2023.05.29
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第65回「秘密保持義務についてどのくらい周知されているか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第65回
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『秘密保持義務についてどのくらい周知されているか』
2021年に進水予定の福建艦が広く注目を集め、ネット上には福建艦の衛星映像が公開されている。これらの公開情報は、「勝手に空母を撮影してもよい」と多くの軍事愛好家の誤解を招いた。2021年の年末、軍事愛好家の羅さんは福建艦を撮影するためにリモートハイビジョンビデオカメラ機能を備える無人機を購入し、「福建艦の写真は艦軍事愛好家の間で好ましい話題となる」と判断し、福建艦を不正に撮影し、国家安全機関に発見された。鑑定により、羅さんの撮影内容は、2つの機密レベルの軍事秘密及び1つの秘密レベルの軍事秘密に及ぶと認定された。最終的に羅さんは国家秘密不正取得罪として懲役1年、執行猶予1年の判決を受けた。
『分析』:
『刑法』第282条第1項には、「窃取、偵察、買収により国家秘密を不正に取得した場合は、3年以下の懲役、拘留、保護観察又は政治的権利の剥奪に処する。情状が深刻な場合は、3年以上7年以下の懲役に処する。」と規定している。国家秘密不正取得罪は行為の実施による犯罪(注:中国語で「行為犯」という:日本語の「即成犯」)に属し、情状や結果の深刻さを条件とせず、国家秘密を不正に取得すると犯罪になる。
国家秘密の定義について、『国家秘密保守法』第2条には、「国家秘密とは、国家の安全と利益に関係し、法定手続に従い確定し、一定の期間内に一定範囲の人だけが知っている事項を指す」と規定している。
国家秘密の範囲について、『国家秘密保守法』第9条には、「国家の安全と利益に係わる以下の事項は、漏洩後に政治、経済、国防、外交などの分野における国家の安全と利益を損なう可能性がある場合、国家秘密として確定される。
(1)国家事務の重大決定における秘密事項。(2)国防建設と武装行事における秘密事項。(3)外交と外事活動における秘密事項および対外的に秘密保持義務を負う秘密事項。(4)国民経済と社会発展における秘密事項。(5)科学技術における秘密事項。(6)国家安全保護活動と刑事犯罪捜査における秘密事項。(7)国家秘密保持行政管理部門によって確定されたその他の秘密事項。政党の秘密事項が上述の規定に該当する場合は、国家秘密に属する。」と規定している。
軍事秘密の範囲について、『中国人民解放軍秘密保持条例』第8条には、「軍事機密には、同条例第2条の規定に合致する以下の事項が含まれる。(1)国防と武装力の建設計画及びその実施状況。(2)軍事配置、作戦及びその他の重要な軍事行動計画及びその実施状況。(3)戦備演習、軍事訓練計画及びその実施状況。(4)軍事情報及びその出所、通信、電子対抗及びその他の特殊状態などの基本状況、軍以下の部隊及び特殊組織の番号。(5)武装力の組織編制、部隊の任務、実力、資質、状態などの基本状況、軍以下の部隊及び特殊組織の番号。(6)国防動員計画及びその実施状況。(7)武器・装備の研究開発、生産、配備状況、補充・補修能力、特殊軍事装備の戦術技術性能。(8)軍事学術、国防科学技術研究の重要プロジェクト、成果及びその応用状況。(9)軍隊の政治活動において公開すべきでない事項。(10)国防費の分配と使用、軍事物資の調達、生産、供給、備蓄などの状況。(11)軍事施設及び軍事施設の保護状況。(12)軍事援助、軍事貿易及びその他の対外軍事交流活動における関連状況。(13)その他の秘密保持を要する事項。」と規定している。
国家秘密のレベルについて、『国家秘密保持法』第10条には、「国家秘密のレベルを極秘、機密、秘密の3つに分ける。極秘レベルの国家機密は最も重要な国家機密であり、漏洩された場合は国家の安全と利益に対して特に深刻な損害を与える。機密レベルの国家機密は重要な国家機密であり、漏洩された場合は国家の安全と利益に対して深刻な損害を与える。秘密レベルの国家機密は一般の国家機密であり、漏洩された場合は国家の安全と利益に対して損害を与える。」と規定している。
海外スパイは通常、軍事愛好者に見せかけて軍事フォーラムで活躍し、一部の軍事愛好家の自己顕示欲を利用して、軍事愛好者に対して軍事装備情報を窃取・伝播するよう唆し、又はニュースメディア、科学研究学術、ビジネスコンサルティングなどにより人の目を欺いて買収を行い、中国国内の人に軍事情報を窃取するよう唆し、さらに軍事基地や軍需産業の近くに早期警戒観測所を設置し、軍事装備の生産、試験、配備、配置など最新の動向をタイムリーに把握するよう指示する。軍事装備などを不正に撮影・伝播することは、スパイ罪、国家秘密不正取得罪、海外に国家秘密・情報を窃取、偵察、買収、不正に提供する犯罪になる可能性がある。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員