2024.07.31
インド【インド】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第105回「 インド総選挙の結果と労働法改正の趨勢」
- 【インド】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第105回「 インド総選挙の結果と労働法改正の趨勢」
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◇インド
(1) インド総選挙の結果
本年6月4日、5年に一度開催されるインド下院の総選挙が開票を迎えました。今回の総選挙の事前予想では、ナレンドラ・モディ首相が3期目の政権を獲得することは確実視され、モディ首相が率いる与党インド人民党(「BJP」)がどこまで議席を伸ばすか、が焦点となっていました。しかし、蓋を開ければ、BJPの獲得議席は、前回の2019年の総選挙から63議席減らした240議席にとどまり、単独過半数(272議席)を大きく割り込む、という予想外のものとなりました。もっとも、BJPを主軸とする与党連合・国民民主同盟が293議席を獲得して過半数は維持したことから、第3期モディ政権が発足し、従前のモディ政権の施政方針は維持されるものと考えられます。
(2) 労働法改正の趨勢
モディ政権は、第1期・第2期を通じて製造業振興やインフラ整備といった諸政策を推し進めてきました。その中でも、モディ政権が重要政策と位置づけてきた労働法改正(MHM Asian Legal Insights第108号(2020年3月号)※1、MHM Asian Legal Insights第119号(2021年1月号)※2及びMHM Asian Legal Insights第144号(2022年11月号)※3もご参照ください。)についても、従前の改革方針が維持されるものと考えられます。
労働法改正は、連邦法だけでも40余りが存在している労働関連法のうち、29の法律について (1) 賃金、(2) 労働安全衛生、(3) 社会保障、及び(4) 労使関係の4分野に整理・統合し、4つの法律とするもので、各法律は、2020年9月までに国会で承認され成立しており、現在施行を待っている状態となっています。施行が遅れている原因としては、インドの憲法上、労働法に係る事項は、連邦議会と各州議会がそれぞれ立法権を有するところ、施行に必要な各州における規則の制定が遅延していることが挙げられます。また、労働組合が、改正労働法による従業員の解雇規制の緩和や労働組合運動への規制強化に対して反発をしており、連邦政府も改正労働法施行の推進に慎重になっているという事情もあると言われています。
もっとも、モディ首相が、初代のジャワハルラール・ネルー首相以来となる連続3期目となる政権の獲得を果たしたことにより、労働法改革の推進が新政権の重要な優先課題とされるとの見方もあります。
州レベルでは、連邦政府による労働法改正を踏まえ、個別に改正が進められています。例えば、従前、女性労働者は夜間の時間帯の就労が禁止されていましたが、改正後の法律である労働安全・健康・労働環境法(Occupational Safety, Health and Working Condition Code 2020)では、女性労働者の承諾を条件として夜間の就労が認められることとなりました。これを受けて、複数の州が、州法である店舗施設法(Shops and Establishments Act)を改正し、女性から承諾を受けていることや就業中や自宅と職場間の移動時の安全性が確保されていることなどを条件として、女性労働者の夜間の時間帯の就労を禁止する条文の適用を除外する内容の改正を時限的に行っていましたが、当該適用除外の期間を延長する通知が直近でも頻繁に出されるに至っています。具体的には、2024年3月7日にラジャスタン州が適用除外を3年延長する通知を、同月14日にハリヤナ州が適用除外を1年延長する通知を、6月7日にテランガナ州がIT業を営む事業所を対象とする適用除外を4年延長する通知を、それぞれ発出しています。
上記のとおり、労働法に係る事項は連邦議会と各州議会が立法権を有する事項ですので、上記4つの法律の施行前であっても、引き続き州レベルでの改正について、随時最新情報を確認する必要があるといえます。
(ご参考)
※1 MHM Asian Legal Insights第108号(2020年3月号)
4. インド: 労働関連法の再編
https://www.mhmjapan.com/content/files/00041532/20200323-012254.pdf
※2 MHM Asian Legal Insights第119号(2021年1月号)
5. インド: 労働改正法の成立
https://www.mhmjapan.com/content/files/00047208/20210120-121228.pdf
※3 MHM Asian Legal Insights第144号(2022年11月号)
7. インド: 労働法の構造と改正のインド
https://www.mhmjapan.com/content/files/00065903/20221121-113706.pdf
本記事掲載URL
MHM Asian Legal Insights 第165号(2024年7月号) (mhmjapan.com)
(直近記事)
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○第103回【シンガポール】「サイバーセキュリティ法改正案の可決」
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 制作