステムは、以下のとおりです。
・製品の安全性を構成するもの(重要なインフラ、製品、サービス等)
・権利や自由に影響を与え、サービスへのアクセスを制限し、不当な差別に繋がる可能性があるもの
(教育・職業訓練、雇用プロセス、遠隔生体認証、監視システム等)
・司法手続の管理(刑事司法手続、裁判手続等)
・入国管理(ビザ申請の審査等)
②ハイリスクAIに対する規制
ハイリスクAIに該当する場合、リスク管理システム、データガバナンス、記録管理、サイバーセキュリ
ティ等に関する一定の要件を満たす必要があります。
また、ハイリスクAIのプロバイダは、市場にAIを導入するにあたり、AIプロバイダ及びAIシステムを担
当当局に登録する義務を負います。この登録制度は、タイ国外に所在するAIプロバイダにも、当該AIが
タイ国内のエンドユーザーに提供される限りは域外適用されるため、タイ国内のエンドユーザーにサー
ビスを提供する場合、AIプロバイダは、自己の代わりに登録を行うための代理人を選任する必要があり
ます。
(c)限定的リスクAI
チャットボット、感情認識や生体認証分類を行うシステム、AIが生成したコンテンツ等、人と直接対話することが意図されたAIシステムは、限定的リスクAIに分類されます。限定的リスクAIを導入する場合には、AIプロバイダに、AIシステムと接触していることを利用者に知らせる義務が課されます。
(2) AI推進支援法案
電子取引開発庁(Electronic Transactions Development Agency)は、2023年7月、タイにおけるAIの普及と支援に関する法律案(Draft Act on Promotion and Support for Artificial Intelligence in Thailand:「本法案」)及びその下位規則について、パブリックヒアリングを実施しました。
本法案は、AI規制のサンドボックス(関係当局の認定を受けて実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げる制度)を提供することにより、AIの発展を強化し、また、一定のルールの緩和や免除を行うことを企図しています。
本勅令案及び本法案は、パブリックヒアリングを経た後、担当当局によってさらに検討が進められています。タイ政府は、他国におけるAI規制の整備状況を注視しており、今後、本勅令案及び本法案をどのように変化させていくのか、動向が注目されます。
本記事掲載URL
20240820-093514.pdf (mhmjapan.com)
(直近記事)
○第103回【シンガポール】「サイバーセキュリティ法改正案の可決」
○第104回【フィリピン】「エディ・ガルシア法(映画及びテレビ業界の労働者の保護に関する法律)」
○第105回【インド】「インド総選挙の結果と労働法改正の趨勢」
- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作