2023.04.27
インドネシア【インドネシア】弁護士法人One Asia/第12回「新法令:新首都「ヌサンタラ」への投資に関するインセンティブプラン」
- 【インドネシア】弁護士法人One Asia/第12回「新法令:新首都「ヌサンタラ」への投資に関するインセンティブプラン」
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1. はじめに
インドネシア政府は2023年3月6日、新首都(ヌサンタラ)における、事業者向けのビジネスライセンス許認可、ビジネス促進策支援、投資ファシリティの付与に関する政府規則2023年第12号(以下「GR12/2023」)を公布致しました。
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、インドネシアの首都をジャカルタからカリマンタン島のヌサンタラに移転することを2019年8月に発表しました。計画に基づくと、2024年初頭には一部の公務員が新しい首都で勤務を開始するとされています。
ヌサンタラ市及びその周辺は手つかずの自然が残された場所であり、そのため、首都の建設はほぼゼロから都市及びそのインフラを建設することとなります。それ故、必要とされる資金は350億米ドル(約2.8兆円)近くと言われており、インドネシア政府はその費用の大きさから、資金の8割を外国人投資家から得ることを期待しています。
GR12/2023は、上記計画の実行のため、ビジネスプロセスを緩和し、企業のヌサンタラへの投資を促進することを目的として、ヌサンタラ市(又は、IKN(Ibu Kota Negara:インドネシアの首都の意)と特定の近隣地域(以下「パートナー地域」。ヌサンタラ市とパートナー地域を併せて、「ヌサンタラ都市圏」という。)で事業活動を行う事業者に対して、1)ビジネスライセンスの取得に関する規制の緩和、2)ビジネスの促進策の実施、3)投資に対するインセンティブプランを与えることを規定しています[1]。
2. GR 12/2023 -政府規則2023年第12号-。
(1)ビジネスライセンスの取得に関する規制の緩和
インドネシアの他の地域への投資とは異なり、ヌサンタラ都市圏で事業活動を開始及び実施する投資家に対するビジネスライセンスは、納税者であることの確認が求められない旨が規定されています。また、同ライセンスの付与は、2022年法律第3号に基づいて省庁レベルの組織として設立されたヌサンタラ首都庁から、インドネシア政府が運営するオンラインシステムであるOSSシステムを通じて行われます。(GR12/2023第4条)
(2) ビジネス促進策の実施
●外資規制の緩和
GR 12/2023の第5条は、ヌサンタラ首都圏では、特定の事業分野に於いて適用されている外資規制が適用されないことを規定しています。しかしながら、第6条においては、外資規制の内のインドネシアの中小企業や零細企業との協業が求める規定は、依然として適用される旨を規定しているため留意が必要です。
●外国人労働者の雇用に関する規制の緩和
ヌサンタラ首都圏では、外国人労働者の雇用に関する制限が以下のように緩和されています;
- 一般的に有効期限が最長2年または5年までであることが多い労働許可証(RPTKA: Rencana Penggunaan Tenaga Kerga Asing)*及び滞在許可証に関し、法令で定める一定の職種の外国人労働者に関しては10年間有効なものを取得することができます。 (GR12/2023の第22条(2)、第23条)
* RPTKAは正確には外国人雇用計画書を指しますが、雇用者が作成し、当局の提出し承認を得る形で、実質的には労働許可証としての役割を果たしています。
- インドネシアの他の地域で外国人労働者を雇用する際に必要となる強制補償基金(DKP-TKA、Dana Kompensasi Penggunaan Tenaga Kerja Asing)については、ヌサンタラ市内の政府系戦略プロジェクトに従事させる為に雇用する場合は免除されます。(GR12/2023の第22条(3))
●土地の権利の付与
インドネシアでは、外国人や外国法人は土地を所有することはできませんが、その代わりに、一定の期間、事業を実施する権利や、建物を建設及び保有する権利を取得することができます。一般的に、当該権利の有効期間は最大25年または30年に制限されていますが、ヌサンタラ首都庁との契約次第ではあるものの、以下のような長期間有効な権利が与えられる可能性があります:
- 事業権(HGU: Hak Guna-Usaha): 最長95年(更に最長95年の延長可能)(第18条)
- 建設権(HGB:Hak Guna Bangunan): 最長80年(更に最長80年の延長可能)(第19条)
- 使用権(Hak Pakai): 最長80年(更に最長80年の延長可能)(第20条)
(3) 投資ファシリティ
第26条では、投資ファシリティとして以下に分類される財政的および非財政的なインセンティブが提供される旨規定している:
- 中央政府提供のインセンティブ
a) 所得税/Pajak Penghasilan(PPh)、 b)付加価値税(VAT) および/または高級品販売税/Pajak Penjualan Barang Mewah(PPnBM)、 および/またはc)関税に関連するもの
- ヌサンタラ首都庁提供のインセンティブ:
a) 税制優遇措置と特別収入、b) ヌサンタラ市での投資活動実施のための土地とインフラの提供に関連するもの
3. 結論
インドネシアの首都をジャカルタから移転する計画は、ジャカルタの抱える課題(人口過密、交通渋滞、環境悪化など)を主な契機として策定されております。
まだ発表されたばかりではあるものの、GR12/2023は、新首都となるヌサンタラの開発に対する政府のコミットメントを示していると言われています。
首都機能の移転は、あらゆる産業の事業活動に影響を与え得るため、今後も注視する必要があります。特に、ヌサンタラ市への投資を検討されている場合は、今後の開発の動向に加え、インセンティブも含めた新法令の最新情報に留意が必要であり、法的な観点からの専門的なアドバイスを得ることを推奨致します。
[1] GR12/2023は、インドネシアの首都に関する2022年法律第3号(以下「2022年第3号」)の第12条3項の規定に基づきます。同規定は、ヌサンタラ首都庁(又は、Otorita Ibu Kota Nusantara(OIKN)。2022年第3号第3条に基づいて設立)が授権された権利(事業者向けのビジネスライセンス許認可、ビジネス促進策支援、投資ファシリティの付与に関するものであり、同法第12条1項・2項に規定)の詳細については、政令で定める旨規定しています。
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本ニュースレター(2023年4月17日号)
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〇第9回 【マレーシア】「マレーシアにおける仲裁 - アジア国際仲裁センター(AIAC)-」
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弁護士法人One Asia 福岡オフィス
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