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2026.09.15

【中国】陳弁護士の法律事件簿/第103回「採用通知後に、企業が採用を取り消した場合、労働者は賠償を請求できるか」NEW
【中国】陳弁護士の法律事件簿/第103回
 「採用通知後に、企業が採用を取り消した場合、労働者は賠償を請求できるか」
 
一、経緯

 A社の営業主管である張さんはキャリアアップを目指し、B社の営業マネージャーに応募した。複数回の面接と厳格な選考を経て、張さんは合格してB社から職位、入社日、賃金待遇などを明記した採用通知書を受け取った後、A社と退職手続を行った。しかし、B社は突然「職位調整により採用人数を減らす」ことを理由に、張さんに採用取り消し通知を出した。この予期せぬ事態により、張さんはA社での職を失っただけでなく、B社に入社することもできないという窮地に陥り、無職・無収入になった。張さんは権利を守るためにB社と協議したが、解決できなかったので、訴訟を提起し、「B社が失業期間中の経済的損失を賠償する」ことを請求した。最終的に裁判所は「B社が張さんに損失を賠償する」旨の判決を下した。
 
二、『分析』

 本件係争の焦点は、雇用企業は正式な採用通知書を発行した後、労働契約を締結する前に、一方的に採用を取り消す権利を有するか否か、労働者の損失に対して賠償責任を負う必要があるか否かにある。

 多くの企業は、応募者と書面で労働契約を締結していない限り、発行した採用通知書は正式な法的効力を持たないと誤認している。実際にはそうではない。中国の民法典には、契約締結前の「契約締結上の過失責任」に係る規定がある。

 契約締結上の過失責任とは、契約締結に向けて交渉・協議する段階で、仮に正式な契約が締結されていないとしても、当事者双方がそのやり取りを通じて信頼関係を築いており、互いに告知、協力、信義誠実の原則に従って約定を履行する付随的義務を負うことを指す。一方の当事者は信義誠実の原則に違反し、相手方の合法的な権益を損なった場合、仮に正式な契約が締結されていないとしても、依然として賠償責任を負う必要がある。これを労働関係に当てはめれば、雇用企業と応募者は将来の労働契約締結に向けて協議する中で、互いに信義誠実の義務も生じる。この信義誠実の義務に違反し、相手方の信頼を裏切った場合、法により法的責任を負うものとする。

 本件において、B社は張さんに対して、記載事項が整備され、内容が明確な正式の採用通知書を発行した。当該採用通知書には職位、入社日、賃金が明記されているので、張さんは採用通知書に記載された期日通りにB社に入社し、B社との労働関係を構築して労働契約を締結できると信じるだけの十分な理由があり、この採用通知書への信頼に基づいてA社を退職するという決定を下した。したがって、張さんの信頼利益は保護されるべきである。しかし、B社は正当かつ合法的な理由もなく一方的に採用を取り消し、民事活動における最も基本的な信義誠実の原則に反したので、法により契約締結上の過失責任を負う必要がある。

 もちろん、いかなる状況でも企業は採用を取り消せないわけでもない。例えば、虚偽の学歴や職務経歴などを提出し、故意に詐欺を働くなど、応募者の過失を証明できる証拠がある場合、当該応募者は法的保護の対象外となる。以上のことから、企業は正式な採用通知書を出す際に、事前に職位設定と人員配置への確認、適性検査などを慎重に実施しておくものとし、職位調整や内部手続のミスなどを理由に、無断で採用を取り消してはならない。先に採用通知書を出し、後から審査を行うことを厳禁する。

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。

[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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