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2023.07.28

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第67回「隠れ残業をどれぐらい会社は把握しているか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第67回
『隠れ残業をどれぐらい会社は把握しているか』

ウィーチャットは便利で迅速性などのメリットがあるため、同じ会社に勤めるAとBは仕事で同僚とのコミュニケーションにおいても、顧客とのコミュニケーションにおいてもよくウィーチャットを使い、かつウィーチャットを通じたコミュニケーションは労働時間に限られていない。二人の職位も職責も異なるため、チャット履歴からみて、Aはウィーチャットにより簡単な業務報告や返事を行い、指示を仰ぎ、書類や写真を送ることが多く、Bはウィーチャットによりグループメンバーである顧客との関係を維持し、顧客の質問を答えることが多い。又、顧客のニーズを満たすために、会社は「XX社グループチャット公式アカウント当番表」を作成した。

最近、AとBは退職後にそれぞれ会社に対して、ウィーチャットを通じて残業した残業代を支払うよう要求し、かつチャット履歴を証拠として提出した。裁判所は審理の上、Aの請求を棄却し、Bの請求を認めた。いずれも退勤後にウィーチャットを通じて残業した残業代を請求したのに、なぜ判決の結論がまったく異なるのでしょうか。
 
『分析』:


ネット情報技術の発展に伴い、従業員の労働方式は多様化している。職場以外、労働時間以外に、従業員は電子メール、ウィーチャットなどのソーシャルメディアを通じて、いつでもどこでも仕事して任務を遂行することもできる。メールやチャットメッセージが来たら、従業員はいつでも仕事を進める可能性がある。従来の職場での残業と比べ、このような隠れ残業の認定や残業代の計算はそれなりの特殊性がある。

一方、実務においてこのような隠れ残業を認定するときに、通常、以下の要素を総合的に考慮する。ソーシャルメディアを通じて仕事することは雇用企業の指示によるか否か、ソーシャルメディアを通じた仕事内容は簡単なコミュニケーションの範疇を超えているか否か、労働者が実質的に労働したことを示せるか否か、ソーシャルメディアを通じた仕事は、労働時間以外に明らかに労働者の休憩時間に及んでいるか否か、ソーシャルメディアを通じた仕事は偶発的や臨時的なものではなく、周期的や固定的に発生するか否か。

本件のAについて、裁判所は、「Aから提供されたウィーチャットのチャット履歴は主に簡単な業務報告、伺い、返事、文書や写真の送付に係わり、Aが明確に十分かつ実際に進めた業務内容を示すことができず、Aが主張した残業の事実を認定するのに不十分である。Aがチャット履歴に基づいて主張した残業の事実は認められない」と判断した。  

本件のBについて、裁判所は、「Bから提供されたウィーチャットのチャット履歴及びBの職責によると、Bはある部分では労働日の退勤後、休日などにソーシャルメディアを通じて仕事をしていることが簡単なコミュニケーションの範疇を超えており、会社が作成した「XX社グループチャット公式アカウント当番表」は、会社が休日にBにソーシャルメディアを通じて仕事させるよう指示した事実を証明することができ、当該仕事は周期的で固定的に発生するもので、臨時的で偶発的な普通のコミュニケーションとは異なり、雇用企業の雇用管理の特徴を示し、残業に該当する。会社はBに残業代を支払うべきである。」と判断した。

すなわち、ソーシャルメディアを通じて仕事する場合の残業時間は客観的に定量化することが難しく、雇用企業もそれを客観的に把握することができない。また、従業員がソーシャルメディアを通じて残業するときに、ほかの生活活動にも従事できるので、すべての時間を残業時間とするのは不公平である。従って、裁判所はチャット履歴の内容、残業頻度と残業時間、従業員の賃金基準などの要素を総合的に考慮した上で、雇用企業に一定の残業代を支払わせる判決を下すのが一般的である。

会社は従業員に休憩時間にソーシャルメディアを通じて残業させる必要があり、職位の性質や特徴に応じて不定時労働時間制を選択できる場合、不定時労働時間制を約定することができ、かつ人力資源・社会保障部門の審査許可を受ける。トラブルを避けるために、ソーシャルメディアを通じて残業する場合の残業時間、業務内容、残業代について従業員と事前に約定することもできる。

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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