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2025.12.25

【日本】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第34回/「タイ側での留意点」(日本から海外への輸出シリーズ③)NEW
【日本】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第34回/「タイ側での留意点」(日本から海外への輸出シリーズ③)
◇「弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ」は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラル様からのアジア各国の国別情報を進出~撤退までの“シリーズ”で皆様にお届けします。

「日本からの輸出」応用編③(対タイ輸出) −タイ側での留意点−

1.総論

日本からタイに輸出するに際して、日本法における外為法の規制の他に、タイにおける法規制が存在します。
まずは、タイ国内への輸入が禁止されている輸入禁止品目と、タイへの輸入自体は可能であるものの輸入規制が存在する輸入制限品目(要許可品目)の区分があります(下記2・3参照)。
そして、タイ側における輸入規制と通関プロセスの詳解についてご紹介します(下記4参照)。

2.輸入禁止品目と輸入制限品目の詳細

⑴ 輸入禁止品目
特定の品目については、厳格に輸入を禁止(絶対的輸入禁止品目(Negative List))されています。以下の品目(一例をあげています。)は、タイへの輸入が認められません。
知的財産侵害品 偽ブランド品、海賊版DVD/CD等。
商標権侵害物品は税関で没収されている。
電子廃棄物(E-Waste) 使用済みの電子機器、プラスチック廃棄物。
特定の中古品 中古タイヤ、中古の二輪車、車体、中古ディーゼルエンジンなどは、排ガス規制および国内産業保護の観点から禁止されている。
特定薬物・嗜好品 麻薬はもちろんのこと、バラク(水たばこ)および電子バラクまたは電子たばこなど。
ポルノ・わいせつ物品 書籍、映像媒体等。

⑵ 輸入制限品目(要許可品目)
以下の品目などは、関連省庁のライセンスがあればタイに輸入することが可能です。
 
中古機械・設備 工業省の許可が必要。生産ラインの移管などで日本から中古設備を送る場合、性能証明書や残存寿命の評価が必要となる場合がある。
通信機器 無線機能を有する機器(Bluetooth、Wi-Fi搭載機器含む)は、国家放送通信委員会(NBTC)の型式認証および輸入許可が必要。
医療機器 無線機能を有する機器(Bluetooth、Wi-Fi搭載機器含む)は、国家放送通信委員会(NBTC)の型式認証および輸入許可が必要。
仏像・骨董品 芸術局(Fine Arts Department)の許可。文化財保護の観点から厳しく監視されている。
食品・医薬品 加工食品、飲料、サプリメント、医薬品、医療機器、化粧品などについては、FDA(食品医薬品局)などの許可等が必要。
化学物質 洗剤、塗料、工業用化学品、接着剤などについては、DIW(工業省)の許可等が必要。
工業製品 家電、電子機器、鉄鋼、建材、おもちゃ、ヘルメット、タイヤなどについては、TISI(タイ工業規格協会)の許可等が必要。
 
​3.特定品目の規制 (Standard/Safety)

(1)衛生植物検疫措置(SPS):食品・化粧品・化学品の輸入規制
人の健康、動植物の生命、環境等に影響を与える品目については、タイ食品医薬品局(FDA)をはじめとする規制当局が強力な権限を行使することができます。なお、食品の輸入プロセスは、以下のステップで構成されます。

ア.食品輸入ライセンス(Import License)の取得
 輸入者は、まずFDAから輸入業の許可を得る必要があります。
イ.製品登録(Product Registration)
 前記のライセンスを取得後、個々の製品についてFDA登録を行います。その際には、成分表(100%開示)、製造工程図、GMP/HACCP等の衛生証明書、分析証明書(Analysis Report)などの提出が求められる可能性があります。

(2)化粧品規制と禁止成分の罠
通常の必要書類(インボイスなど)およびタイ国食品医薬品局(FDA)化粧品管理部発行の輸入承認書が必要です。また、輸入申告者の事業登録と化粧品の内容申告なども必要となり、タイ国食品医薬品局(FDA)化粧品管理部発行の輸入承認書が必要です。そして、タイ化粧品法に基づき、輸入化粧品は販売前にFDAへの通知が必要であり、製品ラベルにはタイ語表記が義務付けられています。
なお、ASEAN化粧品指令に基づき、タイFDAは禁止成分リストを頻繁に更新しているため、その都度、ご確認ください。また、日本国内では使用可能な成分であっても、タイでは禁止されているケースがあるため、確認が必要です。

(3)有害物質・化学品の4分類
洗浄剤、接着剤、塗料などに含まれる化学物質は、「1992年有害物質法」に基づき、その危険性に応じて4つのカテゴリーに分類され規制されています。
第1種: 「届出」のみ必要。
第2種: 「届出」・「登録」が必要。
第3種: 「届出」・「許可」および「登録」が必要。MSDS(SDS)や詳細な成分情報の提出が求められる。
第4種: 製造・輸入・輸出・所持のすべてが禁止。

(4)技術的障壁(TBT):タイ工業規格(TISI)への適合義務
「タイ工業規格(TISI: Thailand Industrial Standards)」による認証制度が存在します。タイは国内産業保護および消費者保護の観点から、特定の製品群に対して強制的な規格適合を求めています。

ア.強制規格(Mandatory Standards)の対象と範囲
TISI規格には「任意規格」と「強制規格」がありますが、輸出において重要なのは後者です。強制規格に指定された製品は、TISI認証を取得し、製品本体TISIマークを表示しなければ、輸入通関を切ることができず、市場での販売も違法となります。

【主な強制規格対象品目】
対象品目は数百に及び、頻繁に追加・更新されています。以下は代表的な例です。
 
電気用品 エアコン(TIS 2134)、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、炊飯器、アイロン、プラグ・スイッチ類、照明器具(LED含む)、モバイルバッテリー
建材・素材 セメント、強化ガラス、セラミックタイル、PVCパイプ。
自動車関連 安全ガラス、タイヤ、バッテリー、ブレーキパッド、シートベルト、ヘルメット。
日用品・その他 玩具、調理器具、マッチ、消火器、食品用ラップフィルム、乳幼児用ゴム乳首。

イ.認証取得のプロセスとロジスティクス
TISI認証は「製品認証」であり、以下の2つの要件をクリアする必要があります。
■製品試験(Product Testing)
タイ国内のTISI認定試験所、またはMRA(相互承認協定)等で認められた海外試験所でのサンプル試験が必要となります。
■工場検査(Factory Inspection)
TISIの検査官が工場を直接訪問し、品質管理体制の監査を行います。

ウ.認証取得後の監査
TISI認証は一度取得すれば終わりというわけではありません。認証を取得した後に TISI の抜き打ち監査を受けることがあり、対象はランダムに選出されます。不適合が発覚した場合には、認証の取り消しなどもあり、継続的な品質維持が求められています。

4.タイ側における輸入規制と通関プロセスの詳解
貨物がタイに到着した後の輸入通関プロセスは、2017年関税法の下で運用され、同法は1926年関税法を改正したものです。 

(1)電子通関システム(e-Customs)への完全移行と登録要件
タイの通関手続きは、現在「e-Customs」システムを通じてペーパーレスで行われています。日本からの輸出に先立ち、タイ側の輸入者(または通関業者)は、以下の手順でシステム利用登録を完了していなければなりません。

① デジタル証明書(Digital Certificate)の取得
法人の署名権限者は、認証局(Certification Authority)から電子署名用のデジタル証明書を取得する。これにより、システム上での行為が法的な署名と同等の効力を持つこととなります。
② e-Customs利用登録
タイ関税局に対し、K1フォーム等の申請書を提出し、利用者登録を行う。これには、法人登記簿(6ヶ月以内のもの)、VAT登録証、銀行口座証明書、委任状等の提出が必要となります。

(2)リスク管理区分(Green Line vs Red Line)の運用実態
タイ税関は、輸入申告データをリスクプロファイリングシステムにかけ、貨物を自動的に「グリーンライン」または「レッドライン」に振り分けられます。この区分けによって、通関のスピードやコストが変わってきます。
 
区分 概要 手続き内容 指定要因(例)
グリーンライン
 (Green Line)
書類審査
・検査免除
輸入申告データ送信後、即座に関税納付・引取許可。数分〜数時間で完了。 信頼性の高い輸入者(AEO認定等)、過去に違反歴がない、一般的な品目。
レッドライン
(Red Line)
書類審査
・現物検査
詳細な書類提出と、税関職員による貨物の開披検査が必須。数日〜数週間かかる場合も。 新規輸入者、過去の違反歴、ハイリスク品目(食品、スクラップ、中古機)、ランダム抽出。

(3)事前教示制度(Advance Ruling)によるリスクヘッジ
タイ税関におけるトラブルとしては、HSコードの解釈相違による関税追徴があり、これを防ぐために、「事前教示」を申請する制度が存在します。

対象: HSコード分類、関税評価(課税価格の決定方法)。
効力: 書面による回答は、法的な拘束力を持ち、通常2年間等の期間で有効となる。
メリット: 通関時の予見可能性を高め、事後調査での指摘リスクを排除できる。特に新製品や構造が複雑な機械類を輸出する場合は、積極的な利用が推奨される。
 
※ 出典
1.
https://www.customs.go.th/cont_strc_simple.php?ini_content=individual_160426_01&lang=en&left_menu=menu_individual_submenu_03_01
2.
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-030130.html
3.
https://www.diw.go.th/webdiw/wp-content/uploads/2021/07/law-haz-29032535.pdf
4.
https://www.tisi.go.th/website/standardlist/comp_thai/th
5.
https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/trade_05.html
6.
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000A12.html
7.
https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/foods/exportguide/marineproducts.html
8.
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2022/8be8a340d3015aca/202203.pdf
9.
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/attach/pdf/platform-367.pdf
                                             以上
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
    第4回 応用編③「対マレーシア輸出におけるマレーシア側での留意点」に続きます。
【掲載元情報】
弁護士法人マーキュリー・ジェネラル  制作

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