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2025.11.06

【日本】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第32回/「日本側での留意点」(日本から海外への輸出シリーズ①)
【日本】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第32回/「日本側での留意点」(日本から海外への輸出シリーズ①)
◇「弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ」は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラル様からのアジア各国の国別情報を進出~撤退までの“シリーズ”で皆様にお届けします。

「日本からの輸出」基礎編 −日本側での留意点−

1.総論
企業が海外の取引先に貨物・技術を輸出するにあたっては、安全保障の観点から、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」といいます。)等に基づく輸出管理規制を遵守する必要があります。かかる安全保障貿易管理は、海外の取引先との契約で義務として定められることもあり、貨物・技術の輸出を検討している企業にとって必ず検討しなければならない課題です。

2.輸出(国際輸送)の流れ

(1)日本は四方を海に囲まれた島国であり、隣国と国境を接していないため、国際輸送手段は船又は飛行機に限定されます。そのため、貨物の国際輸送は主に以下のフローで行われます(ただし、厳密にはア・キは国内輸送に区分されます)。

ア 売主の工場・倉庫からの搬出
  鉄道・トラック等で輸出港又は輸出空港に輸送されます。
イ 輸出港又は輸出空港への搬入
  貨物は輸出港又は輸出空港の保税地域に搬入されます。
ウ 輸出通関
  輸出者(又は通関業者)が輸出税関に輸出申告を行い、輸出税関の審査・検査を経て輸出許可を取得します。輸出許可取得、貨物は保税地域から搬出され、船舶・航空機に船積み・搭載されます。
エ 海上輸送・航空輸送
  船舶又は航空機によって、日本から輸入国まで輸送されます。
オ 輸入港又は輸入空港への到着
  輸入国に到着した貨物は、船舶・航空機から船卸し・取卸しされ、輸入港又は輸入空港の保税地域に搬入されます。
カ 輸入通関
  輸入者(又は通関業者)が輸入税関に輸入申告を行い、輸入税関の審査・検査を経て、関税・消費税等を納付します。輸入許可後、貨物は保税地域から搬出されます。
キ 買主への引渡し
  鉄道・トラック等で輸入港又は輸出港から買主のもとに輸送されます。

(2)しかし、専門部署を持たない中小企業が、これらの国際輸送を内製化することは現実的ではありません。そのため、通関業者、フォワーダー、商社などの外部業者にアウトソーシングするケースがよく見られます。通関業者は、通関業務サービスを提供する専門業者です。通関士資格を有する専門家が、輸出入の申告、関税計算及び納付、輸出入許可の取得等を行います。
フォワーダーは、通関業務に加えて、他の運送事業者と連携した運送サービス(複数の輸送機関を組み合わせることも珍しくありません)、輸送ルートの調整、梱包・荷役・保管・集配・流通加工等を含む包括的な国際物流サービスを提供します。
港湾地区に特化してサービスを提供するフォワーダーは「乙仲」と呼ばれることもあります。専門商社は、フォワーディングの機能に留まらず、市場調査・市場開拓、在庫管理、海外バイヤーとの契約交渉、輸出管理補助等の多用な機能を組み合わせたサービスを提供します。輸出手続に不慣れな中小企業にとっては、窓口を一元化して一気通貫のサービス提供を受けられるメリットがあります。

3.外為法に基づく安全保障貿易管理

外為法に基づく安全保障貿易管理は、先進国が保有する高度な貨物や技術が、大量破壊兵器等の開発等を行っている国家やテロ組織に渡ったり、通常兵器を過剰に蓄積されるなどの国際的な脅威を未然に防ぐために設けられています。かかる安全保障貿易管理は、大企業のみならず中小企業であっても、輸出者自らの責任において履践する必要があり、通関業者・フォワーダー・専門商社等の外部業者に一任することはできません。

(1)安全保障貿易管理の全体像
ア 安全保障貿易管理は、2つの主要規制から構成されます。軍事転用が懸念される貨物や技術をリスト化して規制する「リスト規制」と、リスト規制の対象外となる貨物や技術であっても輸出先によって補完的に規制する「キャッチオール規制」です。

イ リスト規制の対象品目は、以下のようなカテゴリーに区分されます。軍事的用途に転用される可能性がある民生用の製品も規制対象に含まれています。
① 武器:
鉄砲、爆発物、火薬類、軍用船舶等
② 原子力:
核燃料物質、ウラン・プルトニウム製造用装置、ロボット等
③ 化学兵器:
化学製剤用製造機械装置等
④ 生物兵器:
細菌製剤用製造装置等
⑤ ミサイル:
ロケット・製造装置等、音波・電波・光の減少材料・装置等
⑥ 先端材料:
ふっ素化合物製品、芳香剤ポリイミド製品、潤滑剤、冷媒用液体等
⑦ 材料加工:
各種工作機械、測定機械、ロボット等
⑧ エレクトロニクス:
集積回路、高電圧用コンデンサ、光変調器、半導体等
⑨ 電子計算機
⑩ 通信:
通信用光ファイバー、インターネット通信監視装置、暗号装置等
⑪ センサー等:
水中探知装置等、センサー用の光ファイバー、電子式のカメラ等
⑫ 航法装置:
加速度計等、ジャイロスコープ東、水中ソナー航法装置等
⑬ 海洋関連:
潜水艇、水中用ロボット、回流水槽、浮力材等
⑭ 推進装置:
ガスタービンエンジン、無人航空機等
⑮ その他:
ディーゼルエンジン、催涙剤・くしゃみ剤等
⑯ 機微品目:
電波・赤外線の吸収材、デジタル伝送通信装置、船舶用防音装置等

これらのリストに該当する貨物や技術を輸出・提供する場合には、輸出先・提供先の国・地域がどこであるかにかかわらず、経済産業大臣の許可が必要です。

ウ 一方で、キャッチオール規制では、リスト規制のような対象品目は定められていません。国際的な輸出管理レジームに参加し、厳格な輸出管理を行っているとされている国(通称「ホワイト国」)以外の国・地域を輸出先・提供先とする場合は、食料品や木材等を除くほぼ全ての貨物・技術がキャッチオール規制の対象となります。そして、「客観的要件」または「インフォーム要件」を充足する場合は、輸出許可の申請が必要となります。

① 客観的要件:
輸出者が用途の確認又は需要者の確認を行った結果、(ア)大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵等に用いられるおそれ、又は、(イ)通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがあること。
② インフォーム要件:
経済産業大臣から、(ア)大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵等に用いられるおそれがある、又は、(イ)通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがある、として許可申請すべき通知を受けること。
 
(2) 輸出者等遵守基準
輸出者等は、外為法の定める輸出者等遵守基準に基づき、ガバナンス体制を構築し、輸出管理を行わなければなりません。輸出者等遵守基準は、全ての輸出者等に適用されるものと、リスト規制の対象品目を扱う輸出者に追加適用されるものの2段階からなります。

ア 全ての輸出者等に適用されるもの
① 該非確認責任者の選任
  輸出する貨物や技術が、リスト規制の対象品目に該当するか否かを確認する責任者を定めること。
② 輸出等の業務に従事する者に対する指導
  輸出等の業務に従事する者に対して、最新の法令の周知等、関係法令を遵守させるために必要な指導を行うこと。
イ リスト規制の対象品目を扱う輸出者に追加適用されるもの
① 体制整備
 ・組織の代表者を輸出管理の責任者とすること。
 ・組織内の輸出管理体制(業務分担や責任関係)を定めること。
② 手続整備
 ・
該非確認に係る手続を定めること。
 ・用途確認及び需要者等の確認を行う手続を定め、手続に従って確認を行うこと。用途及び需要者の確認に必要な情報を需要者以外から入手する場合には、信頼性を高めるための手続を定め、当該手続に従って用途及び需要者の確認を行うこと。
 ・出荷時に、該非確認を行った貨物等と一致しているか確認を行うこと。
③ 維持管理
 ・
輸出管理の監査手続を定め、実施するよう努めること。
 ・輸出管理の責任者及び従事者に研修を行うよう努めること。
 ・子会社が輸出者等の輸出等に関わる場合は、当該子会社に対して指導等を行うよう努めること。
 ・輸出等関連文書を適切な期間保存するよう努めること。
 ・法令違反したとき及び法令違反したおそれがあるときは、速やかに経済産業大臣に報告し、その再発防止のために必要な措置を講ずること。
 
(3) 輸出管理手続の実務
ア 輸出者は「リスト規制」「キャッチオール規制」の該当性を判断するため、輸出管理実務では「該非判定」「取引審査」「出荷管理」を適切に履践することが求められます。
① 該非判定:
  輸出する貨物や技術が、リスト規制の対象品目に該当するか否かを判定する手続。
② 取引審査:
  貨物や技術の用途、需要者等の事業内容等から、安全保障上の懸念がないことを確認し、取引を行うか否かを判断する手続。
③ 出荷管理:
  法令で規制されている貨物や技術の誤出荷等を防止するため、輸出や提供を行う前に、同一性等の確認を行う手続。
イ これらの手続を漏れなく効率的に履践するために、社内規程の一種である「輸出管理内部規程」を整備することも有効です。経済産業省もその整備を推奨しており、輸出者が「輸出管理内部規程」を整備して経済産業省に届け出た上、同規程に基づく適切な安全保障貿易管理を実施する等、それぞれの種類の包括許可が定める要件を充たせば、包括許可制度(※リスト規制により経済産業大臣の許可が必要となる場合、一定の範囲の取引について、一括して許可を行う制度。許可の有効期間内(最大3年間)であれば、個別の許可申請は不要となる。)を活用できるなどのメリットを享受することができます。
 
4 その他の留意すべき法令等

日本企業は、輸出を行う際に、外為法を遵守することに加えて、米国の輸出管理規則(EAR)にも留意する必要があります。特に、米国由来の製品や技術を第三国に再輸出する場合や、取引契約によって米国の法律遵守が義務付けられている場合、当該規制の遵守状況の確認が推奨されます。
 
                                             以上

 
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
    第2回 応用編①「対シンガポール輸出におけるシンガポール側での留意点」に続きます。

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