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2023.05.08

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第64回「退職後の従業員による、会社の屋台骨をぐらつかせる行為を如何に防止するべきか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第64回
『退職後の従業員による、会社の屋台骨をぐらつかせる行為を如何に防止するべきか』

張さんはA社の副総経理であり、高級管理職に属するため、A社は張さんと競業避止協議書を締結した。2022年、張さんが辞任した直後、A社は、以前張さんの所属チーム数名の従業員が次々と辞めたことに気づいた。

ある日、A社は業界専門雑誌からライバルであるB社の関連記事を見た。雑誌に載っている写真及びインタビューの内容によると、張さんがA社を辞めた後にB社に入社しており、かつA社の研究開発チームのメンバーも張さんの招請でB社に勤めている。A社は怒りのあまり、訴訟を起こし、張さんに競業避止違反及び招請禁止違反責任を負わせることを請求した。最終的に裁判所は張さんを競業避止義務違反と認定したが、双方間で招請禁止義務が約定されていないとして、A社の主張を認めなかった。


『分析』:

かつて企業は人材の安定、ターゲットとなる取引先を保護するために、秘密保持約定や競業避止条項を通じて企業の利益を維持することが多い。近年、招請禁止条項も判例において頻繁に出ている。

一、招請禁止条項、秘密保持条項、競業避止条項の概念

1、招請禁止条項とは、退職済みの従業員が招請、勧誘などを通じて、他の従業員を退職させ、当該退職済みの従業員自身の新しい所属企業への入社を促すことを禁止するような制限約定を指す。簡単に言えば、退職済みの従業員による「会社の屋台骨をぐらつかせる」ことを防止するための約定である。
2. 秘密保持条項とは、従業員が退職後に会社の商業秘密を外部に漏らしてはならないことを約定することを指す。簡単に言えば、従業員による機密漏洩を防止するための約定である。
3、競業避止条項とは、従業員が退職後の一定期間内に、元の職場と同様又は類似の業務に従事してはならないことを約定するものを指す。簡単に言えば、従業員によるライバル会社への「転職」を禁止するための約定である。

二、招請禁止条項、秘密保持条項、及び競業避止条項の区別

3つの制限約定は共通点があり、いずれも従業員の行為を制限し、従業員が退職後に会社に不利な影響を与えることを防止するための約定である。但し、適用において大きな区別がある。
1、会社が補償金を支払うか否か
関連規定によると、会社と秘密保持義務を負う従業員との間で競業避止条項が約定されている場合は、労働契約解除後又は終了後の競業避止期間内(即ち、従業員が就業制限を受ける期間内)に、会社は月ごとに従業員に対して経済補償金を与える必要がある。さもなければ、従業員は競業避止約定を解除することができ、競業避止義務を履行しなくてもよい。招請禁止については、法律上、会社が従業員に経済補償金を支払わなければならないという規定はない。
2、従業員が違約した場合は、違約金を支払うか否か
関連規定によると、従業員が競業避止約定に違反した場合、約定通りに会社に違約金を支払わなければならない。招請禁止約定の違反について、『労働契約法』では、会社が従業員に違約金の支払を要求できることを定めていないので、仮に双方が招請禁止について違約金を約定したとしても、通常、裁判所に認められないことが多い。

三、招請行為による法的リスクの防止

法律には、招請禁止に関連する明確な規定がなく、又、企業が従業員の招請行為について違約金を設定することは認められないが、実務において従業員の招請行為に打つ手がないわけではない。まず、会社と従業員の間には明確な招請禁止約定がなければならない。さもなければ、裁判所は「双方間の招請禁止義務に係る約定が存在しない」として、「従業員が招請禁止義務を履行すべきである」という会社の主張を認めない。従業員が退職時に署名する退職関連書類(例えば、退職協議書、承諾書など)において、会社は従業員の招請禁止義務を明確にすることができる。或いは労働契約、競業避止協議書や秘密保持協議書において招請禁止義務を約定することができる。

次に、従業員による約定違反について、会社は「違約金」の約定を避け、「損害賠償責任」の負担を約定するべきである。また、招請禁止の制限期間については、法律に明文化されておらず、実務において半年から2年として約定することが多い。最後に、招請禁止に係る具体的な禁止/制限行為などを約定する。それ以外に、最終的に裁判所が判断を間違えて招請禁止約定を秘密保持約定又は競業避止約定と認定し、企業が招請禁止義務の関連条項に基づき賠償を主張できないことを避けるために、競業避止義務、秘密保持義務、招請禁止義務を明確に区別し、それぞれの義務がどのような行為を制限・禁止するかを明確にするべきである。 

  
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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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