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2023.11.30

ベトナムベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第97回「 土地法改正案の国会への提出」
【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第97回「 土地法改正案の国会への提出」
◇ベトナム

ベトナムでは、天然資源環境省が現行の土地法(Law on Land No.45/2013/QH13。「現行法」)の改正法の草案を2022年7月に公表し、その後の議論を経て修正が繰り返されていたところ、2023年8月14日、国会に改正法案が提出されました。その後も審議の過程で改正法案に修正が加えられており、今後も審議が続く可能性があり得るところですが、このまま国会で可決された場合には、約10年ぶりとなる土地法の全面的な改正となります。なお、改正法案上、施行日は2024年7月1日と提案されています。

本レターでは、本稿執筆時現在において最新である2023年10月13日付けの改正法案(「本改正法案」)の主要な内容についてご紹介します。
 
(1) リース土地使用権の土地使用料が一括払いとなる場合の限定
 
ベトナムの土地使用権は、(その取得態様及び土地使用権者に許容される利用形態に応じて)割当土地使用権とリース土地使用権に大別され、そのうちリース土地使用権については、当局への土地使用料の支払方法に応じて、(i)土地使用料が一括払いのリース土地使用権と(ii)土地使用料が年払いの土地使用権に分類されます。この一括払いと年払いのリース土地使用権の主な違いとしては、一括払いのリース土地使用権は、土地使用権の譲渡・担保供与・サブリース等が原則として可能であるのに対して、年払いのリース土地使用権は、譲渡・担保供与が認められず、またサブリースも一定の場合を除いて認められません。

現行法下では、当局からリース土地使用権を取得する場合、土地使用料の支払いについて一括払いと年払いのいずれも選択することができ、また、年払いのリース土地使用権を一括払いのリース土地使用権に変更することもできるとされています。
これに対して、本改正法案では、土地使用料の一括払いが認められる場合が以下に限定されることとされています。

   ①農業、林業、養殖業、製塩業の投資プロジェクトを実施するための土地利用
   ②工業団地、工業クラスター、ハイテク団地、ハイテク農業団地、集中情報技術団地、ハイテ
    ク林業団地、工業団地内の労働者用宿泊施設、公共事業用地の事業目的への利用、観光・オ
    フィス事業活動のための商業・サービス用地の利用
 
最終的な新土地法が当該内容を維持して成立した場合、土地使用料の一括払いを行うことが制限されることにより事業の収益性等に大きな影響を及ぼす可能性があり、また、上記のとおり年払いのリース土地使用権の処分性が否定されること(譲渡・担保設定等の制限)に伴う不動産開発のストラクチャーへの影響も懸念されるところ改正動向を引き続き注視する必要があります。
 
(2) 土地使用権・建物の抵当権者の範囲の拡大
 
現行法上、土地使用権及び土地上の建物については、ベトナム国内にて営業を行うことを許可された金融機関を抵当権者としてのみ抵当権を設定することができるとされており、このような金融機関以外の法人・個人が抵当権者となることは認められていません。

これに対して、本改正法案では、土地使用権及び土地上の建物について、上記金融機関のみならず、その他の法人・個人のために抵当権を設定することが認められることとされており、抵当権者の範囲が拡大されています。なお、この「その他の法人・個人」に外国投資家や外国投資企業(詳細は下記(3)ご参照)が含まれるか否かは法文上必ずしも明らかではなく、今後の議論を注視する必要があります。

実務上、この抵当権者の範囲が不動産開発プロジェクトのストラクチャーに影響を及ぼすケースは少なくなく、もしベトナム国内の金融機関のみならず、その他の法人・個人に対しても土地使用権及び建物への抵当権の設定が認められれば、より柔軟なストラクチャーを採用できるようになることが期待されます。
 
(3) 外国投資企業が土地使用権を譲り受けることができる事由
 
現行法下では、外国投資企業(Foreign-Invested Enterprises。一般的に外国投資家が一部でも出資しているベトナム法人をいうと考えられています。)が私人や私企業から土地使用権を譲り受けることは原則として認められません。

本改正法案では、まず、外国投資企業という用語に代わって外国投資経済組織(Foreign-Invested Economic Organizations。「投資法上、外国投資家について定められた条件を満たし投資手続を行わなければならない経済組織」と定義されています。)という用語が使用され、外国投資経済組織は、工業団地、工業クラスター、ハイテク団地において私人や私企業から土地使用権を譲り受けることができることとされています。
 
(4) 土地に関する紛争の管轄権
 
ベトナムの民事手続法上、「ベトナム内にある不動産に対する権利に関する民事訴訟」はベトナムの裁判所が専属管轄を有すると規定されています。当該規定は抽象的であり、具体的にどの範囲で裁判所が専属管轄を有するかについては議論があるところです。

そのような中、本改正法案では、現行法と異なり、「土地に関連する商業活動から生じる紛争」は、ベトナムの裁判所又はベトナムの商事仲裁により解決されると規定されています。もっとも、本改正法案の規定も曖昧さを拭えず、また民事手続法上の規定との関係も明らかでないため、不動産が関連する紛争の裁判管轄の考え方、ベトナム国外での仲裁の管轄の有無については引き続き議論を注視する必要があります。
 
以上は改正内容の一部であり、本改正法案では、土地使用権取得のためのオークション・入札に関する規制の改正等、他にも重要な改正が予定されています。ベトナムの不動産投資等に関与する場合には、土地法の改正や並行して検討されている住宅法・不動産事業法等の改正による影響の有無について子細に確認・検討しておくことが肝要といえます。
 
本記事掲載URL
20231121-112819.pdf (mhmjapan.com)


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【掲載元情報】
森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ  制作

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