2022.05.18
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿/第57回「Wechat にある絵文字を意思表示の証拠とすることができるか」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿/第57回
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『Wechatにある絵文字を意思表示の証拠とすることができるか』
張さんはA 社の委託を受けて設計した商標をWechat でA 社の責任者に送り、「親指を上げた手」の絵文字で返事をもらった後、A 社に対し商標設計報酬の支払を催促した。A 社の責任者からの「親指を上げた手」の絵文字について、張さんは「A 社が商標設計を認めたという意思表示である」と主張し、A 社は「あくまでも張さんの苦労に対して丁寧に返事したに過ぎず、商標設計を認めたという意思表示ではない」と主張し、双方の意見が一致せず、訴訟を起こした。
このようなケースは他に類似例もある。例えば、家主の趙さんはWechat で借主の周さんに対し賃貸借契約の更新を通知し、「太陽」の絵文字で返事をもらったが、周さんは「自分は賃貸借契約の更新を認めていない。「太陽」の絵文字の意思表示は賃貸借契約の更新を認めたと見做したのは家主の主観的な断定である」と主張した。
『分析』:
『民事訴訟法』の規定によると、電子データは証拠の一種である。『<中華人民共和国民事訴訟法>の適用に関する最高人民法院の解釈』第116 条の規定によると、電子データとは、電子メール、電子データ交換、オンラインチャット履歴、ブログ、ミニブログ、インスタントメッセージ、電子署名、ドメイン名などを通して、電子媒体において形成又は保存する情報を指す。それらの規定から見て、絵文字も証拠の一種になり得る。
しかし、人によって絵文字による意思表示に対する理解が異なるため、実務において、まず、絵文字だけである場合、どのような意思を表示するかは人の考え方による主観的なもので、特に一部の絵文字自体は意思表示を伝えられないので、通常、裁判所はそれを事実認定の根拠にしない。
次に、チャット履歴に絵文字と文字が同時に含まれる場合は、通常、裁判所は前後の文脈を踏まえて絵文字の意思表示を判断する。例えば、冒頭の商標設計の判例において、裁判所は最終的に双方のチャット履歴の文脈を踏まえて、「絵文字はA 社が張さんの商標設計の成果を認めたという意思表示ではなく、A 社の丁寧な返事に該当する。」と認定した。
また、裁判所は全体の実態を踏まえて判断する。例えば、賃貸借契約更新の判例において、裁判所は最終的に「借主は賃貸借契約更新の通知を受けた後、「太陽」の絵文字で返事しただけで、契約更新を認めた、又は拒否したという意思を表示できない。借主が占有・使用を継続するか否かの実態によって判断すべきである」と認定した。
以上のことから、今後Wechat を使うときに、紛争を起こさないためには、重要な事項に係る場合は、絵文字だけで意思表示をするべきではなく、文字を同時に使い、自分の意見を明確に伝えるべきである。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員